2.思わぬ展開。
「いや、久々に王都へきてみたら馴染みの修繕工房が店仕舞いしててさ」
俺とリーナが出迎えると、来客の男性は困ったように頬を掻いていた。
耳が長く、青い瞳をしている美男子。見たところエルフの男性である彼は、何やら大きな荷物を壁際に置いて語った。馴染みの修繕工房が店仕舞いしていた、というが、彼らの時間感覚と俺たちのそれはかなり異なっている。だからきっと、それは単純な店仕舞いとかではない気がするのだが――あまり深く考えないようにしつつ、ひとまずこう返した。
「すみません。実は俺……この工房の正式な主ではなくて、修繕の依頼も請け負っていないんです」
嘘を吐くわけにはいかない。
仮に困っている相手がいたとしても、安請け合いをするべきではなかった。自分はあくまで、この工房を使用していた者の孫であり、そもそもとして正式な修繕師ですらない。
エルフの男性は何かしらの事情を抱えていそうだが、ここは断るのが筋だった。
「そう、か……いや、しかしどうしたものか……?」
そう思って素直に伝えると、彼は綺麗な顔の眉間に深く皺を寄せる。
腕を組んで長く考え込み始めてしまったのを見て、口を開いたのはリーナだった。
「クレイル様、ひとまず話だけでも聞いてみてはいかがでしょう?」
「話、なぁ……」
機巧少女の言葉に、俺もまた少し考える。
たしかに修繕は請け負えないが、自分なら適した場所を紹介できるかもしれない。これについては幸か不幸か、最低限の力にはなれそうだった。
そんなわけで、
「――分かりました。それなら、話だけでも聞きますよ。修繕の内容次第で、それを得意な修繕師を紹介できるかもしれませんし」
「おぉ、それは本当かい? 助かった、ありがとう!」
こちらがそのように切り出すと、青年は大仰に腕を広げて笑う。
そして、半ば強引に俺の手を握ってこう名乗るのだった。
「僕の名前はルカ・スピナーズ! どうぞ、よろしく!!」――と。
◆
「……なるほど、この絵画の修繕ですか」
「あぁ、そうなんだよ。これは『約束の神殿』に飾られていたものなんだけど、やはり百年ほど経過してしまうと、手入れをしていたとしても傷んでしまうみたいでね……?」
「ふむ……」
ルカさんが取り出したのは、比較的小さな額縁に入れられた絵画。
これが飾られていたという『約束の神殿』とは、いまから百年ほど前、一人の歴史的な修繕師が主導して復元させた古代の遺産だった。曰くそれまで関係の良くなかった人間とエルフが手を取る切欠であり、その誓いの証として大切にされている場所だという。
そんな大それた場所に保管されていたものを直すとしたら――。
「――それこそ、国家レベルの依頼だよな?」
そうでなかったとしても、相当に高名な修繕師に依頼するべき案件だった。
俺はそのことを察し、ひとつ慎重に息をつく。そして、
「ルカさん、申し訳ないです。……俺には、相応しい修繕師への伝手がない」
素直に、力不足であることを認めた。
ここで下手な人物を紹介したところで、歴史的な絵画が喪失されてしまうだけ。だったら然るべき場所で紹介を受けた上で、修繕の依頼をするのが筋というものだった。
俺がそう返すと、ルカさんはしばらく考えた後にこう言う。
「うーん、ちなみにだけど――」
あっけらかんとした口振りで。
「クレイルくんには、修繕できないのかな?」
「…………は?」
俺はその言葉に、思わず間の抜けた声を発してしまった。
だって、そうだろう。この状況や状態で、高名どころか一人前ですらない俺が候補に挙がるなんて、考えすらするわけがなかったのだから。
しかし、ルカさんは至って真面目に話している様子。
その上で彼は一つ、ポンと手を打ってからこう決断するのだった。
「よし、決めた! この絵は、キミに修繕してもらおう!!」――と。
俺はその言葉を耳にして、意味を理解できずにしばし硬直。
だが、事態を把握できた瞬間に――。
「は、はあああああああああああああああああああ!?」
どうしても堪え切れず、そう叫ぶのだった。
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