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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【28話】英雄の名の下で

王都の大通りは、人で埋め尽くされていた。


旗がはためき、花びらが舞い、

歓声が波のように押し寄せる。


「魔獣を退けた英雄に栄光を――!」


その声を浴びながら、

私はアルトリアの隣を歩いていた。


――英雄。


そう呼ばれる彼の姿を、私はまだ現実として受け止めきれていなかった。


高台に設えられた演壇。

国王陛下、女王陛下、王子たちが並ぶ中、

一歩前に出たのは――アルトリアだった。


ざわめきが、すっと静まる。


「私の言葉を聞いてくださる皆さん」


彼の声は、澄んでいた。


「本日、このような場を設けていただいたこと、感謝します」


一拍、置く。


「ですが……

 私は、“英雄”として称えられることを、少しだけ躊躇っています」


どよめき。


「なぜなら」


彼は、正面を見据えた。


「戦場で起きた出来事を、正しく伝えなければならないからです」


空気が、張り詰める。


「私は、第3王子として生まれました」


「しかし同時に――“触れた者が死ぬ呪いを持つ王子”として、長く人前から遠ざけられてきました」


民衆の中から、息を呑む音が聞こえた。


「戦場において、私は重傷を負い、その極限状態で――呪いは暴走しました」


ざわめきが、広がる。


「魔獣を殲滅できたのは事実です」


はっきりと、言い切る。


「ですが同時に、味方すら傷つけかねない危険な状態だった」


彼の声が、わずかに低くなる。


「その暴走を止めたのは――私一人の力ではありません」


視線が、私へ向けられた。


胸が、跳ねる。


「彼女が、私に触れた」


静かだが、確かな声。


「呪いは、そこで鎮まりました」


広場が、凍りついたように静かになる。


「これは奇跡でも、偶然でもありません」


「彼女は、私の呪いに真正面から向き合い、逃げずに隣に立った人物です」


私は、足元が揺れるような感覚を覚えた。


そして――


「ゆえに、ここで皆さんに伝えます」


アルトリアは、一歩、私のほうへ近づいた。


「リリア・エルヴァイン嬢」


名を呼ばれ、息が止まる。


「彼女は――私の契約者であり」


一瞬の間。


「そして」


その言葉は、驚くほどまっすぐだった。


「私の、婚約者です」


――ざわり。


いや、ざわり、では済まなかった。


「え……?」


「婚約者……?」


「第3王子殿下が……?」


驚愕、動揺、そして好奇の視線が、一斉に集まる。


私の頭は、真っ白だった。


――聞いてない。


でも、否定できない。


隣で、アルトリア様が小さく微笑む。


「おや。驚かせてしまいましたね」


民衆に向けて、穏やかに言う。


「ですが、私はもう隠れません」


「呪いも、生い立ちも、恐れも――すべてを抱えたまま、前に進みます」


その手が、私の手を取った。


――公の場で。


逃げも隠れもしない仕草で。


「彼女と共に」


一瞬の沈黙。


次の瞬間。


歓声が、爆発した。


称賛と驚きと、祝福が入り混じった声が、王都を揺らす。


私は、ただ――

握られた手の温度を、確かめていた。


この人はもう、

呪われた王子ではない。


選び、選ばれ、民の前に立つ人なのだ。

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