表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶のかけらが降る星で___。  作者: 萩原 なちち
16/21

EP15「俺の名前___盗んだ記憶で生きる者」

今回の回は、敵側 “ロイ” の視点です。

ロイは「忘れることが宿命」ではありません。

人の記憶を食べて存在を維持する生き物。

奪った記憶が、人格・考え方・知識として積み上がっていく――

だからこそ、「自分自身がどこから始まったのか」を誰よりも知らない存在です。


そんなロイが初めて、

“奪った記憶ではない言葉”を心に残す瞬間があります。


それが――カイが与えた「名前」。


彼の中で生まれた “初めての自分由来の感情” を描きました。

静かだけど大きな転換回です。

それでは本編へ。


記憶のかけらが降る星で___。

EP15 「俺の名前」


***


ロイのアジト


夜。薄暗いアジトにロイが帰ってきた。


――脳裏に蘇る声。


『名前……ないの?』

『じゃあ、お前……ロイな』


「……ロイ」

呟いたその名が、胸の奥にじんと残る。


***


「よぉ、うまくいったのか?」

仲間の一人が顔を覗かせる。


「あぁ。バクは記憶をちゃんと食ってこれるし、問題ない」

「へぇ、なら安心じゃん」


「……ただ、一人。面倒そうなやつが増えてた」


「面倒?」

「カイ……と言ったか」


「どんなやつだよ」


ロイは小さく笑い、言葉を吐き出す。

「……俺に“名前”をくれた」


「はぁ? 名前だぁ?」

「ロイ、だと」


「……どうせすぐ忘れちまうしなぁ。いいんじゃね? ロイ」


「……バカみたいだよな、本当に」

ロイは俯きながら吐き捨てる。


「確かに変わったやつだな。名前なんて――」


「……でも、あいつの記憶、気になる」


「そうかぁ? 俺はあのロン毛の方が気になるけどな」

「……あぁ。あいつか。今日もいたな」


「ロン毛は見るからに頭が切れる。あれは欲しい」

「……強敵だぜ、たぶんな」


「ま、どうせ忘れちまうからどーでもいいけどな、はは」


「……それも、そうだな」


部屋に戻ったロイは机に紙を広げる。


「ロイ……忘れたくねぇな」


そう呟きながら、震える手で文字を刻んだ。


――『俺はロイ。あいつはカイ。』


小さな紙切れをひっそりと隠し、ひとりつぶやく。

「なにしてんだろ、俺」


***


魔法局・喫煙室


「はぁ……色々ありすぎる一日だった……」

煙を吐きながら、カイはぽつりと呟いた。

「リツ……良くなってきててよかった」


ガチャ、と扉が開き、ルシアスが入ってくる。


「……隣、いいか」

「は、はい……」


「バクのクエスト。持ってきたのはお前だな、カイ」

「う、うん……」


「よくやった」


「……!」

思わず息を呑むカイ。


「もしこのまま放置されていれば……村だけじゃない。BLAZE、いや、国家そのものがやられていたかもしれん」


「でも……! 他の村の住人、放っておけないよ!!」


「それが問題だ。今は他の冒険者に結界を張ってもらっているが……ずっとこうしているわけにもいかない」


「……とりつかれたみたいになってるのかな」

「おそらくな」


「……バクにやられると、人間が……バク化する……?」

「そういうことになる」


「……怖い。もし俺の大切な人がやられてしまったら……」


ルシアスは短く目を閉じ、言葉を落とした。

「言っただろ。お前は“記録”するんだ」


「そ、そうだけど……」


「もし、俺が……カイのことを忘れたら」

「え……?」


「今まで会ったこと。時間がかかってもいい……教えてくれ」


「……わ、わかった」


***


医務室


「なんか、ごめんね……俺のせいで……」

リツがベッドの上で弱々しく言う。


「何言ってんの!!! リツは悪くない!!」

ゼフィールが声を荒げた。


「聞いた話だと……俺、エクリプスにやられたんだよね?」

「無理ないよ!! 結界張りながらエクリプスとやり合うなんてさ!」


「……今度は。来てもらおうかな」

「当たり前でしょ?! 来るなって言っても行くからね?♡」


「……頼りにしてるよ」

リツが小さく笑う。


「でも……ボクの“記憶侵蝕メモリア・インヴェイド”は使えなさそうだね。抱擁で抜き取られるんじゃ……ボクも接触で記憶を見るからさ」


「確かに……あ、やるなよ?」

「わかってるよ♡ 演式の遠距離攻撃でいくから♡」


「俺の結界は……破られてしまったから。GUARDIANの鉄壁がほしいところだ」


「GUARDIANの盾は素晴らしいからね♡ 他の属性に出せるもんじゃない」


「一応、アヤセはGUARDIANだけど……危ないことはさせられない」


そんな時――


「……新メンバーが来る」

ルシアスの声が響いた。


「え?!?」

「ええっ?!?!」

「えぇぇぇっ?!」


カイ・リツ・ゼフィールの声が重なる。


***

今回のテーマは 「自分とは何で出来ているのか」 でした。


ロイは、

人の記憶を奪うことで「自分」を維持してきた存在です。

知識も、価値観も、好き嫌いも、口癖も――

“食べた記憶” が積み上がって形になっているだけ。


だからロイには本来、

・原点

・ルーツ

・名前

がひとつもありません。


そんな彼の中で

“奪った記憶ではない初めての言葉” が生まれました。


「俺はロイ」


その小さな紙切れは、

彼にとって 生まれて初めて自分で選び取ったアイデンティティ です。


物語はこれから、

敵でありながら、敵ではいられなくなる者たちへと交差していきます。

次回もぜひ読んでください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ