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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【13話】慣れた距離と、慣れない距離感

王宮に滞在するようになってから、私は何度もセリウス王子と顔を合わせている。


廊下で。

庭園で。

時には、アルトリア様と一緒にいる場で。


だから――


「また会ったね、リリア」


そう声をかけられても、今さら驚くことはなかった。


「セリウス様。ご機嫌よう」


「相変わらず堅いなあ。もう少し砕けてもいいと思うけど?」


いつもの調子。

軽薄で、人懐っこくて、距離感がおかしい。


彼は当然のように私の隣に立ち、歩調を合わせてくる。


「しかし、ほんとにすごいよ君。王宮に来てから、噂が増える増える」


「増えなくていいのですが……」


「いやいや、主役はそう言うものさ」


楽しそうに笑いながら、彼はちらりと私の手元を見る。


「それにしても」


少し屈み、声を落として。


「アルトリアさ、最近ずっと君のそばにいない?」


心臓が、きゅっと鳴った。


「……そんなことは」


「あるある」


即答だった。


「前はさ、僕が話しかけても遠くから見てるだけだったのに。今じゃ――」


言いかけた、その瞬間。


「――兄上」


聞き慣れた低い声が、静かに割り込む。


振り向くと、アルトリアがそこに立っていた。

表情は落ち着いているが、視線は明確にこちらを捉えている。


「また、彼女に絡んでいるのですか」


「絡むはひどいなあ」


セリウスは肩をすくめつつ、わざと一歩近づいた。


「ちょっと雑談してるだけだよ?ね、リリアちゃん」


そう言って、私の方を見る。


答えるより先に。


「不要です」


アルトリアは淡々と言った。


「兄上の雑談は、長くなりがちですから」


そのまま、私の前に立つように位置を変える。


――庇うように。


セリウスは一瞬きょとんとし、次の瞬間、にやりと笑った。


「おやおや。これはこれは」


楽しそうに、心底面白そうに。


「随分はっきり言うようになったね。前なら、そんな顔もしなかったのに」


「状況が変わりました」


「君が原因で?」


アルトリアは一瞬だけ言葉に詰まり――しかし、視線を逸らさなかった。


「……ええ」


その短い肯定に、空気が一拍、止まる。


セリウスは、それを聞いて声を上げて笑った。


「ははっ、なるほど!」


手を叩くほど楽しそうに。


「いやあ、これはいいものを見た。アルトリアが感情を露わにする瞬間なんて、滅多にないからさ」


「兄上」


「はいはい」


軽く手を振って、一歩引く。


「分かったよ。今日はこのくらいにしておく」


去り際に、振り返って。


「でもさ、覚悟はしておいた方がいい。君の存在は、もう“私的”なものじゃない」


真剣な顔でそれだけ言って、今度こそ去っていった。


静寂が戻る。


「……すみません」


私がそう言うと、アルトリアは小さく首を振った。


「謝る必要はありません」


そして、少しだけ視線を和らげて言った。


「兄上は……昔から、距離感を測るのが下手なのです」


「そうですね」


思わず微笑むと、彼は一瞬、困ったような顔をした。


何度も会っているはずなのに。

何度も言葉を交わしているはずなのに。


この距離だけは、

今日、確かに一歩――近づいていた。

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