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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【49話】試される力

オルディンの家を出た頃には、空は薄紫に染まり始めていた。


手配していた馬車が街道脇で待っている。

年配の御者が帽子を取り、穏やかに会釈した。


「王都までですね。日が落ちる前には着きますよ」


アルトが短く頷き、私を先に乗せる。


馬車はゆるやかに走り出した。


揺れに合わせて、胸元に触れる。

紋章は静かだ。けれど、眠っているだけ。


向かいに座るアルトが、わずかに視線を落とす。


「……先ほどの力、負担はないか」


「大丈夫です」


本当だった。

疲労よりも、不思議と安定感のほうが強い。


その時。


馬が突然いななき、急停止した。


車体が大きく揺れる。


「な、なんだ……!?」


御者の声が震える。


前方の空間が、歪んだ。


空気が裂けるような音。


黒い亀裂が縦に走り――


“落ちてきた”。


石畳を砕きながら、巨体が着地する。


黒い外殻。歪んだ骨翼。仮面のような顔。


赤い眼が、ゆっくりとこちらを向く。


瘴気が、重く沈む。


「……冥殻竜ガルヴァディウス」


アルトの声が低く落ちる。


本来は北方瘴気地帯にのみ出現する災厄級。


騎士団規模で討伐する存在。


御者が蒼白になり、後退る。


「ひ……っ、逃げ……!」


「動くな!」


アルトが鋭く制する。


「馬を暴れさせるな。合図があるまで待て」


言葉には、王族としての命令の力があった。


彼はすでに扉を開け、地に降りている。


「中にいろ」


本来なら、そうするべきだ。


でも――


私は馬車を降りた。


「リリィ!」


「ここにいます」


彼の斜め後ろ。


そこが、一番流れが整う。


ガルヴァディウスが咆哮した。


黒い衝撃波が放たれる。


その瞬間。


白金の紋章が強く発光する。


意識はしていない。


ただ――一緒にいる。


それだけで、重なる。


アルトの剣が白金に染まる。


同時に、地面に円陣が展開した。


馬車と御者を包む守護陣。


衝撃波が逸れる。


石片が弾かれる。


御者が息を呑む。


「ひ、光が……」


私の視界が変わる。


魔物の外殻に、薄い継ぎ目が線となって見える。


「右前肢、三枚目の装甲の下!」


声が自然に出る。


アルトが迷わず踏み込む。


本来なら届かない距離。


だが白金の光が、彼の動きを“最適化”する。


最短軌道。


無駄のない加速。


剣が、正確に継ぎ目を裂く。


黒い血が飛ぶ。


魔物が尾を振るう。


「一歩下がってください!」


彼が即座に従う。


尾撃が陣に逸らされ、地面を砕く。


連携ではない。


合わせようとしていない。


ただ、重なっている。


アルトが跳躍する。


白金の光が刃を包む。


「終わらせる」


静かな声。


首の付け根へ。


光が、走る。


黒が裂け、巨体が崩れ落ちた。


街道に静寂が戻る。


瘴気が薄れ、紋章の光もゆっくり沈む。


御者が、震える声で呟いた。


「い、今のは……?」


アルトが振り返る。


一瞬、迷い。


それから静かに言う。


「見なかったことにしてほしい」


命令ではない。

だが、拒めない声音。


御者は深く頷いた。


私は崩れた地面を見る。


そこに残る、黒い魔法陣の痕跡。


「……転移です」


自然発生ではない。


誰かが、呼んだ。


アルトの瞳が鋭く細まる。


「試されたな」


共鳴の力。


それを知る者がいる。


私は、そっと彼の袖を掴む。


守る覚悟は、まだない。


でも、隣に立つことはできる。


「帰りましょう」


馬車に戻る。


御者は震えながらも手綱を握り直す。


車輪が再び回り始める。


夕闇が深くなる街道で、私は思う。


今日、私たちは初めて“力を使った”。


そしてきっと――


誰かが、それを見ている。

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