【46話】紋章学者の地下書庫
更新が途絶えてしまい、申し訳ありません。
私生活の都合でしばらく執筆できていませんでしたが、
本日より少しずつ更新を再開していきます。
老人は、胸を張って名乗った。
「わしの名は――オルディン!この国でも、この世界中を探しても、紋章について“正気で”研究しておる者は、そう多くはないぞ!」
正気で、という部分を妙に強調するあたり、少し不安になる。
オルディンは私たちの反応などお構いなしに踵を返すと、家の奥へとずんずん進んでいった。
「さあさあ、立ち話など時間の無駄じゃ!来い、来い!本物の“知”を見せてやろう!」
床の一部を持ち上げると、そこには地下へと続く階段が現れた。
降りた先――
思わず、息を呑む。
「……すごい」
壁一面、いや天井近くまで、ぎっしりと並ぶ古書、古文書、羊皮紙。
年代も言語もばらばらで、試しにめくってみると私たちのものとは違う紋章が描かれたページが無数にある。
圧倒されて立ち尽くす私たちを見て、オルディンは満足そうに笑った。
「ふぉっふぉっふぉ!そうじゃろう、そうじゃろう!記録に残らぬ紋章も、ここに集まる!」
そして、急に真剣な目になる。
「さて……本題じゃな」
オルディンはアルトの方をじっと見つめる。
「お主の紋章。あれはな――力が強すぎた」
「強すぎた……?」
思わず、アルトの方を見る。
アルトもまた、眉をひそめてオルディンを見ていた。
「紋章というのは、本来“器”に合わせて刻まれるものじゃ。だが、お主のそれは……器の成長を待つ前に、力だけが先に形を持った」
オルディンは、身振り手振りを交えながら、やけに楽しそうに語り出す。
「暴走の記録、呪いと呼ばれてきた現象……あれらはすべて、不完全な状態で力を使おうとした結果じゃ!」
アルトリアの暴走。
“呪われた血”と噂されてきたこと。
それらが、ただの誤解だったとしたら――。
「では、今は……?」
アルトが低く問いかける。
オルディンは、にやりと笑った。
「安心せい。今は、すでに“完成形”に近い」
「完成形……?」
「そうじゃ!紋章は安定し、器も整っておる。今の状態であれば、暴走はまず起きん」
その言葉に、胸の奥に溜まっていた何かが、すっと溶けていくのを感じた。
私は、気づけば小さく息を吐いていた。
「……よかった」
アルトが、そっと私の手を握る。
その温もりが、確かな現実として伝わってきた。
オルディンは、その様子を見て、さらにテンションを上げる。
「ふぉっふぉっふぉ!だがな、ここからが面白いところじゃ!」
……嫌な予感がする。
「その紋章の力を最大限に発揮したいだろう?いや、返事を聞くまでもないな」
好奇心に満ちた目をしながらこちらを見る。
嫌な予感がし、私は首を横に振り、アルトが私の手を握る。
オルディンは、分厚い一冊の本を引き抜きながら、楽しそうに告げた。
「さあ、実践訓練といこうじゃないか」
不安な気持ちの中、謎の訓練が始まった。




