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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【52話】少しずつ前に

訓練場に、金属音が響く。


乾いた音。軽い衝撃。すぐに弾かれる。


「だから、力入れすぎだって」


呆れたような声と同時に、私の剣はあっさりと逸らされた。


体勢が崩れる。


追撃は来ない。


「……もう一度、お願いします」


「はいはい。真面目だねえ」


軽い調子で構え直すセリウスは、やはり余裕そうだった。


踏み込む。


今度こそ、と意識する。


力を抜いて、速く。


――でも。


「遅い」


次の瞬間、視界が反転する。


足を払われ、地面に叩きつけられた。


「っ……」


「ほらね」


上から覗き込まれる。


「剣はまだ早いって言ったでしょ」


悔しさで、言葉が出ない。


分かっている。


分かっているのに、何もできない。


「で?」


手を差し出される。


「今日は魔法やるんでしょ?」


その手を取り、立ち上がる。


「……はい」


深く息を吸う。


胸の奥に意識を向ける。


あの感覚。


流れるような、熱のような。


「アルトリアのこと考えてみなよ」


軽く言われる。


「その方が出やすいでしょ」


――少しだけ、胸が痛む。


でも。


目を閉じる。


思い浮かぶのは、彼の背中。


守るために立つ姿。


遠ざかっていく距離。


……違う。


私は、そこに立ちたい。


その隣に。


胸の奥が、じわりと熱を帯びる。


手を前に出す。


押し出すように。


ふわり、と空気が揺れた。


「お、出た」


セリウスが少しだけ目を細める。


「その調子でもう一回」


頷く。


繰り返す。


今度は、さっきよりも意識して。


流れを辿るように。


押し出す。


揺れる。


ほんの少しだけ、さっきより強い。


「うん、ちゃんと成長してる」


軽く言う。


「でもまあ――」


「戦闘で使えるレベルではないね」


「……はい」


分かっている。


これはまだ、“何か”でしかない。


力とは呼べない。


「焦らなくていいよ」


珍しく、少しだけ優しい声。


「君のそれ、多分だけど普通じゃないから」


普通じゃない。


それが良い意味なのか、悪い意味なのかは分からない。


「まあ続ければ形にはなるよ」


いつもの調子に戻る。


「多分ね」


「……多分、ですか」


「保証はないけど?」


笑う。


でも、その軽さが少しだけ救いだった。


もう一度、手を前に出す。


繰り返す。


うまくいかない。


それでも。


少しずつ、何かが近づいている気がする。



その様子を、離れた場所から見ている影があった。


アルトリアは、足を止めたまま動かなかった。


視線の先。


リリアとセリウス。


剣を交え、言葉を交わし、そして――笑っている。


自然な距離。


遠慮のないやり取り。


訓練だと、分かっている。


頭では理解している。


それでも。


「……」


面白くない、と思った。


理由は分かっている。


自分が距離を取っているからだ。


巻き込まないために。


危険から遠ざけるために。


それが正しいと、分かっている。


だから。


何も言う資格はない。


……ないはずなのに。


視線が離れない。


リリアが笑う。


セリウスが何か言う。


また笑う。


その光景が、妙に胸に引っかかった。


「……」


アルトリアは、静かに視線を逸らした。


そのまま、何も言わずにその場を離れる。


足音は、やけに静かだった。



訓練が終わる頃には、体は限界に近かった。


「今日はここまでにしとこっか」


セリウスが軽く手を振る。


「無理しても意味ないし」


「……ありがとうございました」


頭を下げる。


「いいよいいよ。楽しかったし」


くすりと笑う。


「またやろうね」


その言葉に、小さく頷く。


――楽しかった。


悔しさはある。


でも、それだけじゃない。


確かに前に進んでいる感覚があった。


それが、少しだけ嬉しかった。


廊下を歩く。


ふと、足が止まる。


前方に、見慣れた背中があった。


「……アルト」


思わず声をかける。


彼は、ゆっくりと振り向いた。


「……リリアか」


静かな声。


感情は、あまり見えない。


「訓練を、していました」


「そうか」


短い返事。


それだけ。


少しだけ、間が空く。


何か言おうとして、言葉が出てこない。


「……兄上と一緒に、か」


ぽつりと落ちる言葉。


「はい。魔法の練習を」


「……そうか」


また、それだけ。


会話が続かない。


以前なら、もう少し何かあったはずなのに。


「……危険なことはするな」


やがて、それだけ言う。


視線は、どこか遠い。


「危険なことは、私がやる」


線を引くような言葉。


それ以上、踏み込ませない声音。


「……はい」


分かっている。


彼なりの優しさだということも。


でも。


それでも。


「では、私はこれで」


それ以上言えず、頭を下げる。


すれ違う。


そのまま、振り返らない。


振り返れない。


部屋に戻り、扉を閉める。


静寂。


胸に手を当てる。


少しだけ、痛む。


「……違う」


小さく呟く。


このままでは、駄目だ。


守られているだけでは、届かない。


今日の訓練で、はっきりした。


私はまだ弱い。


剣も通じない。


魔法も、形になっていない。


それでも。


「……それでも」


目を閉じる。


あの感覚を思い出す。


胸の奥の、熱。


確かにあったもの。


「……強くなります」


静かに、誓う。


彼に守られるだけの存在ではなく。


隣に立てるように。


――アルトの、力になれるように。

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