表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶のかけらが降る星で___。  作者: 萩原 なちち
2/28

EP2「初めての仕事 __記憶に残るデビュー戦 」

前回に引き続き、カイの魔法局初日が始まります!

ちょっとドタバタで、ちょっとあたたかい――そんな“きおふる”らしいお話です。


記憶のかけらが降る星で___。


EP2「初めての仕事」


***


 朝から、けたたましい音で目覚ましが鳴り響く――はずだった。


「……やっべ……っ!! 遅刻だぁ!!」


 カイは布団を蹴とばして跳ね起きた。頭の中で警報が鳴りまくる。


(初日から寝坊とか、やらかした……! あの怖そうな編集長に“遅い”って言われるやつだこれ……!)


 顔もろくに洗わず、ローブを抱えて飛び出した。


***


 魔法局・応接室。


 ルシアスはソファに腰かけ、静かに時計を見ていた。針は【9:55】を指している。


「……来ないな。」


 低くつぶやくと、隣で書類を整えていたアヤセが顔を上げた。


「まだ五分ありますよ、編集長。」

「五分前行動は基本だ。」

「さすがTHINKERですね。ふふ」

「別に。」


 そこからさらに十五分。


ルシアスのこめかみが、わずかに動く。


「……なめているのか、あいつは。」

「カイさん、道中で何かあったのかもしれませんよ…。」


 そう言った直後――


 ばぁん!!


扉が開いた。寝癖で跳ねた金髪。寝坊したんだろう。

「し、失礼しますっ!! 遅れてすみません!!」


「遅い。」

「ご、ごめんなさい!! 本当に……! でも途中の村で魔物が出てて……!」

「魔物?」


 ルシアスの表情が一瞬で切り替わる。あの眠たげな鋭い目に、警戒の色が宿った。


「とりあえずぶん殴っておきました! けど、ちょっと時間かかって……!」

「……場所を案内しろ。すぐ向かう。」


 ルシアスはすでに立ち上がっていた。


***


 村は、のどかなはずの朝の空気が少しざわついていた。


「こいつです。」


 カイが指さした先には、けむくじゃらの丸い魔物がひっくり返っている。口だけがやたら大きく、よだれをたらしていた。どうやら気絶しているらしい。


 ルシアスは近づき、ふっと眉をひそめた。


「……結界があるはずだが、弱いな。ほとんど消えかけている。」


 まるで最後の一息で灯っている蝋燭のように、魔力の膜が薄く揺れている。


「え、ほんとだ……!? 全然気づかなかった! じゃあ俺、教会見てきます!」


「おい、ひとりで――」


 引きとめる前に、カイはもう走っていた。


「……行動だけは早い。」


ルシアスはそう呟きながら、わずかに口元を緩めた。


***


 教会の中はひんやりしていた。奥で、結界を維持していたらしい神官が苦しそうに横たわっている。


「大丈夫っすか?!」


「……う、うう……」


 額に汗、呼吸は浅い。


(やば……これ、俺の回復魔法だと足りないやつだ……でも何もしないよりはマシだろ)


 カイは両手をかざし、光を呼び出す。指先に灯るやわらかな魔力が、傷ついた人の表面だけをそっと癒やす。


「……ごめん、かすり傷くらいしか直せないんだけどさ……」


 そのとき、小さな影がひょいっと前に出た。


「どけ。」


「うわっ?!」


 ちびなちがカイを押しのけるようにして手をかざす。短い詠唱。空気が少し澄んだ。


「……軽い呪いだな。これならすぐ治る。」


 神官の顔色が見る見るうちに戻っていく。


「ありがとうございます……ちびなち様……」

「気にするな。結界の守りは村の命だからな。」


(やっぱこのちっこいの何者なんだ……すげぇ……)


***


 外に出ると、ルシアスが状況を確認していた。魔物はすでに拘束され、村の人も落ち着きを取り戻しつつある。


「原因は結界を張っていた人間への呪い。結界が弱まったところに魔物が入り込んだ……そういうことだ。」と、ちびなち。


 ルシアスはカイのほうを向いた。


「……よく気づいて駆けつけたな。」


「お前が行かなければ、この人はもっと呪いに蝕まれていたかもしれない。そうなれば結界は完全に消え、魔物が群れで入ってきただろう。」


「えっ……俺、そんな大したこと……」

「大したことだ。」


 短い言葉だったが、それはちゃんとした“評価”だった。

 カイの胸がじんわり熱くなる。


(あ……怒ってるだけの人じゃないんだ、この人)


***


「せっかくだ。今日はこのあと歓迎を兼ねて食事に行く。アヤセ、手配を。」

「かしこまりました。食堂を押さえておきますね。」

「え、俺も行っていいんすか?」

「当たり前だ。お前の歓迎会だ。」


 カイは思わず笑ってしまった。


***


 魔法局・食堂。


 長机には簡単な料理が並び、職員たちが思い思いに腰を下ろしている。


「アカギ・フレア・カイです! カメラ魔法担当で入りました! よろしくお願いします!」


 カイが頭を下げると、落ち着いた雰囲気の青年がふっと笑った。


「よろしくね。俺はリツ。書類まわりと現場の采配をしてる。困ったら大体俺かアヤセさんに言って。」

「アヤセです。面接のときにもいましたね。魔法局の事務と研究をやっています。……初日から遅刻で魔物討伐は、なかなか記憶に残るデビューですね。」

「うっ……すみません……」


 そこへ、ちびなちが胸を張って飛んできた。


「私はこの会社の社長だ。チビとか言うな。前にも言ったな?」

「い、言ってません! いや、言いました! すみません!!」

「分かればよし。」


 和やかな空気が広がる。


リツがフォークを置いて言った。

「そういえばカイ、BLAZE出身だよね? 副属性は?」


「獣式っす! 本能に従う系の!」


「やっぱり。炎+獣の組み合わせは珍しくないけど、暴走率は高いよ。」

と、アヤセがグラスをくるくる回す。


「編集長も確か……副属性、同じでしたよね?」


「……ああ。」


 一瞬、場の空気が止まった。


「えっ、編集長が……獣式!?」

「まじで? THINKER国家で獣式とか……」


 リツが微笑む。

「珍しいどころか、禁忌に近い。でもその分、強い。」


 ルシアスは淡々と答えた。

「理性で押さえ込めるうちは問題ない。」


「押さえ込めるうちは……ね。」とリツが苦笑する。



「そういえばカイ。今日のあれ、魔物ぶっ飛ばしたんだよね。……ライセンスは?」

「らいせんす……?」


 カイの顔に「初耳です」という文字が書いてあった。


 ルシアスが、静かに水を置いた。


「……無許可で魔物を倒したな。」

「えっ、ちょっ……俺、初日で犯罪者ですか!?」

「今回は俺が責任を持つ。だが次はない。」

「ひぃ……!」


 リツが苦笑しながらフォローする。


「大丈夫大丈夫。編集長が保証人になったから、捕まったりはしないよ。今度ギルド行って、ちゃんと試験受けよう。」


「そ、そんな!保証人って……もうそれほぼ婚約みたいなもんじゃないっすか……いや責任重すぎでしょ……」


 ぴたり、と空気が止まる。


 リツは静かにグラスを口に運び、アヤセは視線を逸らし、ちびなちは「は?」という顔をしている。


 ルシアスだけが低い声で言った。


「……誰もそんなことは言っていない。」


「す、すみませんでしたぁぁぁ……!!」


 食堂に笑いが起きる。


「ともかく。」とルシアスが締める。「無許可で動くな。次は正式にギルドで手続きをしてからだ。お前の腕が使えるのは分かった。あとは“この世界の決まり”を覚えろ。」

「……はい。」


 さっきまで泡を吹きそうだったカイの顔に、今度は“ここでやっていきたい”という色が浮かんでいた。


(大丈夫……かもしれない。ちゃんとやれば、ここで認めてもらえる)


(それに……編集長、やっぱちょっとカッコいいんだよな)


 ――ちょっと、憧れるかも。


***

***

読んでくださってありがとうございます!


初仕事を通して、カイが“仲間になる瞬間”を書きたかった回です。


ルシアスの冷静さの裏にある優しさや、

カイのまっすぐな行動力が、少しずつ重なっていきます。


次回は、ギルド試験へ――星のルールに踏み込むお話です


ブクマ・感想・評価で応援してもらえると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ