EP4「引っ越し準備と初めてのギルド __ 冒険のはじまり」
今回は“日常+試験”の回です!
カイが正式に冒険者として認められるまでの流れと、
魔法局の内部が少しずつ見えてくるパート。
記憶のかけらが降る星で___。
EP4「引っ越し準備と初めてのギルド」
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「ふぅ……こんなもんか」
荷物を詰め終えて、ため息をひとつ。
(数日前にも同じことやった気がするけど……まさかまた引っ越すとは)
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魔法局に着くと、リツさんが手を振ってきた。
「おはよ! カイの部屋、こっちだよ。え、荷物これだけ?」
「いや……俺、孤児院から来てるから、ほぼ持ち物ないんすよ。必要最低限って感じで。でかけたりとかもないし……。」
(俺に家族の記憶があったら……そんなこと考えたって仕方ないか。)
孤児院か……そういえば両親がいないんだっけ……?
持ち前の明るさは、静けさの中で育ったのかもな。
「そっかそっか! じゃあこっちでたくさん思い出作ってこうね。」
大丈夫。カイならきっと幸せになれる。
「うっす!」
(リツさんって優しいなぁ…)
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「おぉ、来たか。」
振り向くと、ルシアス編集長が立っていた。
「お疲れ様です!」
「今日は早かったな。」
「7:30就業ですから!」
「荷物まとめたら応接な。」
「うっす!!」
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新しい部屋のドアを開けた瞬間、思わず声が漏れた。
「え?! バカ広いんだけど?!」
「いやどんな部屋住んでたんだ…?笑」
リツさんが笑う。
「お風呂……ひろっ! 洗面所も広い!!」
「うちの魔法局、福利厚生は一流だからね〜」
「最高……新品だし……! ピカピカ!!」
「新築ですから!! このフロア!!」
「荷物テキトーに置いたから、いつでもいいよ!」
「なんかルシアス呼んでたから行ってきなー!」
「ありがとうございます!!」
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応接室では、ルシアスが待っていた。
「終わったか。」
「あんな綺麗なお部屋……! ありがとうございます!」
「あぁ。ここで働いてもらうんだ。これくらいはな。」
「これから楽しみです!」
「とりあえず、魔法局の中を案内するな。」
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◆魔法局案内(カイ視点)
一階に降りると、正面に大きな受付カウンターが構えていた。
制服姿の受付嬢が何人も動き回り、中央には魔法学校や地上、他支局を結ぶ大型エレベーター。
両側には応接室が並び、壁際には待合用のベンチ。
(おぉ……テレビ局っていうより、なんか城の玄関ホールみたいだな)
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二階に上がると、一気に雰囲気が変わる。
「ここは主に撮影に使う場所だ。」
ルシアスの案内に頷きつつ、目を奪われる。
白い壁に囲まれた広いスタジオがいくつも並び、その中にはニュース用、キッチン用のセットまである。
メイクルームにはドレッサーがずらりと並び、鏡には魔力照明が埋め込まれていた。
端の物置をちらっと覗くと……(汚っ!)
埃まみれの機材や衣装が山積みだった。
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三階は一転して、生活感のある空間だった。
「みんなの居場所だ。カフェテリア、キッチン、洗濯機、救護室……宴会部屋もある。」
「宴会部屋……?」
「たまに使う。」
奥には喫煙所まで完備されていて、淡い煙が漂っていた。
職場なのにどこか温かい空気を感じる。
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「ちなみに、この前まで二階までしかなかったが、増設したんだ。」
「すげぇ……! 喫煙所まで!」
ルシアスが灰皿に視線を落とす。その目が少しだけ、遠い過去を見ていたように見えた。
「……タバコ、吸うのか。」
「はい。」
「一本どうだ?」
差し出された銀色のケース。中の紙巻きは魔力の淡い光を帯びていた。
(これ、たぶん高級品だ……!)
ルシアスはタバコをしまうと、軽く顎で階段を示した。
「……今日はもう一つ、行く場所がある。」
「どこっすか?」
「ギルドだ。」
心臓がドクンと跳ねる。
(そうだ……俺、まだライセンス持ってなかったんだ)
「無許可で魔物を倒した件は、俺が保証人になったから不問だ。だが、次はない。」
「はい……」
(仮釈放みたいな気分だな、俺……)
***
魔法局の地下へと続く階段を降りていく。
壁は厚い石造りで、途中から木の匂いが混ざり始めた。
「ここ……地下なんですね。」
「地下と言っても、ここは“どこにも属さない”中立区画だ。THINKERもBLAZEも関係ない。」
「へぇ……」
やがて開けた空間に出る。
正面には分厚い木の扉、鋼の装飾、そして頭上には堂々と「冒険者ギルド」と刻まれた看板。
(おお……ゲームで見たやつだ……!)
***
扉を押し開けると、温かい空気と香ばしいパンの匂いが押し寄せた。
壁際の掲示板には依頼書がぎっしり、テーブル席では鎧やローブ姿の人々が談笑している。
カウンターの奥から受付嬢が笑顔を向けてきた。
「いらっしゃいませ。……ルシアス様、こちらの方が例の?」
「あぁ。こいつがカイだ。」
「は、初めまして!」
***
案内された小部屋で、試験官らしき男性が書類を手にしていた。
「カイ・アカギ・フレア、二十二歳、BLAZE出身……君が無許可討伐の。」
「う、噂になってるんですか……」
「悪い噂じゃないさ。むしろ腕前に期待されてる。」
横でルシアスが淡々と補足する。
「今日は筆記と実技、両方だ。俺が横で見ている。緊張するな。」
一瞬、驚いてルシアスの顔を見た。
(……見てくれるんだ)
「ありがとうございます。……がんばります。」
ルシアスは小さく頷いた。
「落ち着いてやれ。お前ならできる。」
胸の奥が少しだけ温かくなった。
(この人……やっぱり怖いだけじゃない)
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読んでくださってありがとうございます。
ギルド試験は、カイが“記録者”としての第一歩を踏み出す回です。
今後の物語で、ここで交わしたルシアスとの言葉が重要な意味を持ってきます。
次回はギルド試験の続編。いよいよ実技試験へ――
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