【17話】告げられる契約、そして母の手
重厚な扉の向こうにある謁見の間は、空気そのものが張り詰めていた。
王国の中枢――王、重臣たち、そして女王陛下。
その場に、私は立っている。
隣にはアルトリア。
彼は背筋を伸ばし、いつもの静かな佇まいで前を見据えていた。
「では、第3王子アルトリア。説明を」
王の低い声が響く。
「はい、父上」
彼は一歩前に出た。
「本日は、私にかけられている呪いと、それに関する“契約”について、ご説明の場をいただきました」
ざわ、と小さく重臣たちが動く。
「リリア・エルヴァイン嬢」
「彼女は、私の呪いに接触しても影響を受けなかった、唯一の存在です」
疑念、驚愕、策略――
さまざまな視線が一斉に私へ向けられる。
「私は彼女と、正式な契約を結びました」
一枚の書類が示される。
「彼女は王宮に滞在し、呪いの調査に協力する。その代わり、彼女の身の安全、意思、名誉は、王子である私が保証する」
「それは――保護対象ということか?」
重臣の一人が口を挟む。
「いいえ」
アルトリアは、きっぱりと言った。
「彼女は“対象”ではなく、“対等な協力者”です」
その言葉に、場の空気が一瞬止まる。
「……呪いの危険性は?」
「現時点では未知数です」
彼は誠実に答えた。
「だからこそ、私は逃げません。この呪いと向き合い、王家として責任を持つ」
王はしばらく黙って彼を見つめていたが、やがて静かに頷いた。
「覚悟は本物のようだな」
そのとき――
「アルトリア」
女王陛下が、彼の名を呼んだ。
私は、息を呑む。
彼女は玉座から立ち上がり、ゆっくりと彼の前へ歩み寄った。
「……近づかない方がよろしいのでは」
誰かがそう囁いたのが聞こえた。
けれど女王陛下は止まらない。
そして――
そっと、アルトリア様の手に触れた。
謁見の間が、凍りつく。
何も、起きない。
「……アルトリア」
女王陛下の声は、震えていた。
「私は、あなたの呪いを理由に、あなたから距離を取った。守るつもりで……結果として、あなたを孤独にした」
彼は、驚いたように母を見つめる。
「けれど」
女王陛下は、はっきりとその手を握った。
「もう、目を背けない。あなたは、私の息子です」
その光景を、私は静かに見つめていた。
契約は、ただの紙切れじゃない。
この瞬間――アルトリア様は、王子としてだけでなく、
“家族の中で”呪いと向き合う一歩を踏み出したのだ。
そして私もまた、その場に立つ一人なのだと、深く実感していた。




