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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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33/44

【33話】王子としてではなく、恋人として

その夜、私たちは城の回廊から少し外れた、小さな中庭にいた。

灯りは控えめで、噴水の音だけが静かに響いている。


「……」


沈黙が、少し長い。


さっきまで胸の奥に溜まっていたものが、まだ言葉にならずにいる。

アルトリアは隣に立ったまま、夜空を見上げていた。


「リリア」


先に声を出したのは、彼だった。


「昼のことだが……」


少し、言い淀む。


「不快にさせたなら、謝りたい」


「……え?」


思わず彼を見る。


「女性たちに声をかけられて、応じたことだ」


ああ、と理解して――同時に、胸がちくりと痛んだ。


「私は、王子として失礼がないよう対応したつもりだった。だが……」


彼は、ゆっくりと私のほうへ向き直る。


「リリアが、どんな顔をしていたかを見ていなかった」


……ずるい。

そんな真面目な顔で、そんなことを言われたら。


「不快、ではありません」


私は小さく首を振った。


「アルトリア様が、優しいのは知っていますし……王子として当然だとも思います」


それでも。


言葉が、勝手にこぼれる。


「……でも、嫌でした」


声が、少しだけ震えた。


「皆さんが、当たり前みたいにアルトリア様に近づいていくのが」


「私だけが特別じゃないって、突きつけられた気がして」


言ってしまってから、顔が熱くなる。


沈黙。


アルトリアは驚いたように目を見開き、それから――


ふっと、息を吐いた。


「……そうか」


静かな声。


「それは、私の台詞だと思っていた」


「え……?」


彼は、少し困ったように笑った。


「昼間、君に声をかけていた者たちを見て」


「私は、自分が何者なのかを忘れそうになった」


紫がかった瞳が、真っ直ぐこちらを射抜く。


「王子でも、呪われた存在でもなく」


「ただ、君の隣に立ちたいと思っている、一人の男として」


胸が、どくん、と強く鳴る。


「……嫉妬していた」


そう、はっきりと言われて、息が詰まった。


「私は、君が誰かに奪われることを考えるたび、正気でいられなくなる」


「だから」


彼は、そっと一歩近づく。


「リリア。君が感じたその気持ちを、否定しないでほしい」


「それは――」


一瞬、言葉を探し、


「私にとっては、救いだから」


噴水の音が、やけに遠く感じた。


「……ずるいです」


私は、かすれた声で言った。


「そんなふうに言われたら、私……」


アルトリアは、ほんの少し首を傾げる。


「嫌か?」


「違います」


即答してしまって、もう誤魔化せない。


「もっと、欲しくなります」


彼の目が、静かに揺れた。


「……私もだ」


短く、確かな声。


そして、躊躇いがちに手を差し出す。


「今夜は」


「王子ではなく」


「婚約者として、そばにいてもいいだろうか」


私は、その手を見つめて――


そっと、重ねた。


「……はい」


指先が絡む。


その温もりが、確かで、逃げ場がなくて。


嫉妬から始まった夜は、

いつの間にか、互いの気持ちを確かめ合う場所になっていた。

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