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縛解師  作者: ネルソラ
3/6

第一話 丁たる(あたる)(3)

 すでに11月だというのに、残暑(ざんしょ)(はなは)だしい。


 ここは茨城県(いばらきけん)某所(ぼうしょ)


 最近は、つくばエクスプレスができたことで、都内から茨城(いばらき)方面に行きやすくなった。


 と言っても、現場はそこそこ田舎でローカル線も乗り継ぐ必要があり、思った以上に時間がかかる。その上、最寄(もよ)りの駅からも結構歩く必要があった。


「あの和菓子屋、まだ残ってるのかあ」


「えっ! あのゲーセン無くなってるじゃん」


 普段は長距離を歩くのも嫌なものだが、久しぶりの地元ということもあって、(なつ)かしさと町並みの変化で、少しウキウキしていた。


 ただ、目的地の廃校(はいこう)に向かうにつれて、町並みが閑散(かんさん)としていく。小さい頃はさほど感じなかったが、都会に住むようになったせいか、余計に(さび)れた感じがするのかもしれない。


 駅前にはまだ人の姿があったが、三十分も歩くと人を見かける回数がグッと減る。


 元々、都市開発の(うわさ)があったものの、一部住民の大きな反対があって、都市開発は隣の駅で行われることになった。その結果、徐々に人が減っていき、商店街はシャッター街になり、この町は時代から取り残されていった。


 だから、人が少ないのは納得はできるが、それにしても人が少なすぎるように思えた。家はあるのだが、人が生活している感じがしないというか、人の気配がほとんどない。


 そして、目的地に近づくにつれて感じるモヤモヤとした嫌な感覚。胸のあたりが、ざわつく⋯。うーん、これはかなーりヤバいかも。おそらくだけど、地縛ってるなと。


 僕はこれまで霊を見たことはない。ただ、霊感的なものはあって、この嫌な感覚は大概(たいがい)当たる。事件があったことは知っていたが、もっと良く調べてから来れば良かったなと少しだけ後悔した。


 歩きながらスマホで調べても良かったのだが、百聞は一見にしかずだ。情報を集めるより、現地に行って実際に見た方が早いだろうと思った。


 そもそも何かが地縛っている場所には、人があまり近寄って来ない。たぶんだけど、人間が無意識に嫌な感覚を感じ取って、近づかないのだろうと思う。


 それは、人間が本来備えている防衛本能的なものなのかもしれない。多かれ少なかれ、人はそういう感覚を持っているのだ。霊感とまではいかなくても。


 ようやく目的地の廃校舎(はいこうしゃ)が見えた。遠目から見ても、一部の壁がボロボロになっていて、長く放置されていたことを感じさせる。小学生だった頃の印象とは、かなり違って見えた。


 廃校舎(はいこうしゃ)に近づくに従って、嫌なモヤモヤが一気に増してくる。


 周囲をざっと確認するが人の姿は見えない。やはり人の気配も感じられない。


 いや、もしかすると潜んでいるのかもしれないとも思った。こういう場所で騒ぐのは厳禁だ。騒げば、何かが来る。何かに襲われる。昔から、そういう言われている。そしてそれは、おそらく正しい。


 と、校門にモノトーンの小綺麗なシャツを来た人が二人組が立っていた。その姿は、閑静(かんせい)な住宅街に似つかわしくないように思える。


 一人はちょっと(いか)つい感じで、服の上からでも筋肉質であることが見て取れた。もう一人は、十代の女性のように見えるが、横にいるマッチョな男性と比較したせいで、そう見えたのかもしれない。実際にはもっと年齢は高いだろうと思った。


「あの〜、中って入れないですかね?」


 僕は二人のうち少し幼い顔をしている女性に声をかける。近くで見ると、より可愛らしさが感じられた。本当にまだ十代かもしれない。


「すいません。今、映画の撮影中で」


 声のトーンが少し高くて、アニメのキャラクターのような印象を受ける。


「あー、そうなんですねぇ」


 柔らかい感じ対応ではあったが、目の奥に真剣さというか、相手を受け付けない意志のようなものを感じた。これはきっと交渉しても無理だろう。こういう感覚は、ライターでいろいろな人に取材してきた経験がいきる。暖簾(のれん)腕押(うでお)しではないが、話すだけ無駄な気がした。


 僕は早々に校門を立ち去ることにする。なぜならば、勝手知ったる我が母校。実は校舎の横側にある雑木林に、校門からは見えない死角があるのだ。


 学校に忍び込むとき、校門に立っている先生を()けたいとき、そして、学校を抜け出したい時に、たまに使っていた秘密のルートである。


 僕は校門の方から見えないことを再度確認し、雑木林にある柵を乗り越え、校舎裏の物置へ向かう。流石(さすが)に堂々と正面から入るのは目立ちすぎる。校門からも丸見えだ。取り押さえられては、痕がめんどくさい。特にマッチョには、どうやっても(かな)わないだろう。


 だから、物置の上から二階へ忍び込もうというわけである。秘密のルートその2である。


 昔は学校から帰る前に、窓の()(がね)を少しズラしておいて、この秘密のルートから校内に侵入したものである。


 窓に鍵がかかっている可能性もあったから、念の為、鍵を外すための針金を持ってきていたが、案の定、廃校ということで窓に鍵はかかっていなかった。想定の範囲内である。


「痛っ」


 少し取っ掛かりとなる部分が小さくて、指を少し切ってしまった。が、大した問題ではないだろう。


 小学生だった当時、結構苦労して必死に校舎に侵入した記憶があったのだが、大人になった今は楽に侵入できた。大人になるのも悪いことばかりじゃない。


 校舎に入ると、さらにモヤモヤとした嫌な感覚が増してくる。やはり何かあることは、間違いなさそうだ。


 ガシャーン!


 校舎内に響く破砕音(はさいおん)。おそらく窓ガラスが割れた音だろう。映画の撮影がまだ続いているのかもしれないと思った。


 うっかり映ってしまったら、僕が霊だと思われるかもしれないなと思いつつ、撮影スタッフに出会わないように十分注意しながら、僕は目的の教室へ向かうことにした。

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