【48話】呪いから力へ
書庫の空気が、ぴんと張りつめた。
私とアルトの指が、無意識のまま絡まっている。
「……いいぞ、このまま続けろ」
オルディンの声が低くなる。
「何も守ろうとするな。何も背負おうとするな。ただ、“互いを感じろ”」
難しいことを言われているのに、
なぜか、さっきよりも怖くない。
私は目を閉じた。
アルトの呼吸。
鼓動。
迷い。
そして――静かな優しさ。
それらが、波のように流れ込んでくる。
次の瞬間。
首元の紋章が、はっきりと光った。
銀でも紫でもない、
淡い白金の光。
「……っ!」
アルトが息を呑む。
彼の気配が、急に澄んだ。
重さが消えたような、
研ぎ澄まされた刃のような静けさ。
「剣を」
オルディンが叫ぶ。
アルトが腰の剣を抜く。
その刃に、光が走った。
けれどそれは鋭さではない。
――包むような光。
剣を構えた彼の周囲に、薄い膜のようなものが広がる。
「防護……いや、違う……」
オルディンが震える声で呟く。
「これは、強化だ」
私は、はっきりと分かった。
アルトの剣の“守る意志”が、形を持っている。
同時に。
私の視界が、少しだけ変わった。
空気の流れが、線になって見える。
力の流動。
剣の軌道。
どこが最も安全で、どこが危ういか。
「……分かります」
思わず声が出る。
「どこに立てば、彼の剣で一番守れるか」
アルトが、こちらを見る。
「何を、見ている?」
「流れです」
自分でも驚くほど、冷静な声だった。
「あなたの力が、どこへ広がるか。どこに立てば、重ならないか」
私は一歩、横に動く。
その瞬間。
剣の光が、より安定した。
膜が厚くなる。
「はは……!」
オルディンが狂喜する。
「同調強化だ!二人が干渉するのではない、補完し合っている!」
アルトは、ゆっくり剣を下ろした。
光が消える。
でも、胸の奥の温かさは消えない。
「……私は強くなったのか?」
彼が静かに問う。
私は、首を横に振る。
「いいえ」
少しだけ、微笑んだ。
「あなたは、もともと強いです」
そして、言葉を続ける。
「でも今は――一人の強さではありません」
守る力を、最大限に引き出す。
支えられることで、さらに伸びる。
それが、私たちの紋章の本質。
「共鳴が進めば、さらに段階があるだろうな」
オルディンが、にやりとする。
「だが覚えておけ。この力は“信頼”が揺らげば崩れる」
静かに、アルトが私を見る。
「揺らぐことはない」
即答だった。
胸が、また小さく鳴る。
私はまだ、守る覚悟を持っていない。
ただ隣にいるだけ。
けれど――
それで力になるのなら。
それなら、私はこのままでいいのかもしれない。
白金の紋章が、淡く瞬いた。
王家が“呪い”と呼んだ力は、
今、確かに目を覚ました。




