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記憶のかけらが降る星で___。  作者: 萩原 なちち
19/21

EP18「BLAZE村の住人たち__優しさが壊れた村で」

風邪を引いてしまったため、更新が遅れてしまいました。


いつも読んでくれてありがとうございます。

今回は、BLAZE地方で起きている“異変”の核心に迫る回です。


優しいのに恐い。

微笑むのに、どこか空洞。


エクリプスの“記憶を食べる仕組み”が、少しずつ姿を見せはじめます。


そして、カイ・リツ・ルシアスの「守りたい」という気持ちがぶつかる回でもあります。

リツの光式、カイの優しさ、ルシアスの焦り…

それぞれの違いが、この危機のなかでどう働くのか。


魔法局にとって、この事件は“ただの魔物退治”では終わりません。


それでは本編へどうぞ。


記憶のかけらが降る星で___。

EP18 「BLAZEの村の住人たち」


***


「お、魔法局の人たちが来たぞ!」

村の入り口で、見張りの冒険者が声を上げた。


「悪い。遅くなった。」

ルシアスが足を止め、帽子の影から鋭い眼差しを向ける。


「いやもう、一週間ですけど?!」

冒険者の声には、焦りと呆れが混ざっていた。


「すまん。報酬は払う。」


「ま、交代で結界を張ってただけだし。大したことはしてないけどな。」


「状況は?」


冒険者の顔が曇る。

「……なーんも変わんねぇよ。でも聞いてくれよ。」


「?」


「――あいつら、何も食わねぇし、飲まねぇんだ。」


「……一週間もか?」

ルシアスの眉がぴくりと動く。


「あぁ。さすがに可哀想だと思って食べ物をあげても……口をつけないんだよ。」


「おなか、へらないの?」

カイが、静まり返った村の中心に立つ住人へと近づく。


「……いらないよ。もう、満たされてるから。」

虚ろな瞳のまま、住人はふわりと笑った。


「ねぇ……抱きしめて?」


「カイ!!!」

ルシアスの怒声が、夜気を切り裂いた。


「っ……!」


リツがすぐに詠唱を始める。

「光式――《天翔再生》!」


光の波が住人を包み込み、体が激しく震えた。呻き声が上がる。


「……民の心の悪しき魂よ。その場から立ち去るが良い。さもなくば――」

ちびなちの声が響いた瞬間、住人はぴたりと動きを止めた。


表情から、虚ろさが消えていく。


「……なにやってたんだろ、私……」

住人が呟く。


「邪悪な気配が……消えた?」

ルシアスが目を細める。


「成功……なのか?」

リツが小さく息をついた。


「……これを成功と呼ぶべきかは、わからん。」

ちびなちは冷静に告げる。


ゼフィールが苦い顔をする。

「だって……心に埋め込まれてた“記憶”が、ぽっかり抜け落ちちゃったんだもん。」


「ねぇ……私って、誰……? みんな、誰……?」

住人は涙を流し始めた。


「大丈夫……大丈夫だよ。」

カイが思わず肩を抱きしめる。


「カイ!! そんなにくっつくな!!」

ルシアスが制止する。


「こんなに泣いてるんだよ?! ほっとけないよ!!!」

カイは振りほどくように叫んだ。


「私……今まで、何を……」

震える声が、夜の風に溶けていく。


「……この村の人、みんなこうなるのか。」

ルシアスの声が低く沈む。


「だが、バクの記憶は取り除けたようだな。」

ちびなちは静かに結論づける。


「……次、いこうか。」

リツが立ち上がり、疲れた息を吐いた。


リツは再び両手を掲げる。

「光式――っ!」


だがその瞬間、全身から力が抜け、膝をついた。

「……ぐはっ……!」


「リツ!」

ルシアスが駆け寄る。

「無理するな!! もう限界だろ!」


「……十回は……さすがに、きついな……。」

リツは苦笑しながら息を荒げた。


「おい! 他にBELIEVERで、光式の最高魔法を使える者は!?」

ルシアスが冒険者たちに振り返る。


「さ、最高魔法は……いないっすねぇ……。」

冒険者の声が震える。


「ちっ……あと一人なんだが……!」

ルシアスの拳がわずかに震えた、その時――


「私がやる。」

静かな声が割り込む。


「社長……!」

ルシアスが目を見開いた。


「よし。いいだろう。」

ちびなちは一歩前に出る。小さな体から、圧倒的な威厳が漂った。


「でも……みんな……」

カイが涙をにじませる。


「人間なのに……人間じゃないみたい……。」

ゼフィールが唇を噛む。


「みんなの記憶は……どこに……。」

リツが息を荒げながら問う。


「そればっかりは、考えても仕方ない。」

ちびなちは静かに答えた。

「おそらく――エクリプスの元だろう。」


「だ、だよね……。」

カイの声が震える。


「見た感じ……命に別状はない。問題は――心だな。」

ちびなちの瞳が鋭く光る。


「……退くしか、ないか。」

ルシアスの声は低く重い。


「うん……。」

カイは俯き、歯を食いしばった。


優しい笑みを浮かべながら、しかし「誰も知らない」と涙を流す村人たちを背に――

魔法局の一行は、静かに村を後にした。


***

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

今回は、

「優しさが残酷に変わる瞬間」

をテーマに書きました。


浄化された住人たちが“記憶だけが抜け落ちた状態”になるのは、

魔法局のメンバーにとってもかなり残酷な現実です。


カイの「ほっとけない優しさ」

ルシアスの「守りたい焦り」

リツの「限界まで戦おうとする姿勢」

ゼフィールの「心の魔法の危険性」

そしてちびなちの“妖精としての本領”。


全員の“信念”が1つの村にぶつかった回でした。


次回は、ついに事件の規模が広がり始めます。

エクリプスが仕掛けた“本当の目的”が、じわじわと魔法局を追い詰めていきます。


これからも楽しんでもらえたら嬉しいです!

感想もお待ちしています


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