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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【47話】実践

地下室の奥の部屋に通された私たちの間には、奇妙な沈黙が落ちていた。


……いや、正確には。

沈黙しているのは、私とアルトだけだった。


「よし! では次だ次!」


オルディンは、地下書庫から抱えてきた本を地面に積み上げ、目を輝かせている。


「文献によればな、王家の紋章を持つ者は――」


ぱらぱらとページをめくり、


「『手をつないだ状態で十歩歩くと、魔力の流れが安定する』」


「……歩くだけ?」


「うむ!」


私とアルトは顔を見合わせた。


「……訓練、だよね?」

「そう書いてあるなら、やるしかないか」


仕方なく手をつなぐ。


十歩、歩く。


……何も起きない。


「よし! 次!」


オルディンは満足そうに頷き、別の本を開く。


「『背中合わせになり、同時に深呼吸を三回』」


「それ、意味あるんですか?」

「知らん! だが書いてある!」


言い切られた。


背中合わせになると、アルトの体温がじんわり伝わる。


「……近い」

「訓練なのだから仕方ない」


深呼吸、三回。


……やっぱり何も起きない。


「次!」

「まだあるんですか……」


「もちろんだ!」


次々と繰り出される内容は、


同時に同じ言葉を言う

目を閉じて五秒間、相手を思い浮かべる

円を描くようにぐるっと回る


どれも、訓練というより遊びだった。


「……これ、本当に大丈夫な文献ですか?」


思わず聞くと、オルディンは即答する。


「知らん!片っ端から試しているだけだ!だがこういうのほど、案外核心を突いておる!」


核心……?

私とアルトは、半ば呆れつつ、半ば楽しみながら言われた通りに動く。


「……なあ、リリィ」

「なに?」


「これ、訓練終わる頃には自然に距離近くなってるやつだな」


「……気づくの遅い」


そう言うと、アルトは小さく笑った。


ひと通り試し終えたあと、私はため息をつく。


「オルディンさん。さすがに、もう少し真面目なものを……」


「ん?」


その瞬間だった。


オルディンが、ぴたりと動きを止めた。


「……ああ」


何かを思い出したように、目を見開く。


「そういえば……一冊だけ、後回しにしておったな」


「?」


「ちょっと待っておれ!」


そう言い残すと、老人とは思えない速さで走り去っていく。


「……元気だな」

「本当に」


数分後。


オルディンは、埃まみれの分厚い本を抱えて戻ってきた。


「これだ!“紋章共鳴実践録・失敗例多数”!」


「不穏なタイトルですね……」


「安心せい!何か分らんがこれならいける気がするぞ!」


ページを開き、指でなぞる。


「『二人同時に紋章へ意識を集中し、片方がもう片方を“守る”と強く思うこと』」


私とアルトは、同時に息をのんだ。


「……それ、さっきからずっとやってない?」


アルトの言葉に、オルディンは満面の笑みを浮かべる。


「だからこそ、確認するのだ!」


私たちは向かい合い、手を取る。


意識を、深く――。


その瞬間。


胸の奥が、かすかに熱を帯びた。


今までとは、明らかに違う感覚。


「……アルト」

「ああ。感じる」


何かが、静かに動き始めていた。

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