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記憶のかけらが降る星で___。  作者: 萩原 なちち
43/50

【きおふる世界資料1】ルシアスは語る

この章は、少しだけ重い話です。


 いつもの魔法局の日常や、掛け合いを楽しんでくださっている方には、

 少し空気が変わったように感じるかもしれません。


 けれど、この物語の世界――メモリスが、

 なぜ今の形になったのか。

 なぜ「魔法局」という存在が必要だったのか。


 それを語るなら、

 どうしても避けて通れない記憶がありました。


 これは英雄譚ではありません。

 誰かを断罪する話でもありません。


 ただ一人の男が、

 「国家同士戦わない」という選択をするに至った理由を、

 静かに振り返る章です。


 もしよければ、

 少しだけ肩の力を抜いて、

 彼の語りに耳を傾けていただけたら嬉しいです。

メモリスには、かつて戦争がなかった。


少なくとも、俺が生まれるよりずっと前――

この星の原初の住人である妖精たちが暮らしていた時代には。


彼らは争わなかった。

魔法は力ではなく、生命と調和のために使われていた。

記憶のかけらも、管理する仕組みも、必要なかった。


――世界は、それで成り立っていた。


だが、人間が生まれた。


数は増え、考え方は分かれ、

やがて「違い」は「正しさ」になり、

正しさは、刃を持つようになった。


妖精たちは気づいたのだろう。

もう、自分たちが干渉できる世界ではないと。


そして彼らは、静かに星を去った。

争いを止めることも、裁くこともせずに。



人間の時代が始まり、

この星は“メモリス暦”と呼ばれる歴史を刻み始めた。


魔法は便利な道具となり、

やがて武器となり、

思想ごとに国家が分かれた。


THINKER。

BELIEVER。

BLAZE。

GUARDIAN。


魔法の系統は、文化を作り、

文化は壁を作り、

壁はやがて、戦場になった。


千五百年を過ぎた頃、

国家間戦争は激化し、

魔法兵器と人工の魔物が空を埋め尽くした。


空に漂い始めたのが――

記憶のかけらだ。


死に際の恐怖、怒り、後悔。

行き場を失った感情が、世界に溢れた。



彼女が戻ってきたのは、

メモリス暦一九九〇年。


――ちびなち。


妖精だった彼女は、

長いあいだ別の星で過ごしていたと聞く。


久しぶりに訪れたメモリスで、

彼女が目にしたのは、

死体の山と、記憶に侵された空だった。


「これが……メモリス?」


その声は、怒りでも悲しみでもなく、

ただ、深い後悔に満ちていた。


「二度と、あの時の過ちを繰り返さない」


それが、彼女の決意だった。



社長と出会った頃の俺は、

THE THINKER国の戦闘部隊の長だった。


魔力だけなら、怪物じみていたと思う。

だが――戦うのは、好きじゃなかった。


「壊すのは、もっと嫌いだ」


それが本音だった。


彼女は言った。


「変えたいなら、手を貸して」


正直、綺麗事だと思った。

だが、変えられるなら――

このクソみたいな世界を。


「……やる」


それが、俺の返事だった。



二〇〇二年。

魔法局が設立された。


戦争のためではなく、

国家を超えて生きるための組織。


彼女は影に立ち、

俺は表に立った。


BELIEVER出身のリツも加わり、

理念は形になっていった。


二〇〇五年には、魔法学校も始まった。

若いうちに、系統を越えて出会わせるために。


国家は渋々、黙認した。

力の均衡と、彼女の圧力があったからだ。



そして今。

メモリス暦二〇一二年。


魔法局は、まだ完璧じゃない。

信頼も、平和も、道半ばだ。


それでも――

戦う以外の選択肢を、残すことはできている。


カイのような存在が、その証拠だ。


この星は、まだ壊れていない。

だから俺たちは、今日も続ける。


争わずに、

共に生きるという、

一番難しい選択を。


ここまで読んでくださって、ありがとうございました。


 今回は、ルシアスの視点から、

 メモリスという星の過去と、魔法局誕生の背景を描きました。


 大きな歴史や戦争の話をしていますが、

 書きたかったのは「強さ」ではなく、

 なぜ彼が“壊さない側”に立ったのかという一点です。


 魔力は強い。

 立場も、力もあった。

 それでも彼は、戦うことを選ばなかった。


 その選択が正しいかどうかは、

 この世界でも、まだ答えは出ていません。


 それでも――

 カイのような存在が生まれ、

 誰かが「別の道」を選べる余地が残っている。


 それだけで、

 この星はまだ、壊れていないのだと思っています。


 重たい章でしたが、

 ここまで付き合ってくださって、本当にありがとうございました。


 次からはまた、

 少し騒がしくて、少し優しい、

 魔法局の日常に戻ります。


 よろしければ、引き続きお付き合いください。

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