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記憶のかけらが降る星で___。  作者: 萩原 なちち
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EP4「引っ越し準備と初めてのギルド __ 冒険のはじまり」

今回は“日常+試験”の回です!

カイが正式に冒険者として認められるまでの流れと、

魔法局の内部が少しずつ見えてくるパート。


記憶のかけらが降る星で___。


EP4「引っ越し準備と初めてのギルド」


***


「ふぅ……こんなもんか」

荷物を詰め終えて、ため息をひとつ。

(数日前にも同じことやった気がするけど……まさかまた引っ越すとは)


***


魔法局に着くと、リツさんが手を振ってきた。

「おはよ! カイの部屋、こっちだよ。え、荷物これだけ?」


「いや……俺、孤児院から来てるから、ほぼ持ち物ないんすよ。必要最低限って感じで。でかけたりとかもないし……。」


(俺に家族の記憶があったら……そんなこと考えたって仕方ないか。)


孤児院か……そういえば両親がいないんだっけ……?

持ち前の明るさは、静けさの中で育ったのかもな。


「そっかそっか! じゃあこっちでたくさん思い出作ってこうね。」


大丈夫。カイならきっと幸せになれる。


「うっす!」


(リツさんって優しいなぁ…)


***


「おぉ、来たか。」


振り向くと、ルシアス編集長が立っていた。


「お疲れ様です!」


「今日は早かったな。」


「7:30就業ですから!」


「荷物まとめたら応接な。」


「うっす!!」


***


新しい部屋のドアを開けた瞬間、思わず声が漏れた。

「え?! バカ広いんだけど?!」


「いやどんな部屋住んでたんだ…?笑」

リツさんが笑う。


「お風呂……ひろっ! 洗面所も広い!!」


「うちの魔法局、福利厚生は一流だからね〜」


「最高……新品だし……! ピカピカ!!」


「新築ですから!! このフロア!!」


「荷物テキトーに置いたから、いつでもいいよ!」


「なんかルシアス呼んでたから行ってきなー!」


「ありがとうございます!!」


***


応接室では、ルシアスが待っていた。

「終わったか。」


「あんな綺麗なお部屋……! ありがとうございます!」


「あぁ。ここで働いてもらうんだ。これくらいはな。」


「これから楽しみです!」


「とりあえず、魔法局の中を案内するな。」


***


◆魔法局案内(カイ視点)


一階に降りると、正面に大きな受付カウンターが構えていた。

制服姿の受付嬢が何人も動き回り、中央には魔法学校や地上、他支局を結ぶ大型エレベーター。

両側には応接室が並び、壁際には待合用のベンチ。


(おぉ……テレビ局っていうより、なんか城の玄関ホールみたいだな)


***


二階に上がると、一気に雰囲気が変わる。

「ここは主に撮影に使う場所だ。」

ルシアスの案内に頷きつつ、目を奪われる。


白い壁に囲まれた広いスタジオがいくつも並び、その中にはニュース用、キッチン用のセットまである。

メイクルームにはドレッサーがずらりと並び、鏡には魔力照明が埋め込まれていた。


端の物置をちらっと覗くと……(汚っ!)

埃まみれの機材や衣装が山積みだった。


***


三階は一転して、生活感のある空間だった。

「みんなの居場所だ。カフェテリア、キッチン、洗濯機、救護室……宴会部屋もある。」


「宴会部屋……?」


「たまに使う。」


奥には喫煙所まで完備されていて、淡い煙が漂っていた。

職場なのにどこか温かい空気を感じる。


***


「ちなみに、この前まで二階までしかなかったが、増設したんだ。」


「すげぇ……! 喫煙所まで!」


ルシアスが灰皿に視線を落とす。その目が少しだけ、遠い過去を見ていたように見えた。


「……タバコ、吸うのか。」


「はい。」


「一本どうだ?」


差し出された銀色のケース。中の紙巻きは魔力の淡い光を帯びていた。


(これ、たぶん高級品だ……!)


ルシアスはタバコをしまうと、軽く顎で階段を示した。


「……今日はもう一つ、行く場所がある。」


「どこっすか?」


「ギルドだ。」


心臓がドクンと跳ねる。


(そうだ……俺、まだライセンス持ってなかったんだ)


「無許可で魔物を倒した件は、俺が保証人になったから不問だ。だが、次はない。」


「はい……」


(仮釈放みたいな気分だな、俺……)


***


魔法局の地下へと続く階段を降りていく。

壁は厚い石造りで、途中から木の匂いが混ざり始めた。


「ここ……地下なんですね。」


「地下と言っても、ここは“どこにも属さない”中立区画だ。THINKERもBLAZEも関係ない。」


「へぇ……」


やがて開けた空間に出る。

正面には分厚い木の扉、鋼の装飾、そして頭上には堂々と「冒険者ギルド」と刻まれた看板。


(おお……ゲームで見たやつだ……!)


***


扉を押し開けると、温かい空気と香ばしいパンの匂いが押し寄せた。

壁際の掲示板には依頼書がぎっしり、テーブル席では鎧やローブ姿の人々が談笑している。

カウンターの奥から受付嬢が笑顔を向けてきた。


「いらっしゃいませ。……ルシアス様、こちらの方が例の?」


「あぁ。こいつがカイだ。」


「は、初めまして!」


***


案内された小部屋で、試験官らしき男性が書類を手にしていた。


「カイ・アカギ・フレア、二十二歳、BLAZE出身……君が無許可討伐の。」


「う、噂になってるんですか……」


「悪い噂じゃないさ。むしろ腕前に期待されてる。」


横でルシアスが淡々と補足する。


「今日は筆記と実技、両方だ。俺が横で見ている。緊張するな。」


 一瞬、驚いてルシアスの顔を見た。


(……見てくれるんだ)


「ありがとうございます。……がんばります。」


ルシアスは小さく頷いた。


「落ち着いてやれ。お前ならできる。」


胸の奥が少しだけ温かくなった。


(この人……やっぱり怖いだけじゃない)


***

***

読んでくださってありがとうございます。


ギルド試験は、カイが“記録者”としての第一歩を踏み出す回です。

今後の物語で、ここで交わしたルシアスとの言葉が重要な意味を持ってきます。


次回はギルド試験の続編。いよいよ実技試験へ――

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