【43話】紋章の謎を知るもの
セレモニーから数日。
国中が祝いの余韻に包まれていたが、私の胸中は落ち着かなかった。
――あの光。
――王家の紋章の“共鳴”。
女王の私室で、私は静かに切り出した。
「母上。あの紋章について、何かご存じではありませんか」
女王は一瞬だけ目を伏せ、それから小さく息を吐いた。
「……正直に言うわ。私自身、詳しくは知らない」
「母上でも?」
「ええ。王家の記録にある紋章は“単独”のものばかり。それでさえも記録がほとんど残されていないのに、二人で共鳴する例なんて見たことないわ」
女王は窓の外――遠くの空を見る。
「ただ……知っているかもしれない人物はいるわ」
「それは……」
「昔、王家の紋章を研究していた者よ。今は王都を離れ、辺境で暮らしているはず」
迷わなかった。
「その方に、会いに行きたいと思います」
女王はゆっくりとこちらの方を見る。
「……リリアも連れて?」
「はい」
一瞬の沈黙。
だが女王は、静かに微笑んだ。
「そう言うと思ったわ。あなたはもう、一人で背負う子ではないものね」
許可は、すぐに下りた。
部屋を出た後、たまたま歩いていたリリアを呼び止めた。
「リリィ、話がある」
「どうしたの?」
真剣な表情に、リリアも背筋を正す。
「紋章のことだ。知っているかもしれない人物が、王都の外にいるらしい」
「……行くの?」
「ああ。二人で」
一瞬だけ、リリアの瞳が揺れた。
だがすぐに、決意を宿した色に変わる。
「一緒に行く。アルトだけに任せる理由、もうないもの」
私は少しだけ照れくさく、目をそらし言った。
「ありがとう」
出発は、翌朝。
王族としてではなく、ただの旅人として。
簡素な服装。
目立たない色合いの外套。
「……変装、似合ってる」
「リリィもだ。……少し、近すぎるな」
フードを被ると、自然と距離が縮まる。
「仕方ないでしょ」
「分かっている」
そう言いながら、どこか嬉しそうなのを隠しきれていない。
城門を抜け、馬車に乗り込む直前。
一度だけ王城を振り返った。
そして、隣に立つリリアを見る。
「行こう、リリィ」
「うん、アルト」
私たちを乗せた馬車は、静かに王都を離れていった。
――この旅が、
自分たちの運命をさらに動かすとも知らずに。




