EP19 「記憶の行方_失われたもの、残されたもの」
村を襲った“バク”との戦いから一ヶ月。
救えなかった人々の記憶――それは、ただ奪われたのではなく、
何者かの手によって「別のエナジー」に書き換えられていた。
アヤセの研究によって明らかになる“記憶の行方”。
そして、取り戻せないという残酷な現実。
それでも、誰かを守りたいと願う仲間たちは、歩みを止めない。
「記憶とは何か」「奪われた魂はどこへ行くのか」――物語は静かに核心へと踏み込んでいく。
記憶のかけらが降る星で___。
EP19 「記憶の行方」
***
アヤセは、ドアが開くのと同時に顔を上げた。
「みんな……おかえり。お疲れ様。」
けれど、返ってくる声はない。
部屋の空気が重く沈む。誰も、言葉を探せずにいた。
カイが拳を握りしめ、唇を震わせる。
「……あの人たちが、いったい何をしたってんだ……!」
ルシアスが静かに目を閉じた。
「……そう思う気持ちも、わかる。だが――その人たちのために、今は“考えて”動こう。解決策が、あるかもしれない。」
おひしょが小さく頷く。
「なんとか……なったんですか?」
そのとき、宙を漂う小さな光が、ふわりと揺れた。
「アヤセ。頼みたいことがある。」
声の主――ちびなちだ。
「社長、なんなりと。」
「村人を一人連れてきた。……研究しろ。」
「し、承知いたしました。」
戸口の影から、怯えたような男が現れる。
「……ここは……?」
「ここは魔法局。怖いところじゃないわ。」
アヤセは微笑んで、そっと手を伸ばす。
「俺……自分がわからない。明日から、どうしたらいい……」
「安心して。しばらくここにいればいいの。」
その優しい声の隣で、カイがうつむいた。
「……なんで。なんでこんなこと……!」
ゼフィールが静かに名を呼ぶ。
「カイ……」
ロランの低い声が続く。
「……美しくない。」
リツが一歩前に出た。
「アヤセさん、頼みます。」
「任せて。研究なら得意だから。……戦闘では役立たずでごめんなさいね。」
カイが、怒りと焦りを混ぜた声で叫ぶ。
「俺たちは……見てることしかできないのかっ!!」
「仕方ない。」
ルシアスの声が、低く響く。
「アヤセを信じよう。」
「バクがまたいつ出るかわからない。」
ゼフィールが周囲を見渡す。
「ここは休息をとって、いつでも出られるように備えよう。」
「……ゼフィールの言う通りだ。」
ルシアスが頷いた。
「いつも通りの生活に戻す。そして、いつでも出られるようにしておけ。わかったな。」
「了解。」
「はい……。」
「リツは無理するなよ。今日はMPを使いすぎた。」
「回復しちゃうね。」
アヤセが手をかざし、静かに詠唱する。
「水式――《蒼海癒泉》!」
淡い光がリツを包み、疲れがふっと消える。
「助かります……。」
「アヤセさんも、最強魔法使えるんだ……!」
「攻撃は得意じゃないけどね。」
アヤセは少し笑って、髪をかき上げた。
「今日は遅い。休め。……解散。」
ルシアスの一声で、静寂の中に散っていく足音。
***
一ヶ月後。
「アヤセ。調べた結果を。」
「はい。」
机の上に並んだ魔力結晶が、微かに光を放つ。
「やはり――記憶そのものを抜き取られ、そこに“ぬくもりを感じるエナジー”が埋め込まれていました。」
「ぬくもりを……感じるエナジー?」
ルシアスが目を細める。
「それって、抱きしめられた時に出したやつと関係してんのかな!!!」
カイが勢いよく口を挟んだ。
「そうかもしれません。」
アヤセは頷く。
「ですが、未だに住人の記憶は戻っていません。おそらく、バクに喰われ、そのまま“エクリプス”の元へ……」
「その記憶って……」
リツが低くつぶやく。
「あぁ。……エクリプスの番頭のところ、だろうな。」
ルシアスの声は冷たく沈む。
「戻す方法って、ないんですか……!」
「記憶を移動する方法……それは、今この世に存在しないわ。」
アヤセの瞳が揺れる。
「……わかってはいたが……」
リツが静かに目を伏せた。
「でも――例外として。」
アヤセは結晶をひとつ、そっと指で転がす。
「“記憶のかけら”として飛ぶことはある。」
「だが、エクリプスのやつらには……」
ルシアスが眉を寄せる。
「――記憶のかけらが、存在しない。」
ゼフィールの声が重なった。
「えぇ。つまり……今のところ、打てる手がないわ。」
静寂が落ちる。
ルシアスが短く息を吐いた。
「……つまり、バクに記憶を喰われた者は――二度と戻らない、ということか。」
「そんな……!」
カイの叫びが響く。
誰も、すぐには言葉を続けられなかった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
EP19は、カイたちにとって初めての“どうしても救えなかった現実”が
真正面から描かれる回でした。
誰かを助けたい。守りたい。
その気持ちだけでは届かないことがある――
それは、メモリスの仲間たちにとっても、読者にとっても、痛いほどの真実です。
そして今回、ほんの少しだけ姿を見せた“記憶のエナジー”の正体。
これは物語の核心へ続く、大きな伏線のひとつです。
アヤセの研究は、まだ始まったばかり。
バク、そしてエクリプスが記憶を奪う理由――
その裏にある“誰かの願いと未練”が、今後明かされていきます。
カイたちは、まだまだ強くなります。
どうか、ここから先も彼らの旅路を見守っていただけたら嬉しいです。
次回も、よろしくお願いします。




