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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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35/45

【35話】平穏は長く続かない

翌朝。


王宮の正門前で、私は両親を見送っていた。


「身体に気をつけるんだぞ、リリア」


「無理はしないでね。便り、待ってるわ」


「はい。お父様、お母様」


馬車が走り去るのを見届けて、私は小さく息を吐いた。


「……行ってしまいましたね」


隣に立つアルトリア様が、静かに言う。


「少し、胸が落ち着きました」


「私もです」


昨日まで張り詰めていたものが、ようやく解けた気がした。

これで、少しは穏やかな日常に戻れる――


「姉上」


低く、抑えた声。


振り返った瞬間、心臓が跳ねた。


「……ノエル?」


そこに立っていたのは、故郷にいるはずの私の弟――

ノエル・エルヴァインだった。


「久しぶりです、姉上」


丁寧な口調。姿勢も正しい。

だが、その視線は真っ直ぐに――アルトリアへ向けられていた。


「……なぜ、ここに?」


「知らせを受けました」


淡々と。


「姉上が、王子の婚約者になったと」


一歩、前へ。


「確認に来ただけです」


「確認……?」


「この方が」


アルトリアを見る。


「姉上の人生を預けるに足る人物かどうか」


空気が、冷たく張り詰めた。


「はじめまして」


アルトリアが、落ち着いた声で名乗る。


「第3王子、アルトリア・ヴァレンシュタイン。君の姉、リリアの婚約者だ」


「ノエル・エルヴァインです」


一礼。


その所作は礼儀正しい。

だが、視線は一切逸れない。


「先に言っておきます」


感情を抑えた、硬い声。


「俺は、この婚約を認めていません」


「ノエル!」


「姉上」


きっぱりと遮られる。


「これは、俺とアルトリア様の問題です」


そのとき。


「――なるほど」


背後から、場違いに軽い声。


「これはまた、分かりやすい」


振り返ると、そこにいたのはセリウスだった。


「面白そうなことしてるねぇ」


顎に手を当て、観察するようにノエルを見る。


「煽れば噛みつくタイプじゃない。……真正面から斬りに来る」


「あなたは?」


「第2王子、セリウス。アルトリアの兄だよ」


軽く名乗ってから、アルトリアへ視線を移す。


「弟殿は冗談を言ってない」


「分かっています」


アルトリアは静かに答えた。


「……なら話は早い」


セリウスが一歩下がり、場を整えるように言う。


「力比べでも、信念比べでもいい」


にやり、と笑う。


「“婚約者にふさわしいか”」


「それを示す勝負、やってみたら?」


「……勝負?」


ノエルの眉が、わずかに動いた。


「俺は遊びに来たわけではない」


「遊びじゃないさ」


でもセリウスはあくまで軽い。


「納得のいく形が欲しいだけだろ?」


一瞬の沈黙。


ノエルは、アルトリアを見据えたまま、言った。


「……逃げないと、誓えますか」


「誓おう」


即答。


「リリアから逃げることはない」


その言葉に、胸が強く締め付けられる。


「……分かりました」


ノエルは深く息を吐いた。


「なら、勝負です」


「ちょっと待って――」


私が声を上げるより早く。


「決まりだね」


セリウスが満足そうに手を打った。


「じゃあ僕は――」


楽しそうに。


「公平な立会人、ってことで」


絶対に余計なことをする笑顔だった。


(……日常、どこいったの)


そう思いながらも、私はアルトリアの横に立つ。


どうやらこの王宮で、平穏は長くは続かないらしい。

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