EP3「もう引っ越しですか?! __ 魔法局の新しい日常 __」
今回は少し日常回です!
カイが魔法局の仲間として本格的に動き始めるお話。
ルシアスの意外な一面もちらり。
記憶のかけらが降る星で___。
EP3 「もう引っ越しですか?!」
***
――飲み会の終わり。
テーブルには空になったジョッキや皿が乱れていて、笑い声がまだ残っていた。
「ふぇーー……結構酔っちゃった……」
自分でもわかるくらい、声がふにゃけている。
ふにゃっと笑いながらグラスを置いた
「……気をつけて帰れよ」
ルシアス編集長は、ほとんど表情を崩さずにそう言った。
「編集長こそ、気をつけてください、笑」
「ルシアスさん……相当弱いですからね、笑」
アヤセさんが意味深に笑い、リツさんが肩を竦める。
「家まで連れて帰ってやるかー……」
「すまん……」
(怖そうな人だと思ってたけど……なんだかんだ優しい人だったな)
***
自分の部屋に帰り、靴を脱ぎ捨てると同時にベッドに倒れ込んだ。
「頭ぐわんぐわんするー……って、あれ?! 明日何時に行けばいいんだ?!」
一瞬焦ったが、すぐに(たぶん怒られるけど、まぁいいか。)と開き直る。
そのまま、意識は暗闇に落ちていった。
***
「んん……」
カーテン越しの光が目に入る。
(もう9時か……準備しなきゃ)
シャワーで寝癖を流し、髪から滴る水をタオルで拭きながら出勤準備。
服を整え、急ぎ足で魔法局へ向かう。
***
「おはよーございまーーす!」
息を整えて挨拶すると、すぐに低い声が返ってきた。
「遅い」
「すみませんっ!」
「あぁ……確かに昨日伝えてなかったな。すまなかった。」
(あ、怒られてない……?)
「とりあえず今日、緊急会議を行う。会議室まで行くぞ」
この人は……本当に操り人形みたいだ。
無駄のない動き。まるで、感情よりも“正しさ”を優先しているみたいだ。
「了解っす!」
無駄のない足取りで会議室へ向かった。
(いや……歩くのはやっ!脚長すぎだろ!)
※ルシアスは190センチあります。
(遺伝ってやつか……俺の両親、覚えてないからなぁ。きっとそんなに大きくなかったのか。)
***
会議室には既にリツさんがいた。
「急になんだ? 会議って」
ルシアス編集長は席につき、全員を見回す。
資料をめくり、ゆっくりと話し始めた。
いつも通り冷静だが、気のせいか言葉の端に期待が滲む。
「本日集まってもらったのは……寮の開設についてだ」
「寮?」
リツさんが眉を上げる。
「メンバーも増えたことだし、うちは始業時間が早い。なので寮の開設を行うこととなった。社長にも話してある」
「たしかに……あったら楽かも」
「え?! 俺、一昨日BLAZEからこっちまで引っ越してきたばっかなんだけど……笑」
思わず笑いながら抗議する。
「引っ越し代やらなんやらは全て負担する。いいな?」
「はい……笑」
「4階フロアが男子部屋、5階フロアが女子部屋になっている」
「各部屋を準備したから自由に使ってくれ」
「水道光熱費などはこっち持ちだ。その代わり」
「その代わり?え、なになに怖いんだけど!」
「洗濯、ご飯、掃除を当番制で行ってもらう」
「まじかよ……笑」
(寮生活…。絶対楽しい…!編集長も男子寮なのかな…?)
「それについてはまた次回話し合う、今日は解散だ」
「了解」
(まさか、また引っ越すことになるとは……)
でも今度は――誰かと一緒に、だ。
***
みんなが立ち上がり、部屋を出ていく。
俺も席を立とうとしたそのとき――
「カイ」
背後から低く落ち着いた声が飛んできた。
「はい!」
「カメラマンの一日の流れを説明する」
「あ、お願いします」
ルシアスは淡々と話し始めた。
「七時半からやることリスト作成。市民からの小依頼や、討伐・修理依頼を整理して俺に提出する」
「はい」
「九時から任務の準備。魔法フレームの試運転。レンズは魔法で透過率を上げろ」
「わかりました」
「正午から現場撮影。討伐任務や災害現場の記録もある。危険な場所では護衛がつくが、それでも油断するな」
「護衛……なるほど」
(そんな危ない仕事あんの……?!)
「午後は撮影した素材の整理と編集。局の広報部と連携して、発表用のデータを作る」
「編集もやるんですね」
(カメラマンだけじゃないんだなぁ……)
「十六時からは追加撮影か、局内の日常記録。重要な会議や研究の記録も含まれる」
「はい」
「夕方は撮影データをまとめ、やることリストを再確認して日報を提出。それで業務終了だ」
「了解です!」
ルシアスは最後に一言だけ、視線を向けた。
「――お前の仕事は記録することだ。誰かのために、何かを残す。それを忘れるな」
「……はい」
その言葉は、胸の奥にしっかりと響いた。
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読んでくださってありがとうございます。
寮生活と日常――“仕事”ではなく“居場所”ができていく回です。
ルシアスの言葉、「誰かのために何かを残す」はこの作品全体の核心でもあります。
次回はいよいよギルド試験編。
星のルールと、カイの本当の力が少しずつ明かされていきます。
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