【45話】変わり者の噂
目を覚ました瞬間、違和感があった。
――視線を感じる。
そう思ったときには、もう遅かった。
視界の先、すぐそこにアルトの顔がある。
しかも、じっとこちらを見ている。
「…………」
「…………」
数秒、無言。
「……アルト」
「っ!」
名前を呼んだ瞬間、彼は明らかに動揺した。
「お、起きていたのか」
「ええ。……いつから見てたの?」
問いかけると、アルトは視線を逸らす。
「……少し前から」
「少しって、どのくらい?」
「……その、目を開ける前から」
じわ、と頬が熱くなる。
「な、何をしていたの?」
「……寝顔を、確認していた」
「確認?」
「……無事かどうか」
言い訳のようで、でも真剣で。
可笑しくて、恥ずかしくて、私は思わず視線を逸らした。
「……今度は、私が見ていい?」
「だ、だめだ」
即答だった。
結局、二人とも顔が赤いまま朝を迎えることになった。
朝食の後、街で聞き込みを始めた。
王家の紋章について。
共鳴する、二つの紋章について。
けれど――
「聞いたことはないなあ」
「王家の話? ここじゃ分からんよ」
「そんな珍しいものなら、学者が知ってるんじゃないか?」
どこも同じ反応だった。
諦めかけたころ、露店の店主がぽつりと言った。
「……ああ、紋章かどうかは知らんが」
「?」
「街の外れに、変なじいさんがいる。古い話ばかりして、誰も相手にしないが……そういうのなら、あの人が知ってるかもしれん」
アルトと顔を見合わせる。
「行ってみよう」
「ええ」
教えられた家は、街外れの小道の先にあった。
古く、傾いた家。
人の気配は、ある。
「……本当に、ここ?」
「たぶん」
一歩、敷地に足を踏み入れた、その瞬間だった。
――バンッ!
勢いよく扉が開き、中から人影が飛び出してくる。
「いたああああ!!」
「えっ?」
「なっ――!?」
白髪で、背は低く、目だけが異様に鋭い老人。
「来たな!? 来ただろう!?ああ、やっぱりだ! この気配……!」
老人は一直線にこちらへ向かってきた。
「ちょ、ちょっと待っ――」
「どこだ!? 見せろ!!」
次の瞬間、私は息を呑んだ。
老人の視線が、服の上から、正確に首元を捉えている。
「……あった」
ぐい、と布の上から指を押し当てられた瞬間。
紋章が、熱を持った。
アルトのほうからも、同じ気配が伝わってくる。
「あの文献に載っていた通りだな……」
老人は、震える声で笑った。
「“王家の紋章”。生きているうちに見ることが出来るとは……」
私とアルトは、同時に息を吸った。
――やっと、辿り着いた。




