EP18「BLAZE村の住人たち__優しさが壊れた村で」
風邪を引いてしまったため、更新が遅れてしまいました。
いつも読んでくれてありがとうございます。
今回は、BLAZE地方で起きている“異変”の核心に迫る回です。
優しいのに恐い。
微笑むのに、どこか空洞。
エクリプスの“記憶を食べる仕組み”が、少しずつ姿を見せはじめます。
そして、カイ・リツ・ルシアスの「守りたい」という気持ちがぶつかる回でもあります。
リツの光式、カイの優しさ、ルシアスの焦り…
それぞれの違いが、この危機のなかでどう働くのか。
魔法局にとって、この事件は“ただの魔物退治”では終わりません。
それでは本編へどうぞ。
記憶のかけらが降る星で___。
EP18 「BLAZEの村の住人たち」
***
「お、魔法局の人たちが来たぞ!」
村の入り口で、見張りの冒険者が声を上げた。
「悪い。遅くなった。」
ルシアスが足を止め、帽子の影から鋭い眼差しを向ける。
「いやもう、一週間ですけど?!」
冒険者の声には、焦りと呆れが混ざっていた。
「すまん。報酬は払う。」
「ま、交代で結界を張ってただけだし。大したことはしてないけどな。」
「状況は?」
冒険者の顔が曇る。
「……なーんも変わんねぇよ。でも聞いてくれよ。」
「?」
「――あいつら、何も食わねぇし、飲まねぇんだ。」
「……一週間もか?」
ルシアスの眉がぴくりと動く。
「あぁ。さすがに可哀想だと思って食べ物をあげても……口をつけないんだよ。」
「おなか、へらないの?」
カイが、静まり返った村の中心に立つ住人へと近づく。
「……いらないよ。もう、満たされてるから。」
虚ろな瞳のまま、住人はふわりと笑った。
「ねぇ……抱きしめて?」
「カイ!!!」
ルシアスの怒声が、夜気を切り裂いた。
「っ……!」
リツがすぐに詠唱を始める。
「光式――《天翔再生》!」
光の波が住人を包み込み、体が激しく震えた。呻き声が上がる。
「……民の心の悪しき魂よ。その場から立ち去るが良い。さもなくば――」
ちびなちの声が響いた瞬間、住人はぴたりと動きを止めた。
表情から、虚ろさが消えていく。
「……なにやってたんだろ、私……」
住人が呟く。
「邪悪な気配が……消えた?」
ルシアスが目を細める。
「成功……なのか?」
リツが小さく息をついた。
「……これを成功と呼ぶべきかは、わからん。」
ちびなちは冷静に告げる。
ゼフィールが苦い顔をする。
「だって……心に埋め込まれてた“記憶”が、ぽっかり抜け落ちちゃったんだもん。」
「ねぇ……私って、誰……? みんな、誰……?」
住人は涙を流し始めた。
「大丈夫……大丈夫だよ。」
カイが思わず肩を抱きしめる。
「カイ!! そんなにくっつくな!!」
ルシアスが制止する。
「こんなに泣いてるんだよ?! ほっとけないよ!!!」
カイは振りほどくように叫んだ。
「私……今まで、何を……」
震える声が、夜の風に溶けていく。
「……この村の人、みんなこうなるのか。」
ルシアスの声が低く沈む。
「だが、バクの記憶は取り除けたようだな。」
ちびなちは静かに結論づける。
「……次、いこうか。」
リツが立ち上がり、疲れた息を吐いた。
リツは再び両手を掲げる。
「光式――っ!」
だがその瞬間、全身から力が抜け、膝をついた。
「……ぐはっ……!」
「リツ!」
ルシアスが駆け寄る。
「無理するな!! もう限界だろ!」
「……十回は……さすがに、きついな……。」
リツは苦笑しながら息を荒げた。
「おい! 他にBELIEVERで、光式の最高魔法を使える者は!?」
ルシアスが冒険者たちに振り返る。
「さ、最高魔法は……いないっすねぇ……。」
冒険者の声が震える。
「ちっ……あと一人なんだが……!」
ルシアスの拳がわずかに震えた、その時――
「私がやる。」
静かな声が割り込む。
「社長……!」
ルシアスが目を見開いた。
「よし。いいだろう。」
ちびなちは一歩前に出る。小さな体から、圧倒的な威厳が漂った。
「でも……みんな……」
カイが涙をにじませる。
「人間なのに……人間じゃないみたい……。」
ゼフィールが唇を噛む。
「みんなの記憶は……どこに……。」
リツが息を荒げながら問う。
「そればっかりは、考えても仕方ない。」
ちびなちは静かに答えた。
「おそらく――エクリプスの元だろう。」
「だ、だよね……。」
カイの声が震える。
「見た感じ……命に別状はない。問題は――心だな。」
ちびなちの瞳が鋭く光る。
「……退くしか、ないか。」
ルシアスの声は低く重い。
「うん……。」
カイは俯き、歯を食いしばった。
優しい笑みを浮かべながら、しかし「誰も知らない」と涙を流す村人たちを背に――
魔法局の一行は、静かに村を後にした。
***
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、
「優しさが残酷に変わる瞬間」
をテーマに書きました。
浄化された住人たちが“記憶だけが抜け落ちた状態”になるのは、
魔法局のメンバーにとってもかなり残酷な現実です。
カイの「ほっとけない優しさ」
ルシアスの「守りたい焦り」
リツの「限界まで戦おうとする姿勢」
ゼフィールの「心の魔法の危険性」
そしてちびなちの“妖精としての本領”。
全員の“信念”が1つの村にぶつかった回でした。
次回は、ついに事件の規模が広がり始めます。
エクリプスが仕掛けた“本当の目的”が、じわじわと魔法局を追い詰めていきます。
これからも楽しんでもらえたら嬉しいです!
感想もお待ちしています




