【きおふる外伝5-2】魔法局で保育園をやることになりました
魔法局の日常は、今日も忙しい。
討伐、調査、掲示板の依頼――
そんな彼らのもとに、ある日舞い込んだのは
**「保育園の人手不足」**という、少し変わった依頼だった。
会議室が、即席の保育所に変わり、
魔法使いたちは、慣れない育児に振り回されることになる。
これは、
戦闘でも陰謀でもない、
それでも確かに“命と向き合う”一週間の、前夜の話。
※今回は日常寄りのお話です。
肩の力を抜いてお楽しみください。
【きおふる外伝5-2】魔法局で保育園をやることになりました
魔法局の一室。
本来なら会議や仮眠に使われるその部屋は、すでに簡易的な柵とマットが設置され、最低限の“保育所の形”だけは整えられていた。
「あらかじめ、部屋はセッティング済みだ」
ちびなちが腕を組み、満足げにうなずく。
「それ以外は……まぁ、見ればわかるだろ」
その言葉に、嫌な予感が走る。
「な、なんもねぇ!!!」
カイの叫びが部屋に響いた。
棚は空。床もがらんどう。
あるのは“場所”だけだった。
「まじかよ……明日からだろ……?」
ルシアスが額を押さえる。
「ぐちぐち言わない! まだ昼前だぞ? 買いに行くんだよっ」
「……まぁ、ですよね」
リツは諦め半分で苦笑した。
「車、出すよ〜」
ロランが軽やかに鍵を振る。
「俺の出番だな!」
「俺も行く」
ルシアスも即座に立ち上がる。
「必要なものは……オムツ、ミルク……ガーゼ多め。
お昼寝用の布団……あ、哺乳瓶の消毒用もいるね?」
ゼフィールはすでに頭の中で配置図を描いている様子だった。
「離乳食の子もいるかもな」
「……あぁ。ルシアス、そこは頼んだぞ」
「(作ったことねぇ……)……はい」
内心の動揺を隠し、ルシアスは短く答える。
「食器は十分ある。買わなくていいぞ」
「了解です!」
カイはメモ帳を取り出し、勢いよく書き始めた。
「なんか楽しくなってきたぁ!!!」
ゼフィールだけが、完全にイベント感覚だった。
お店にて
魔法局近くの大型店舗。
扉をくぐった瞬間、景色は一変した。
「……メモ松屋か。初めて入ったな」
「赤ちゃんいっぱい!!」
カイの声に、通路を埋め尽くすベビーカーと親子連れが目に入る。
「みんなボクを見てるね♡」
ゼフィールがキメ顔を作るが――
(全員スルー)
「オムツ……オムツ……」
ロランは早々に実務モード。
「種類多すぎだろ……」
「0〜1歳なら……これかな」
リツが慎重にサイズを確認する。
「小さくてかわいいな〜♡」
「おしり拭きも忘れるなよ!!」
「一日六枚として……十五人……
おしり拭きは一回二枚と仮定すると……」
ルシアスは完全に計算脳に入っていた。
「テキトーでいいだろー!
なくなったら買いに来りゃいいし!」
「THINKERとBLAZEの差がすごいね」
「子供は予測不能だからね」
「ガーゼは結構使いそうだな〜」
「俺がすぐ乾かしてやるぜ!!」
「心強いね」
なんだかんだで、カゴは山積みになった。
両手に下げた紙袋が、ずしりと重みを主張する。
中身はオムツ、ガーゼ、ミルク、哺乳瓶――
ほんの一週間分のはずなのに、その量はまるで引っ越し前夜のようだった。
「……すげぇ荷物だな」
ルシアスが低く呟く。
「子供できたら、毎日こんな感じなのかなー!!」
カイは楽しそうに笑うが、その声には少しだけ驚きも混じっている。
“命を預かる”という現実の重さが、ようやく実感として降りてきたのだ。
「実際はもっと少ないと思うけどね」
ゼフィールは肩をすくめる。
だが、その目はどこか優しく、すでに“明日”を思い描いているようだった。
「一週間かぁ……」
ロランが空を見上げる。
「すぐ終わっちゃいそうだね〜」
「……もう13時か」
リツは時計を確認し、少しだけ眉を下げた。
「昼、って言いたいところだけど……」
「全部終わってからだな」
ルシアスの言葉に、誰も反論しなかった。
⸻
「たっだいまー!」
魔法局の扉が開き、どさどさと荷物が床に置かれる。
「帰ったか」
ちびなちは腕を組んだまま、満足そうにうなずく。
「なんか、俺が肩代わりで払ったけどね?」
「助かる」
「いや経費にしてね?!」
「ははははは!」
軽い笑いが部屋を満たす。
「オムツ〜♡ かわいー!」
カイは袋を開け、小さく折り畳まれたそれを両手で掲げた。
「……」
ゼフィールはそれを眺めながら、ふと感慨深そうに呟く。
「あのルシアスでも、こんなのしてた時代があったんだね……」
「何バカなこと言ってんだ」
即座に切り捨てるルシアス。
「ルシアスがおむつ……」
「やめてwwww」
ロランが腹を抱えて笑う。
「布団、しいて〜♡」
カイは床に寝転がるような仕草をして見せた。
「あ、待って。敷く前に洗うよ」
ゼフィールの声は即座に実務モードに切り替わる。
「ガーゼも一緒に」
「えー? 綺麗じゃん」
「一度水通しするんだよ。赤ちゃんの肌、弱いからね」
「ふぅん……?」
完全には理解していないが、素直に従うカイ。
「じゃあ、カイの出番だね」
リツが笑って言う。
「任せろ!」
カイは魔法陣を展開し、火力を調整する。
「火力MAX!!!」
「……まだ洗ってもないだろ」
即座にルシアスのツッコミが飛ぶ。
「僕、洗濯機回してくるね〜」
ロランは鼻歌交じりに去っていった。
⸻
しばらくして。
部屋には、洗いたての布の匂いがふんわりと漂っていた。
オムツは整然と並び、布団は柔らかく敷かれ、
“仕事場”だったはずの魔法局の一角は、すっかり優しい空間に変わっている。
「……完璧だな」
ルシアスは、思わずそう口にしていた。
「明日、ここに子供たちが来るんだね……」
ゼフィールの声には、静かな期待が滲む。
「なんか……いい匂いする」
リツが鼻をひくつかせる。
「めし?! めし?!」
カイが即座に反応した。
「さっき、明日の昼のついでにな」
ルシアスは淡々と言う。
「全員分、作っておいた」
「神!!!」
こうして、
静かすぎるほど整った前日は終わった。
――この場所が、
明日、泣き声と笑い声で満たされるとも知らずに。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回は
**「魔法局 × 臨時保育園」**という、
少し毛色の違う日常回でした。
前編では、
・準備の大変さ
・育児の現実
・それぞれの立場から見える「子ども」
を中心に描いています。
次回・後編では、
実際に始まった保育園での一週間と、
彼らが感じた疲労、尊敬、そして小さな別れを描く予定です。
討伐に戻る前の、ほんの短い寄り道。
ですが、この経験はきっと、
彼らの中に静かに残っていくはずです。
よろしければ、今後もお付き合いください。




