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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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53/53

【53話】言えなかったまま

訓練場に、風が抜ける。


「……遅いなあ」


セリウスは剣を肩に担ぎ、軽く空を見上げた。


約束の時間は、もう過ぎている。


リリアは真面目だ。

遅れるにしても、何も言わず来ないことはない。


「……サボるわけないよね、あの子」


ぽつりと呟く。


胸の奥に、わずかな違和感。


――嫌な感じだ。


「……ま、いいか」


そう言って踵を返す。


向かう先は、一つしかない。


「リリアが来てない?」


アルトリアの部屋。


セリウスの言葉に、空気がわずかに張り詰める。


「訓練の約束してたんだけどさ」


軽く言うが、視線は鋭い。


「時間過ぎても来ないし、連絡もなし」


短い沈黙。


「……部屋を確認する」


アルトリアはそれだけ言って立ち上がった。


廊下を進む。


リリアの部屋に近づくにつれて――


ざわめきが聞こえた。


「で、殿下……!」


侍女たちが慌てて道を開ける。


顔色が悪い。


「何があった」


低い声。


「リリア様が……お部屋にいらっしゃらなくて……」


「中は?」


「確認済みです……その……」


言葉を濁す。


アルトリアは無言で扉を開けた。


部屋は、わずかに乱れていた。


大きな破壊はない。


だが――


不自然な“静けさ”。


抵抗の痕跡はあるのに、音が残っていないような違和感。


「……連れ去られてるね」


セリウスがぽつりと呟く。


軽い口調だが、目は笑っていない。


アルトリアは床を見つめる。


微かに残る気配。


そして――


「……魔力の残滓」


低く呟く。


普通ではない。


これは、ただの誘拐ではない。


「――あ、あの……!」


震える声。


一人の侍女が、その場にへたり込んだ。


「わ、私……」


顔が青い。


視線が定まっていない。


「……どうした」


アルトリアが視線を向ける。


「覚えて、いないんです……」


「何をだ」


「……昨夜のことが……途中から……」


息が荒い。


「気づいたら、朝で……」


震える手で、自分の頭を押さえる。


「でも、夢を……見たんです……」


全員の視線が集まる。


「黒い、影のような……人が……」


空気が、冷える。


「何かを……命じてきて……」


声がかすれる。


「“開けろ”って……」


沈黙。


重い、沈黙。


「……それで?」


セリウスが静かに促す。


「そのあと……思い出せなくて……」


ぽろり、と涙がこぼれる。


「私……何か……してしまったんでしょうか……」


崩れ落ちる。


「……なるほど」


セリウスが小さく息を吐く。


「操られてたっぽいね」


軽く言う。


だが、その声はいつもより低い。


「記憶が曖昧、命令だけ残ってる」


視線を細める。


「結構、質の悪いタイプだ」


アルトリアは何も言わない。


ただ、静かに目を閉じる。


状況は揃った。


これは


――狙われた。


間違いなく、リリアが。


そして


――紋章が。


「アルトリア」


セリウスが呼ぶ。


「どうする?」


短い問い。


試すような声音。


アルトリアは、ゆっくりと目を開けた。


瞳が、冷たく光る。


「……追う」


それだけ。


迷いは、なかった。


「へえ」


セリウスが小さく笑う。


「いいね」


そして、わずかに口角を上げる。


「じゃあさ」


少しだけ、意地悪く。


「今度はちゃんと助けに行くんだ?」


ほんの一瞬。


空気が止まる。


アルトリアは答えない。


ただ――


拳を、わずかに握り締めた。


胸の奥に浮かぶのは


最後の言葉。


距離。


すれ違い。


何も伝えなかったままの、あの時間。


(……遅い)


心の中で、呟く。


それでも。


「……必ず、見つける」


静かに言う。


今度は、誰にも聞かせるためではなく。


自分に刻むように。


その頃。


遠く離れたどこかで。


微かな光が、脈打っていた。


――紋章が。


静かに、呼応していた。

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