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記憶のかけらが降る星で___。  作者: 萩原 なちち
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【きおふる世界資料2】ルシアスは語る

この章は、物語の少し奥に踏み込む話になります。


 いつもの魔法局の日常や、掛け合いの延長ではなく、

 メモリスという星が「なぜ、今の形になったのか」を、

 一人の男の記憶を通して振り返る章です。


 これは歴史書ではありません。

 完全な真実でも、神の視点でもない。


 ただ、

 争いの時代を生き、

 それでも「戦わない道」を選び続けてきた者が、

 知っている範囲で語る過去です。


 少し静かで、少し重たいかもしれませんが、

 この世界の根っこに触れる時間として、

 読んでいただけたら嬉しいです。

メモリスには、かつて「時間」がなかった。


正確に言えば――

妖精たちには、時や季節を数える感覚がほとんどなかった。


彼らは老いず、急がず、迷わなかった。

心を読むことができ、言葉すら必要としない。

争いも、奪い合いもなく、

魔法は力ではなく、調和の一部としてそこにあった。


平和な星だった。

少なくとも――妖精たちにとっては。



転機は、地球から「人間」がやってきたことだ。


心を読めない存在。

寿命があり、文明を持ち、

“理解できないものを恐れる”生き物。


地球人は妖精と人間を交配させ、

新たな種族――メモリス人を生み出した。


その過程で、

数人のメモリス人が連れ去られた。


後に――

エクリプスと呼ばれる存在だ。


妖精たちは、人間とうまくやっていけなかった。

心が読めないことではない。

“何を考えているかわからない相手と共存する術”を、

彼らは知らなかったのだ。


妖精は後退し、

やがて星を去った。


数は激減し、

メモリスから、その姿は消えていった。



妖精が去った後、

メモリスの文明は、皮肉なほどに発達した。


魔法が使える人種。

技術と理論は洗練され、

やがて人々は気づく。


――魔法には、明確な「系統」がある。


そして、

相性の悪い魔法を使うと、記憶のかけらが失われることに。


それは少しずつだった。

小さな違和感。

思い出せない名前。

欠けた感情。


だが確かに、記憶は飛んでいった。


人々は恐れた。

そして、選び始めた。


「自分の魔法だけを使う」

「他の系統は危険だ」

「我らの力こそ正しい」


そうして――

四つの国が生まれた。



暦は、地球人の手によって整えられた。


睦月、如月、弥生。

卯月、皐月、水無月。

文月、葉月、長月。

神無月、霜月、師走。


季節は三ヶ月ごとに移ろい、

空の色と気温が変わった。


人々は、その変化を

**「巡光」**と呼んだ。


やがて各国は言い始める。


ガーディアンは、

「春は、我らの季節だ」と。


ブレイズは、

「夏こそ、我らの時代だ」と。


ビリーバーは、

「秋は、信仰の季節だ」と。


シンカーは、

「冬は、理の支配する時だ」と。


その頃から、

空の色が変わるたびに――

巡光祭が行われるようになった。


祝いであり、

威嚇だった。


「これからは、私たちの季節だ」

そう告げるための祭だ。



巡光祭の頃になると、

奇妙な現象が起きた。


死人の記憶のかけらが、

一つに集まったのだ。


まるで、

寄り添うように。


人々は恐れ、

やがて祈るようになった。


供物を捧げ、

記憶に意味を与えようとした。


だが――

意味づけは、正義を生む。



やがて人々は確信する。


魔法は、四系統に分かれている。

•THE THINKER(理)

•THE BELIEVER(信)

•THE GUARDIAN(守)

•THE BLAZE(炎)


「我らの魔法こそ正義だ」


そう信じた瞬間、

世界は分断された。


奪い合うのは、力。

そして――記憶。


戦争は、

正しさの名を借りて始まった。


妖精たちが去った理由を、

人間は、ようやく理解することになる。


――もう戻れないところまで来てからな。


ここまで読んでくださって、ありがとうございました。


 今回は、メモリスの原初――

 妖精の時代から、人間の時代へ移り変わる流れを、

 ルシアスの語りとして描きました。


 この章で描いたのは、

 「悪が生まれた瞬間」ではありません。


 誰かが間違えたからでも、

 誰かが意図的に壊したからでもなく、

 正しいと思った選択が、少しずつ世界を分けていった

 その積み重ねです。


 妖精が去った理由も、

 国家が分かれた理由も、

 戦争が始まった理由も――

 どれも、理解できてしまうのが厄介なところでした。


 だからこそ、

 ルシアスは「正しさ」を疑い続けています。


 争わないこと。

 壊さないこと。

 そして、記憶を奪わないこと。


 それは簡単な理想ではなく、

 何度も失敗を見てきた者が選んだ、

 一番苦しい道なのだと思っています。


 次からは、また魔法局の日常に戻ります。

 けれどこの語りが、

 彼らの何気ない選択の裏側に、

 少しだけ影を落としていたら嬉しいです。


 ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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