【きおふる短編1】「紫雨(むらさめ)__負の記憶が降る日」
今日はメモリスに降る“紫雨”のお話。
負の記憶が空にあふれたときだけ降る、ちょっと厄介で……でも優しさの見える雨。
【きおふる短編1】「紫雨__負の記憶が降る日」
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メモリスの空が紫に染まった。
それは“負の記憶”が世界に溢れた合図。
ガラスを叩く紫の雫を見て、ゼフィールが眉を寄せた。
「困ったねぇ……今日は負の記憶、多いのかも。」
「うわぁ……ほんとだ。」
カイは落ちてきた一滴を指で払って顔をしかめる。
「テンション下がる色第一位なんだよな、これ……。」
二人は足早に帰路を急ぐ。
紫雨が街並みをぼやかし、傘の縁から雫が落ちる。
「早く戻んないと。編集長、時間には厳しいし……。」
(脳内で“腕組みルシアス”が静止画で出てくる)
「……戻りたくない理由の半分それなんだよねぇ。」
ゼフィールがため息をつく。
紫雨は厄介だ。
肌に触れると少し重く、風呂に入らないと落ちない。
魔力にも負荷がかかる。
「リツでもいてくれれば強いバリア張ってくれるのにねぇ……。」
「俺らじゃせいぜい“プチバリア”だしな。」
カイも肩を落とした。
「ぴえん……。」
そのとき。
――紫雨を裂くように、ふわりと光が降った。
「お待たせ。」
振り向くと、結界すら纏わずに雨をはじくリツが立っていた。
「?! リツぅぅぅ!!」
「リツ!!助かったぁ!!」
ゼフィールは飛びつき、カイは思わず笑顔になる。
「はいはい。帰りますよ。」
リツは優しい声で二人を包むように歩き出した。
三人の周りだけ、紫雨が触れずに光へと変わる。
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紫雨はメモリスの“負の記憶現象”のひとつ。
晴れでも雨でも、優しさだけは消えない――そんな短いお話でした。




