EP8「雨とスープと、煙の匂い __心に灯る小さなぬくもり」
BLAZE出身のカイは寒さに弱い。
任務帰りの雨で体力を落とした彼を、なぜかルシアスが過保護に世話してくれる。
……なんだこの距離感?
記憶のかけらが降る星で___。
EP8 「雨とスープと、煙の匂い」
***
おじいちゃんに薬々草を渡し、任務は無事完了。
三人で魔法局へ戻る道すがら、空からぽつりと冷たい雫が落ちてきた。
「……降ってきたな」ルシアスが空を見上げる。
「負の記憶が、多いんだね」カイは肩をすくめ、空に漂う紫色の粒子を眺めた。
ゼフィールも顔をしかめる。「悲しくなるよね。服も紫になるし……」
ふいに、カイの体が小さく震えた。
「カイ?」
「……寒い」
ゼフィールが「あ!」と声を上げる。
「そうだよ、BLAZE出身って寒さ弱いんだっけ!」
「マジかよ? ……そっか、あそこ夏の国だもんな」
ルシアスは迷いなくローブの前を開き、カイをその中に引き寄せた。
「あったか……」
ゼフィールが両腕を広げる。「ボクも寒ーい♡」
「バカ言うな」
「平気か?」ルシアスが覗き込む。
「……うん、大丈夫」
「すまん、こんなことも知らずに……」
「THINKERは冬の国だから逆に暑さが苦手だしね」とゼフィールが肩をすくめる。
「……あったかいスープ、飲みたい」
「そんなもの、帰ったらいくらでも作ってやる」
ゼフィールはクスリと笑った。「なんかルシアス変わったね」
「なんだよ」
「なんでもなーい♡」
***
魔法局に到着すると、アヤセが驚きの声を上げた。
「カイさん!? てかゼフィールさん!? どうして一緒に!?」
「大丈夫だよぉ」と笑うカイに、ルシアスがすかさず「大丈夫じゃねぇ」と低く言う。
「くれは先生呼んできます!」
すぐにくれはが駆けつけ、診察を始めた。
「うん、MP枯渇に加えて冷たい雨で体力を奪われただけね。今日は安静に」
「……俺が悪くて。一人で色々やったから……」
「反省は明日でもできるわ。今日は休んで」
「……あ、俺今日料理当番……」
「それなら――」くれはが言いかけた時、キッチンの方からルシアスの声が響いた。
「あったかいスープって言ってたな。作るぞ」
ゼフィールが吹き出す。「親かよw」
***
キッチンではルシアスとリツが並んで作業を始めていた。
「手伝うよ」
「……すまん」
鍋からは、鶏肉と野菜の香りが立ちのぼる。
「で、あの新人どうなんだ」
「……馬鹿だ」
「だろうな」
「……でも放っとけねぇ」
リツは何も言わず、スープを味見した。
***
やがてスープが出来上がり、ルシアスは盆を持ってカイの部屋へ。
「……スープだ。熱いうちに食え」
「ありがと……」
一口飲むと、カイの顔がほころんだ。
「うま……あったか……」
「全部食え」
「うん……」
食べ終えると、カイは再び眠りに落ちる。
ルシアスは毛布を整え、静かに部屋を出た。
***
夜。
喉が渇いて目を覚ましたカイは、水を取りに廊下へ出た。
ふと、窓の外に淡い光が揺れているのが見える。
(……喫煙所?)
扉の隙間から覗くと、そこには煙草をくゆらせるルシアスの後ろ姿。
その横顔は昼間よりも柔らかく、どこか遠い景色を見ているようだった。
(……なんか、安心するな)
その空気に浸っていると、不意に低い声が飛んできた。
「……お前、いたのか」
「っ……!?」
「いや、あの……水取りに来ただけで!」
「……そうか」
「お、おやすみなさい!」
勢いよく扉を閉めて駆け戻るカイ。
頬は熱く、耳まで真っ赤になっていた。
(なんだよこれ……変なの)
外では、ルシアスが小さく煙を吐き出した。
「……ったく、落ち着かねぇやつだな」
***
これで翌朝、局内にアラートが鳴り響く――。
スープ回&喫煙所の名シーン回です。
この静かな時間が、後の“大事件”の前触れになるとは、カイはまだ知りません。
次回、ついにアラートが鳴ります。




