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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【44話】馬車は王都を離れて

馬車が動き出してから、どれくらい経っただろう。

窓の外を流れていく景色が、少しずつ王都のものではなくなっていく。


「……本当に、出てきちゃったのね」


思わず零れた言葉に、アルトがこちらを見る。


「後悔しているか?」

「いいえ」


自分でも驚くくらい、即答だった。


「不思議なくらい、落ち着いているの。アルトと一緒だから、だと思う」


言ったあとで、少し恥ずかしくなって視線を逸らす。

けれど、アルトは困ったように、でも柔らかく笑った。


「その顔……ずるいな」


簡素な馬車は、王族用のものよりずっと狭い。

揺れるたびに、肩が触れる。


そのたび、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「……アルト」

「どうした?」


「紋章、少し……温かくない?」


私は無意識に首元へ手をやった。

アルトも同じように、自分の胸元に意識を向ける。


「……ああ。確かに」


怖さは、ない。

あのときのような不安もない。


ただ、心臓の鼓動と同じリズムで、静かに脈打つ感覚。


「嫌な感じじゃ、ないね」

「私もそう思う」


視線が合って、すぐに逸らす。


「……近いな」

「馬車が揺れるんだもの」


そんなやり取りが、少し可笑しくて。

気づけば、二人で小さく笑っていた。


日が傾いたころ、馬車は小さな街に入った。


街道沿いの、素朴な宿。

変装している以上、部屋が一つなのは仕方がない。


「……一部屋、だな」

「問題ないよね?」


そう言うと、アルトは一瞬考え込んでから、


「私が床で――」

「だめ」


反射的に遮ってしまった。


「今さら距離を取るほうが、不自然だもの」


自分で言っておいて、少し胸が高鳴る。

アルトは観念したように頷いた。


「……分かった」


夜。

灯りを落とした部屋で、私は寝台に腰掛けていた。


静かすぎて、呼吸の音まで聞こえてしまいそうだ。


ふと、胸の奥がちくりとした。


「……アルト」

「どうした?」


「今、私……誰かに触れられたみたいな感覚があって。でも、ここにいるのはアルトだけでしょう?」


アルトはゆっくり頷いた。


「……私も、同じだ。君の気配が、急に近くなった気がした」


その瞬間、首元が淡く光った。


熱が、胸の奥から広がる。


「……これって」

「感覚が、繋がっている……?」


言い切る前に、光はすっと消えた。


部屋に、静寂が戻る。


「……やっぱり、何か変わってるわね」

「そうだな。でも――」


アルトは、こちらを見て微笑んだ。


「悪い変化ではない」


その言葉に、胸の奥が少し軽くなる。


外では、風が街道を吹き抜けていた。


この旅は、まだ始まったばかり。

けれど――もう、戻るつもりはなかった。

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