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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【19話】甘い距離と、余計な一言

契約を宣言してから、数日が経った。


――正直に言えば。

私とアルトリアの距離は、驚くほど近くなっていた。


「今日の調査報告は、少し長引きそうですね」


「無理はしないでほしい。私も同席しよう」


そう言って自然に隣を歩く彼の距離が、近い。

以前なら、ほんの少しでも間が空いていたはずなのに。


廊下を歩けば、さりげなく歩幅を合わせてくれる。

書類を読むときは、肩が触れそうなほど近くに立つ。


触れてはいない。

でも――触れなくても、伝わるものがある。


「……アルトリア様、少し近くありませんか?」


私が小声で言うと、彼は一瞬きょとんとしてから、少しだけ困ったように笑った。


「そうだろうか。君が拒否しないので、つい」


「わ、私は……!」


反論しようとして、言葉に詰まる。

確かに、私も離れていない。


そんな様子を。


「いやあ、見てて微笑ましいねえ」


軽やかな声が割り込んだ。


「――セリウス様……」


そこには、腕を組んで楽しそうに笑う第2王子の姿。


「契約した途端にこの距離感。ねえアルトリア、これもう結婚前提ってことでいい?」


「兄上」


アルトリア様の声が、ぴしりと低くなる。


「からかうのはやめてください」


「えー? 事実確認だよ」


セリウスは私に視線を向け、にやりと笑った。


「リリアも、随分顔赤いし」


「……っ!」


熱が、一気に頬に集まるのが分かる。


「それにさ」


彼は楽しそうに続けた。


「呪いの件が片付いたら、自然な流れじゃない?王子と“触れても平気な女性”。早く結婚したら、みんな安心すると思うけどなあ」


その言葉に。

胸が、跳ねた。


結婚――

今まで、考えたこともなかった言葉。


「兄上、いい加減に」


アルトリア様はそう言いながらも、否定はしなかった。

それどころか、少しだけ視線を逸らしている。


……否定、しないの?


セリウスは、その様子を見逃さない。


「ふーん」


意味ありげに声を漏らす。


「これはもう、本人たちも意識し始めてる感じだね」


「兄上!」


「はいはい」


軽く手を振ってから、私に向き直る。


「まあ、安心して。僕は応援派だから」


応援派、という言葉に、余計に動揺する。


「ただし」


彼は、楽しそうに目を細めた。


「当分は、からかうけどね」


そう言って去っていく背中を見送りながら、私は深く息を吸った。


結婚。

意識するなと言う方が、無理な言葉。


ふと隣を見ると、彼もこちらを見ていた。


「……気にしないでほしい」


アルトリアが、少しだけ真剣な声で言う。


「兄上の言葉は、大抵、半分冗談だ」


「……はい」


そう答えながら、胸の奥がざわつく。


冗談でも。

その言葉を、私は確かに“意識”してしまった。


契約から始まった関係が、

どこへ向かうのか――


その答えを、私はまだ知らない。


けれど。


隣に立つ彼との距離が、以前よりもずっと近いことだけは、確かだった。

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