EP25『君を忘れた日__初めまして』
記憶とは、いつだって静かに積み重なっていくものだ。
日々の会話も、ささいな笑顔も、ふいにこぼれた弱さも――
気づけば大切な人との“道しるべ”になっている。
しかし、その道が突然途切れたら?
積み重ねた思い出が、ある日まるごと消えてしまったら?
これは、そんな“喪失”の物語であり、
同時に“ふたりの始まり直し”の物語でもある。
タイトルは 『君を忘れた日 ―― 初めまして』。
失われた記憶と、もう一度差し出された手。
すれ違ってしまった心と、それでも繋ごうとする想い。
どうかあなたに、この痛みと希望が届きますように。
記憶のかけらが降る星で___。
EP25『君を忘れた日__初めまして』
***
爆散したMD3の残骸が、金属片の雨となって降り落ちる。
その中心で――ルシアスは、ただ静かに立っていた。
「……やった、のか?」
ゼフィールの声は震えていた。
「魔力反応、急低下……! MD3、沈黙しました!」
アヤセが叫ぶ。張り詰めていた空気が一気に緩む。
「カイ……!」
リツが駆け寄る。
「カイ!!」
ロランが崩れた身体を支えた。
カイは血を拭いながら、必死に顔を上げる。
「へ、編集長……は……ッ」
***
「……嘘、だろ……?」
ロイが崩れた炉心を見つめ、青ざめる。
「俺のMD3が……? ルシアス、だっけ……?
なんだよアイツ……あんな魔力、聞いたことねぇ……!」
アヤセが硬い声で呟く。
「ルシアスさん……莫大な魔力量で、炎式を……」
「ルシアス!!!」
カイの叫びが響いた。
――名前を呼んだ、その瞬間。
ルシアスがゆっくりと振り返った。
「……?」
その表情は、いつもの“編集長ルシアス”ではなかった。
***
「ごめんなさい……俺……“離れるな”って言われたのに……!」
カイは涙を浮かべ訴える。
だが、ルシアスはどこまでも冷静で――どこまでも他人だった。
「……すまない。
君に何か指示をした記憶はない。
――何者だ、君は?」
「……は?」
カイの胸が、音を立てて崩れた。
「リツ?」
ルシアスが眉を寄せる。
「……どういうことだ?」
リツは唇を噛みしめ、震える声で謝った。
「……ごめん……ほんとに……ごめん……!」
「意味わかんねぇよ!!
編集長が何言ってんのかもわかんねぇし……
なんでリツが謝ってんだよ!!」
ゼフィールが静かに呟いた。
「……記憶の、代償だ……」
ロランが重く頷く。
「THINKERなのにBLAZEの炎式……それも上位魔法。
魔力MAXで放ったんだ。
――代償が、“記憶”でもおかしくない……」
アヤセの声も震える。
「ルシアスさんの記憶のかけらが……消えたんです……!」
リツは涙を流しながら続けた。
「わかってた……!
ルシアスがあの魔法を使ったら……
“ある大切な人”の記憶が消えるって……見えてた……!」
「大切な……人……?」
カイの喉がひゅっと鳴る。
リツは、逸らさずに言った。
「……カイ。
ルシアスにとって、その“大切な人”は……」
「……ルシアス……俺だよ……」
カイの声は涙で崩れていた。
「ルシアス……!
俺たち……ずっと一緒にやってきただろ……!
俺に……“生きる意味”くれたの……
あんただっただろ……!
……全部……全部忘れちまったのかよ……!!」
ルシアスは、苦痛すらない無表情で言う。
「……すまないが。
君の言うことは……理解できない。」
その言葉は、
カイの心臓をゆっくりと刺し込む刃のようだった。
リツが嗚咽する。
「止められなかった……!!」
ゼフィールが肩に手を置く。
「リツは悪くない。
起きたことはもう……どうにもならない。
今は、これからを考えよう。」
ロランも静かに頷く。
「ゼフィの言う通りだ。」
***
そして――カイは立ち上がった。
涙で顔を濡らしながらも、
その目だけは“決意”に燃えていた。
「……初めまして。俺カイっす。
魔法局のカメラマン、やってます。
よろしくお願いします。」
震える手を、まっすぐ伸ばす。
ルシアスは少しだけ目を瞬かせた。
「あぁ……カメラマンの新入り、か。」
まるで本当に、初めて出会う他人のように。
カイは――心の中で静かに呟いた。
(……忘れちまったなら。
もう一度……あいつの“大切”になりゃいいんだ。
それだけ、だよな。)
EP25は、ルシアスとカイにとって大きな転換点になりました。
失われた記憶と、差し出された“初めまして”の手。
痛みの中にある決意を、少しでも感じてもらえたなら嬉しいです。
そして――実は今日、作者の誕生日でした。
そんな日に、物語の中でも大切な節目を書くことになったのは、
ちょっとした偶然であり、なんだか運命の悪戯のようでもあります。
誕生日に「喪失と再出発」を描くなんて、
我ながら渋いチョイスだなと思いながらも……
でも、物語っていつも、自分の“今”と不思議と重なるんですよね。
このEPが、あなたの心にも何か小さな灯りを落としていたら、
それは作者にとって最高の誕生日プレゼントです。
ここからまた、ルシアスとカイの物語は進んでいきます。
どうかこれからも見届けてください。




