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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【37話】剣の向き

訓練場に、一人だけ先客がいた。


「……何を始めるつもりだ?」


壁際で休憩していたレオンハルトが、こちらを見て言う。

視線は鋭いが、止める気はなさそうだった。


「ちょっとした確認作業だよ」


セリウスが軽く手を振る。


「納得できないらしくてさ」


その言葉に、ノエルは一歩前に出た。


「姉上への理解が足りなかった点については、とやかく言いません」

「ですが——剣を持ったときも同じかどうかは、別です」


差し出された木剣を、アルトリアは一瞬だけ見つめたあと、受け取った。


「……分かりました」


構えたノエルの姿勢は、非の打ちどころがなかった。

教本通りで、無駄がない。


対して、アルトリアの構えはどこか静かだ。

洗練されているとは言いがたい。けれど——


「始め」


合図と同時に、ノエルが踏み込む。


速い。

正確で、迷いがない。


アルトリアは正面から受けず、剣をずらした。

力で競らない。

距離を測り、次の動きを見る。


(……)


私は、思わず息を詰めていた。


剣がぶつかる音が、何度も響く。

ノエルは攻め続ける。

勝つための動き。正しい選択。


だが、アルトリアは——

常に「次」を残している。


踏み込みすぎない。

追いすぎない。


そして、ノエルが一瞬、踏み込みを深くしたとき。


——その隙だけを、逃さなかった。


剣先が弾かれ、

次の瞬間、アルトリアの木剣がノエルの胸元で止まる。


「……」


沈黙。


「そこまでだ」


レオンハルトの声は、低く落ち着いていた。


ノエルは剣を下ろし、ゆっくり息を吐く。


「……技量では、互角だったはずです」

「ええ」


アルトリアは否定しなかった。


「ですが、あなたの剣は“勝つため”のものだった」

「僕のは……」


言葉を探す。


「“守るため”です」


ノエルは、一瞬だけ目を伏せた。


「……なるほど」


悔しさは残っている。

けれど、否定はなかった。


セリウスが、満足そうに頷く。


「はい、これで結論。理屈も剣も、アルトリアの勝ち」


レオンハルトは静かにアルトリアを見る。


「派手さはないが……悪くない剣だ」

「……ありがとうございます」


私は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。


強いからじゃない。

完璧だからでもない。


——向いている方向が、同じだった。


そう思ったからだ。

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