表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/45

【12話】呪いの真実が動き出し、私たちはもう後戻りできない場所に立っていた

王城の回廊は、夜になるとひどく静かだ。

昼間の喧騒が嘘のように、人の気配も音も遠のいている。


呪いに関する古文書が見つかって以降、私の身の回りも慌ただしく変わった。

安全確保と調査への協力という名目で、私はしばらく王宮に滞在することになったのだ。


地方伯爵家の令嬢である私にとって、王宮での生活は落ち着かないものだった。使用人たちは丁重で、部屋も不自由はない。それでも、ここが“守られている場所”であると同時に、“逃げ場のない場所”でもあることを、否応なく意識させられる。


そして何より――

この滞在が、彼との立場をより明確にし、私との関係を公のものへと押し出していくのだと、薄々感じていた。


私はその静けさの中で、ひとつの扉の前に立っていた。


「……失礼いたします、アルトリア様」


そう声をかけると、少し間を置いてから「どうぞ」という返事が返ってきた。


部屋に足を踏み入れると、机に向かっていた彼――アルトリアが顔を上げる。白銀に近い髪が灯りを受けて淡く光り、紫がかった瞳がまっすぐこちらを見つめた。


「こんな時間に呼び立ててすまない。リリア」


「いいえ。お呼びいただけて光栄です」


形式的にそう答えながらも、胸の奥が落ち着かない。

この数日、彼の周囲の空気が微妙に変わっているのを、私は感じていた。


呪いの古文書が見つかってから。

そして――彼自身が、王子としての立場を否応なく突きつけられてから。


「立っているのも何だ。座ってくれ」


「はい」


勧められた椅子に腰掛けると、机を挟んで向かい合う形になる。

距離は決して近くないのに、不思議と彼の存在がはっきりと伝わってくる。


彼は一度、視線を机の上の書類へ落とした。そこには、見慣れない印章や堅い文言が並んでいる。


「……私は、これまで“個人”として動いてきた」


静かな声だった。


「呪いの件も、君との関わりも。すべて、王子である前に、一人の人間としての判断だった」


彼はそう言ってから、再び私を見る。


「だが、それでは済まされない段階に来ている」


胸が、きゅっと締めつけられた。


「今回見つかった古文書は、王家と呪いの関係を示唆している。真偽は精査が必要だが……もし事実なら、これは王家の責任問題だ」


「……はい」


私は慎重に相槌を打った。


彼の言葉は理路整然としている。けれど、その奥にある迷いを、私は見落とさなかった。


「その中で、君の存在は――非常に大きい」


思わず、息を飲む。


「私に触れても無事だった唯一の存在。それだけで、周囲は君を“鍵”として見始めている」


彼の表情は、硬い。

それが私を守ろうとしてのものだと、分かってしまうのが、少し苦しい。


「私は、君を守りたい」


彼はそう断言した。


「だが同時に、王子としての立場で、君とどう関わるべきかを考えなければならない」


沈黙が落ちる。


私は膝の上で手を握りしめ、意を決して口を開いた。


「……アルトリア様」


「なんだろう」


「私が、何かに利用されることを恐れていらっしゃるのなら……どうか、お一人で抱え込まないでください」


彼の目が、わずかに見開かれた。


「私は地方伯爵家の令嬢です。確かに力も立場も弱いかもしれません。でも、自分の意思くらいは、持っています」


声が震えないよう、必死に言葉を紡ぐ。


「アルトリア様が“王子として”決断なさるなら……私は、その話を、きちんと聞きたいです」


彼は、しばらく何も言わなかった。


やがて、深く息を吐く。


「……ありがとう、リリア」


その声は、先ほどよりも柔らかかった。


「君は、やはり不思議な人だ。私が王子であることを理由に、距離を取ろうとしない」


「それは……」


少しだけ言葉に詰まる。


「アルトリア様が、アルトリア様だからです」


彼は一瞬、言葉を失ったように見えた。

そして、小さく、しかし確かに微笑む。


「私は、君と“契約”を結ぶことになるかもしれない」


「契約……ですか?」


「形式はまだ分からない。だがそれは、君を縛るためではない。君を、王家として守るためのものだ」


彼はそう言い切った。


「その前に、必ず君の意思を確認する。それを約束しよう」


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「……はい」


短く答えながら、私は思った。


彼は今、確かに“王子として”立とうとしている。

けれどその根底には、変わらない優しさがある。


それが、嬉しくて――そして、少しだけ怖かった。


この先、もう後戻りはできない。

けれど私は、彼の隣に立つことを、選びたいと思ってしまったのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ