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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【42話】セレモニー

セレモニー当日。


王宮の回廊は、朝から慌ただしかった。

人の気配、衣擦れの音、遠くから聞こえるざわめき。すべてが、今日という日を意識させる。


控室の扉が、静かに開く。


「……」


先に言葉を失ったのは、アルトだった。


正装に身を包んだ彼は、いつもより背筋が伸び、王子としての輪郭がはっきりしている。

けれど、その視線は、完全に私に釘付けだった。


「……リリィ」


呼ばれただけで、胸が跳ねる。


私も、同じだった。


白を基調にしたセレモニー用のドレス。

装飾は控えめなのに、光を受けて柔らかく映える。


「……アルト」


名前を呼ぶと、彼はようやく我に返ったように小さく咳払いをした。


「その……とても、お似合いです」


「ありがとうございます。アルトも……」


言葉を探す。


「……見とれてしまいました」


一拍。


アルトの耳が、分かりやすく赤くなった。


「それは、こちらの台詞です」


距離が、自然と縮まる。


触れてはいないのに、気配だけで近い。


「公の場では、気をつけないといけませんね」


「……はい」


そう言いながら、どちらも一歩も離れない。


「……終わったら」


アルトが小声で言う。


「少しだけ、二人で話せる時間を」


「約束です」


その瞬間。


「はいはい、そこまで」


明るい声と共に、扉が開いた。


「いやあ、若いねえ」


セリウスが、呆れ半分、面白半分の顔で立っていた。


「控室で世界作らないでくれる? もうすぐ本番だよ?」


「兄上……」


「もう少しで扉閉め直すところだった」


「それは困ります」


私は思わず笑ってしまう。


「時間です。ほら、切り替え切り替え」


ぱん、と手を叩くセリウス。


「今からは“国民向けアルトリア”と“未来の王家の令嬢”だ」


その言葉に、アルトは一度深く息を吸い、表情を整えた。


「……行きましょう、リリア・エルヴァイン」


呼び方が変わる。


私も、背筋を伸ばした。


「はい、アルトリア様」


広場には、多くの国民が集まっていた。


ざわめきが、二人の姿を認めた瞬間に静まる。


アルトリアが一歩前に出る。


張りのある、よく通る声。


「国民の皆様。本日はお集まりいただき、感謝します」


呪いの噂。

距離を置かれてきた第3王子。

それらを知る者たちが、固唾を呑んで耳を傾ける。


「私はこれまで、多くを語らずにきました。語る資格がないと、思っていたからです」


一瞬、間を置く。


「しかし今日、皆様に伝えるべきことがあります」


隣に立つ私を、ちらりと見る。


「私は、リリア・エルヴァインを、正式な婚約者として迎えました」


どよめき。


「彼女は、私の呪いを恐れず、逃げず、共に立つことを選びました」


声は、揺れない。


「私は王子として、そして一人の人間として、彼女を守ることを誓います」


広場に、拍手と歓声が広がる。


次に、視線が私へ向けられた。


一歩前に出る。


「……皆様」


少しだけ、喉が渇く。


「私は、リリア・エルヴァインと申します」


深く、一礼。


「アルトリア様と共に歩むことを、自らの意思で選びました」


顔を上げる。


「不安がないと言えば、嘘になります」


正直な言葉に、空気が揺れた。


「けれど、それ以上に……信じたいと思いました」


隣に立つ彼を、まっすぐ見る。


「この方となら、どんな未来でも向き合えると」


一拍。


「どうか、温かく見守っていただければ幸いです」


再び、礼。


拍手と歓声が、先ほどよりも大きく響いた。


その時、二人の王家の紋章が、まるで呼応するように強く輝き始めた。


「なんだ……?」

「予定にあったか、あれは……?」


ざわめきが広がる。


一瞬、視界が白く染まり、体の奥から何かが溢れ出そうになる。

力。強く、制御しきれない何か。


だが――


「大丈夫だ、リリィ」


アルトの声が、はっきりと届いた。


こちらを見るその瞳は揺れていない。

ただ、信じていると伝えてくる。


深く息を吸い、力を内側へと押し戻す。


光は、ゆっくりと収まっていった。


「……失礼」


アルトは一拍置き、国民へと視線を向ける。


「今の光は、王家の契約が正しく結ばれた証。我々二人が、この国と共に歩む意思に応えたものだ」


迷いのない声に、広場は次第に落ち着きを取り戻していく。


そしてセレモニーが終わり、控室へ戻る途中。


「……あの」

「うん?」


「さっきの、怖くなかったかですか」

「少し。」


アルトは小さく笑った。


「でもリリィが隣にいたから、大丈夫だった」


胸の奥が、じんと熱くなる。


遠くで、セリウスの呆れた声が聞こえた。


「……本当に、国を背負う覚悟があるのか疑わしいな」


でも、その声はどこか安堵していた。


――これで、もう後戻りはできない。


それでも。

隣にアルトがいるなら、きっと大丈夫だ。


公の場。

けれど、確かにそこにある“二人”の距離。


セレモニーは、こうして幕を開けた。


王子と、その婚約者として。

そして――同じ王家の紋章を持つ者として。

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