【きおふる外伝4後半】「感情の正体に気づきたくない男 〜編集長、こじらせ中〜」
前回の「カイのミスと、扉の外の男」の続きです。
泣きつくカイを見てしまったルシアスの胸に芽生えた“ある感情”。
認めたくない、気づきたくない、だけど抑えられない――
こじらせ編集長の一日をお楽しみください。
廊下を歩きながら、ルシアスはさっきの自分の発言を思い返していた。
(俺…何言ってんだ?)
胸の奥がざわつく。
あんな台詞、口にしたことなんて一度もない。
(慰めてやってもいい…って…なんだよ…)
思い返すほど、あり得ない。
自分じゃないみたいな言葉。
(まるで昨日のことが悔しかったみたいに…)
昨日。
泣きながらリツにしがみついていたカイの姿。
助けを求められなかった自分。
手を伸ばせなかった自分。
(意味わかんねぇ…)
感情の名前を拒否するように眉を寄せたそのとき――
「ルシアス?」
突然横から声がかかり、肩が跳ねた。
「な、なんだ?!」
呼んだゼフィールのほうが驚いた。
「明日の会議のことだけど…」
「あ、あぁ…」
言葉では返すが、意識はそこにいない。
(ただ、守ってやりたいんだよな…俺は)
カイの表情がふっと脳裏をよぎる。
あの必死さ、泣き顔、悔しさ。全部。
(もう失いたくない……それ…だけ)
心の底の本音に触れそうになった瞬間――
「ルシアス?聞いてんの?」
ゼフィールの声が再び刺さる。
「……」
完全に思考が飛んでいる。
返事が1ミリも返ってこない。
ゼフィールは大きくため息をつく。
「あーもーだめだね。アヤセさーん!」
ゼフィール 「アヤセさーん!!編集長が死んでます〜!」
遠くの部屋からすぐに足音。
いつもの落ち着いた歩幅、無駄のない動きでアヤセが到着する。
アヤセ 「ルシアスさん」
その一言で、ルシアスの背筋が反射的に伸びた。
ルシ 「……失礼。気を散らしていた」
アヤセ 「明日の会議資料、午後までに確認をお願いします」
ルシ 「あぁ。すぐ取りかかる」
まるで今まで完璧に集中していたかのような声色。
ゼフィールは吹き出しそうになりながら口を押さえる。
ゼフィール(切り替えだけは天才)
しかしアヤセは、ゼフィールの茶化しも、ルシの切り替えも見抜いている気配で――
アヤセ 「感情が乱れている時は、深呼吸すると集中力が戻りますよ」
淡々と。それでいて一発で核心に刺さる言い方。
ルシ 「……乱れてない」
アヤセ 「ええ、わかっています」
“否定するのもわかっている”という口調。
事実を言いつつ、プライドも守る。こういうところがアヤセの強さだった。
ゼフィール(人間観察エグすぎ)
空気が落ち着いた――その瞬間。
「ルシアス〜!あのさ、今日の任務の──」
廊下の角を曲がって、カイが駆けてきた。
視線がぶつかった。
カイの笑顔に、ルシの呼吸が一瞬だけ止まる。
「……」
「……?」
カイは気付かないまま近づいてくる。
カイ 「今日の依頼内容ってさ、俺また確認しとこうと思って──」
ルシ 「……後にしろ」
感情を抑えすぎて、声が鋭くなった。
「えっ」
カイの肩がびくっと震える。
アヤセ 「打ち合わせ中ですので、少しだけ待ってあげてください」
優しい声でカイをフォロー。
カイは気まずそうに視線をさまよわせた。
「そ、そうだよな!ごめん!あとででいい!」
そう言って離れていくカイの背を、ルシアスは見つめる。
自分の声で怯えさせたことに胸がざわついた。
(なんで俺はこうなる)
(守りたいくせに、距離をとって、傷つける)
答えを知らないまま、奥歯を強く噛む。
ゼフィール(はい、今日もこじらせ〜♡)
肩をすくめながらゼフィールは小声で呟く。
ゼフィール 「アヤセさん、これどうします?」
アヤセ 「放っておいても、いずれルシアスさんのほうから寄っていくので大丈夫です」
ゼフィール 「きたァァァ!!!核心発言!!」
アヤセ 「ただし時間がかかりますね。…周りは大変だと思います」
静かに、しかしどこか楽しそうな笑顔。
ゼフィール 「じゃあボクは観察日記でもつけとくね♡」
ルシ 「やめろ」
完璧な仕事モードの顔のまま、しかし耳が微かに赤い。
***
今回の回は、キャラクター同士の“関係性の揺れ”を描いていますが、
本作はあくまで BL作品ではありません。
作品として描きたいのは、
・人と人がぶつかり合いながら成長していくこと
・誰かを大切に思う気持ち(それが恋愛とは限らない)
・感情の複雑さ、矛盾、葛藤
です。
ルシアスとカイの距離感も、
“恋愛ではなく、強い信頼関係に向かう過程” として描いています。
読者の皆さんが、
「人間ドラマとして楽しめる」「キャラの心が理解できる」
そんな方向性で読んでもらえたら嬉しいです。
次回も、彼らの“人間らしさ”を楽しんでください。




