EP36 「化け物と呼ばれた日_」
王は、怒りで国を守る。
炎は、恐れられ、敬われ、遠ざけられる。
だが――
炎の奥にあるものを、
覗いた者は、ほとんどいない。
それが敵であったとしても。
EP36 「化け物と呼ばれた日_」
王城の間。
赤い魔力が、空気を揺らしている。
「なぁ」
低い声が、静寂を裂いた。
「ふぁ?! お主!! どこから来やがった!!」
ブレイズ王が立ち上がる。
「侵入者よ!!」
コマチが叫ぶ。
兵たちが剣を構える。
「お主……噂のエクリプスだな…!」
「あぁそうさ」
ロイは笑う。
軽く、何でもないことのように。
「何の用だ!!」
「遊びに来ただけさ?」
「俺はお前と遊びたくなんぞないぞ!!」
ロイは、首を傾げた。
「あ、この前のバクどうだった?」
王の顔が、歪む。
「やはりお主だったか……!村のみんなの記憶をどうした…!」
ロイは、自分の胸を指差す。
「ココだよ」
空気が、凍る。
「はぁ?!」
「なぁ王様」
ロイは一歩、近づく。
「“怒り”って、どんな味だ?」
「知らぬ!!」
「なぁ見してよ。感じさせてよ」
「嫌に決まっとるだろ!!」
王の周囲の炎が、強まる。
「……そうか」
ロイは、ほんの一瞬だけ、目を細めた。
(そっと近づく)
「燃やすぞ」
炎が、爆ぜる。
「王様!!」
コマチが叫ぶ。
「今すぐ王のそばから離れろ!!」
兵が前に出る。
だがロイは、笑う。
「いいねぇ」
その視線は、王の胸元に向けられている。
「熱い。ちゃんと、生きてる」
ブレイズ王の瞳が揺れる。
「お主……何を見ている」
「記憶だよ」
ロイは囁く。
「王様の“守りたいもの”」
その瞬間、炎が暴れた。
「なっ!!」
王の炎が揺れる。
ロイは、そっと王の胸元に手をかざした。
「……あったかいね」
ぽつりと、呟く。
その頬を、一筋の涙が伝った。
「何をしておる!!」
王が怒鳴る。
「記憶をね、見てるんだよ」
「どけぇぇぇ!!!」
兵士が突っ込む。
ロイは、軽くかわした。
「エクリプスは抱擁で記憶を抜くとの情報がある!!」
兵が叫ぶ。
「王から離れろ!!」
「……」
ブレイズ王は、自分の身体を確かめる。
「……なんともないが……」
「見ただけだよ」
ロイは静かに言う。
「そんなの、いつやるかわかんねぇだろ!!近づくな!!」
兵士が吐き捨てる。
「化け物!!」
その言葉に、ロイの動きが止まった。
「……化け物……か」
小さく、呟く。
「そうか」
ロイは、王をもう一度だけ見る。
炎の奥にある、強烈な“守りたい記憶”。
仲間。
民。
失ったもの。
怒りの根。
「……いいね」
「カイ…あいつならなんて言うかな」
それだけ言って、背を向けた。
誰も追えなかった。
炎が、静かに揺れている。
ブレイズ王は、拳を握ったまま立ち尽くす。
「……あやつは、奪わなかった…」
コマチが震えた声で言う。
王は低く呟く。
「…カイ…?」
怒りとは違う、感情が混じる。
「胸の奥を、覗かれた」
ロイは、ゆっくりと去っていった。
涙の跡だけを残して。
エクリプスは奪わなかった。
王の記憶は、そこに残った。
それでも――
確かに、何かは揺れた。
“化け物”と呼ばれた存在は、
本当に化け物なのだろうか。
炎は怒りだけで燃えるのか。
そして――
もしカイがあの場にいたなら、
何と言ったのだろう。
次に揺れるのは、
炎か。
記憶か。
それとも――心か。




