EP17 「出発会議――動き出す“水面下”の真実」
今日は、魔法局が動き出す日です。
にぎやかな朝の空気の裏では、焦りと不安が静かにうごめいています。
バクの事件から一週間。
ロランを迎えたのも束の間、再びBLAZEへ向かわなければならない——。
誰もが笑いながらも、胸の奥にはそれぞれの“痛み”と“決意”を抱えている。
守りたいものがあるから、立ち止まれない。
そして、今まで知らなかった“危険の本質”が、ゆっくりと姿を現し始めます。
にぎやかで、騒がしくて、楽しい朝のシーン。
でも……水面下では、運命の歯車が静かに回り出す。
物語が一段階動くEP17、ぜひお楽しみください。
記憶のかけらが降る星で___。
EP17 「出発会議」
***
「ふわぁぁあぁ……もう朝か……」
カイは大きく伸びをしながら天井を見上げる。
――バクの事件から一週間。ロランが魔法局にやって来て、もう四日。
今日は会議を行ったあと、再びBLAZEへ向かわなければならない。
「……気が重いなぁ。でも、助けなきゃ。みんなを」
そうつぶやき、カイはささっとシャワーを浴びて身支度を整えた。
***
「お〜おはよ〜」
先に食堂に来ていたリツが、カップを片手に声をかける。
「おはようございまーす!」
カイは元気よく挨拶。
「あら、カイちゃん♡髪濡れてるー♡」
ゼフィールがにやにや笑いながらひらひら手を振る。
「なんか変な言い方すんな!!」
カイは耳まで赤くなる。
「おはよう♡」
ゆったりと現れるロラン。
「おはよ〜」
リツも軽く手を振る。
「おはよ!!」
カイも声を弾ませた。
「どう? 生活には慣れた?」
ゼフィールが尋ねると、ロランは楽しげに肩を竦める。
「居心地いいね〜♪ うちより全然いいよ♡」
「え、王様の家ってすげーんじゃねぇの?」
カイが思わず口を尖らせる。
「全然……そんなことないよ」
ロランは苦笑しながら答えた。
「へぇ〜? ねぇ今日のご飯当番、誰?」
ゼフィールが首を傾げた瞬間――
「…………」
「……カイ?」
リツが横目で見た。
「うわぁぁあぁぁああぁ!! すぐに買い出しに!!!」
カイは飛び上がるように立ち上がった。
「いや、そこからかよ! 美しくないねっ!」
ロランが噴き出す。
「騒がしいな……」
低い声と共にルシアスが現れる。
「おはよー」
リツが挨拶。
「おはよ♡」
ゼフィールが軽く手を振る。
「カイは何を慌ててる」
ルシアスの冷たい視線。
「ご飯当番忘れてたんだって〜」
ロランが楽しそうに答える。
「……はぁ。今日は大切な会議だってのに」
ルシアスは深いため息を吐く。
「いい、俺がやる。みんな待ってろ」
「やったぁ〜♡」ゼフィールがはしゃぐ。
「ごめんなさぁあい!!」カイは泣きそうな声を上げる。
「……許さん」
ルシアスはきっぱりと答えた。
「どうどう……笑」
リツは肩をすくめて、なだめるしかなかった。
***
(朝食後、会議室にて)
「では……これからの動きを決めよう」
ルシアスの低い声が部屋に響く。
「まず、どうするかじゃない?」
ゼフィールが腕を組む。
「……それもそうだが」
ルシアスは額に手を当てた。
「はーい!!」
カイが元気よく手を上げる。
「村人を解放して……なんか触ってみるとか!」
「だめだ」
ルシアスは即答。
「なんもできねぇじゃん?!」
カイが机をばんっと叩いた、その時――
「……社長」
ルシアスが姿勢を正す。
「事件は解決したのか」
小さな影――ちびなちが現れた。
「いえ……これから見に行くところで……」
ルシアスは居住まいを正す。
「遅い」
「すみません……」
ちびなちの視線が鋭く光る。
「……バク、か。そいつに住人が何かされるところは、見てないんだな?」
「俺は見てない。リツも一緒にいたけど……見てなかったと思います」
カイが答える。
「なるほどな。……リツ。記憶は本当にないんだな?」
「……ないです。カイとバクのクエストを受けて、BLAZEに行ったことは……覚えてます」
「短期的な記憶が切り取られてるようだな。たぶん――記憶の捕食」
ちびなちの言葉に、空気が凍る。
「住人は……バクに操られているか、記憶ごと改竄されているか……」
「……!」
ルシアスの目が鋭くなる。
「そんな……」
カイが顔を青ざめさせる。
「警戒心が消える……優しい温もり……」
ちびなちは淡々と続ける。
「たぶん、抜き取った記憶の部分に“別のもの”を入れたに違いない」
「バクにそんな力が……!」
ルシアスが低く唸る。
「さぁな。バクがやったのか、エクリプスがやったのか……憶測だ」
ちびなちは肩をすくめる。
「つまり……その埋め込まれた記憶を――取り除く必要がある」
「な、なるほど……」
リツが頷く。
「まぁ、美しいんじゃない?」
ロランが意味深に微笑む。
「……そんなこと、できるのか?」
ルシアスの問いに、空気がさらに重く沈んだ。
「リツ……光式《天翔再生》、できるな?」
ちびなちが問いかける。
「……できますけど。最高難度の技なので、何度も使えばすぐにMPが尽きます」
リツの声にわずかな緊張が滲む。
「私も、冒険者も協力する。みんなでやってみよう」
ちびなちは揺るぎない声で続けた。
「天翔再生……味方の全回復の技か」
ルシアスが呟く。
「だいぶMP食らうやつだよね……」
カイが顔をしかめる。
「BELIEVERはMPが多いとはいえ、そう何度も撃てる技じゃない」
ゼフィールが真顔になる。
「まぁ……やってみる価値はあるかもね」
ロランは軽く肩を竦めて言った。
「それと――呪い除去の魔法は私が使う。これで多少は改善するはずだ」
ちびなちは淡々と告げる。
「じゃ、行きますか」
ゼフィールが腰を上げる。
「だな」
ロランも頷いた。
***
今回も読んでくださり、ありがとうございます。
にぎやかで笑いの多い回でしたが、
その裏で“もう引き返せない段階”へ物語が進み始めました。
ロラン加入で戦力は増えたはずなのに、
なぜか胸のざわつきは消えない——
そんな空気を感じていただけたなら嬉しいです。
次回はいよいよBLAZEへ再突入。
バク、そして“記憶の書き換え”の正体に迫っていきます。
覚悟を決める仲間たちと、
まだ自分の限界を知らないカイ。
この差がどう作用するのか、ぜひ見守ってください。
それでは、次話でまたお会いしましょう!




