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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【16話】向き合うこと

夜の王宮は、不思議なほど静かだった。

昼間の重厚な威圧感は影を潜め、回廊に差し込む灯りが、柔らかく石畳を照らしている。


私が案内されたのは、アルトリアの私室だった。

扉を閉めた瞬間、外の世界と切り離されたような感覚になる。


「来てくれて、ありがとう」


彼は椅子から立ち上がり、そう言って微笑んだ。

その表情はいつもより少しだけ緊張して見える。


「こちらこそ……お話があると伺って」


彼は一度、視線を伏せた。

それから意を決したように、私を真っ直ぐに見つめる。


「今夜は……私の呪いと、それに対する“覚悟”の話をしたい」


胸が、きゅっと鳴った。


「母上――女王陛下の言葉を聞いて、ようやく理解したんだ」


彼は静かに語り始める。


「私は、呪いから目を背けていた。傷つく人が増えるのが怖くて……結果として、何も選ばなかった」


彼の指が、ぎゅっと握られる。


「だがそれは、“王子として”も、“一人の人間として”も、許される態度ではなかった」


私は何も言えず、ただ耳を傾けた。


「だから私は、向き合う。この呪いを調べ、制御し、必要なら――利用することさえ考える」


利用、という言葉に一瞬だけ息が止まる。


「もちろん、誰かを犠牲にするつもりはない」


彼はすぐに付け加えた。


「そこで……君に、正式な契約を提案したい」


「契約、ですか……?」


「そうだ」


彼は机の引き出しから、一枚の書類を取り出した。

それはまだ草案のようで、何度も書き直された跡がある。


「第一に、君は“私の呪いの影響を受けない唯一の人物”として、王宮に滞在することを許可」

「第二に、呪いの研究・調査において、君の安全と意思を最優先とする」

「第三に――」


そこで彼は、一瞬だけ言葉を切った。


「この契約は、君が望めば、いつでも破棄できる」


私は、思わず彼を見つめた。


「……それで、よろしいのですか?」


「ああ」


彼は穏やかに笑う。


「私はもう、“触れられない王子”でいるつもりはない。だが同時に、君を縛るつもりもない」


その声音は、王子としての冷静さと、彼自身の誠実さが混じり合っていた。


「私は……」


言葉を探す。


怖くないと言えば、嘘になる。

けれど――


「アルトリア様が、ここまで真剣に向き合おうとしているのなら」


私は、はっきりと顔を上げた。


「私も、逃げません」


彼の目が、少しだけ見開かれる。


「……ありがとう、リリア」


名前を呼ばれただけで、胸が熱くなる。


その夜、私たちは契約書を挟んで向かい合いながら、

“呪い”と“未来”について、遅くまで語り合った。


それはまだ、答えの出ない夜だったけれど――

確かに、二人で同じ方向を見始めた夜でもあった。

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