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記憶のかけらが降る星で___。  作者: 萩原 なちち
15/23

EP14「名前を持たぬもの__記憶を喰う影」

今回のエピソードは、前回の村での事件の“その後”です。


リツが倒れ、記憶に異変が起きたことで、

仲間に“喪失”の恐怖が現実として迫り始めます。


そして初めて明確に姿を現した存在――

“名前を持たぬもの(エクリプス)”。


彼の言葉、意図、能力。

すべてがまだ謎のままですが、ひとつだけ確かなのは――


カイの選択が、この先の物語を大きく変えるということ。


守れなかった記憶は戻らないのか?

思い出せないまま、関係は続くのか?


キャラの感情に寄り添いながら読んでいただけたら嬉しいです。

では、本編へどうぞ。


記憶のかけらが降る星で___。

EP14 「名前を持たぬもの」


***


「ど、どうしよう……リツ……!」

カイの声が震える。


リツの体がぐらりと傾き、そのまま意識を失った。


「リツ!!! しっかりしろ!!!」

ルシアスが駆け寄り、肩を揺さぶる。

「……おい、お前!! リツになにをした!」


闇の中から現れた影が、愉快そうに口を歪める。

「ちょ〜っと。味見〜」 


ロイとリツはとても距離が近いように見えた。


「味見……?」カイが眉をひそめる。

「この村の人たちは!! 一体どうしたんだよ!!」


「決まってんだろ。バクの実験だよ〜」

軽薄に笑うその声に、ルシアスの瞳が怒りで燃える。


「……ふざけたやつだ」


「ふざけたやつ……ね」

影の瞳がふっと細められる。

「俺はなぁ……名前もねぇ。記憶もすぐ消える。食ってねぇと……何も残らねぇんだよ」


カイは一瞬言葉を失い、それから真っ直ぐに睨み返した。

「……名前、ないの?」


「ねぇよ」


「……じゃあ、お前は――ロイだ」


影の目がわずかに揺れる。

「……ロイ?」


「そうだ。お前の名前はロイだ!! だからリツを返せ!!!」


沈黙ののち、男はふっと笑った。

「……勝手にしろ」


バクの群れを引き連れ、霧のように姿を消していく。


「リツ!!!!!」

カイが駆け寄り、必死に名を呼ぶ。


リツはぐったりとしたまま、わずかに胸が上下していた。


「……息はある」

ルシアスは安堵と怒りを押し殺し、リツを抱きかかえる。

「魔法局へ戻るぞ。くれは先生の元へ……!」


***


魔法局・医務室。

くれは先生がリツの脈を確かめ、静かに頷いた。


「……気絶しているだけね。大丈夫、命に別状はないわ」


「……ん……」

リツの指がかすかに動き、まぶたが開く。


「リツ!!!!!」

カイが勢いよく顔をのぞき込む。


「……カイ?」


「うわぁぁぁぁぁん!!!」

カイの目から涙が溢れ出す。


「なんで泣いてんの……笑」

リツは困ったように、それでも微かに笑みを浮かべた。


「平気なのか」

ルシアスが低い声で問いかける。


「……俺、なんかした?」


「したに決まってんだろ!!」

カイが声を裏返す。

「エクリプスのやつとか!! バクに!! なにかされたんでしょ?!」


「……? ごめん。わかんない……」


「……なん、だと?」

ルシアスの瞳が険しく細められる。


リツは額に手を当てながら、ぽつりと口を開く。

「カイと……クエスト……バク……それは覚えてる。

でも……エクリプスは……わかんない」


「記憶が……やられてる?」

カイが震える声で呟く。


ルシアスは奥歯を噛みしめ、低く吐き出す。

「あいつ……」


***


「――緊急会議だ」

ルシアスの低い声が響いた。

舞台は医務室。リツの回復を待ちながら、そのまま会議が開かれることになった。


「リツ……。平気なの?」

ベッドの傍らに立つゼフィールが心配そうに覗き込む。


「……俺は全然、大丈夫」

リツは無理にでも笑おうとするが、声に力はなかった。


「だからボクも行くって言ったのに!!」

ゼフィールがぷくっと頬を膨らませる。


「……ちょっとナメてた」

自嘲気味に視線を逸らすリツ。


ルシアスが真剣な眼差しで場を見渡す。

「記憶バク……についてだ」


「記憶バク……」カイがごくりと唾を飲む。


「どんなやつなの?」リツが問いかけるが、すぐに視線を落とす。

「……ほんとに、覚えてないんだ」


その答えに、室内に重苦しい空気が流れる。


ゼフィールが腕を組み、静かに口を開いた。

「このことに関しては……第三者が助言しても問題ないみたいだね」


「……まぁ」ルシアスが頷く。

「エクリプスは“メモリスの人間”ではないからな」



「……よ、よかった……」

カイが胸を撫で下ろす。


「メモリスの掟、だからね」

リツは弱々しくも、いつもの声を返した。


ゼフィールが真顔になる。

「記憶の連鎖は“世界の秩序”に直結してる。無理に戻そうとすると――世界が崩壊するか、本人の命が消えるリスクがある。……だよね」


「ひぃ!!! よかったよう……リツ……」

カイは青ざめながらリツの手を握った。


ルシアスが低く呟く。

「……つまり、エクリプスは直接は関係ないってことか」


「えぇ。体は問題なさそうよ」

くれは先生が診断を終え、穏やかな声を返す。

「一応、ユウゼンにも聞いてみたけど大丈夫そうよ」


「でも……リツの“食われた記憶”って……」

カイが不安そうに問う。


「おそらく……ロイの中だろうな」

ルシアスの答えに、部屋の空気が重く沈む。


「……もし、大切な人の記憶が食われたとしたら……!」

カイの瞳が震える。


「――残酷な結末になるだろうな」

ルシアスの声音は冷徹だった。


「こ、怖い……」


だがすぐに、その視線がカイを捉える。

「でも……カイ。お前は“記録”できる」


「……記録?」


「あぁ。エクリプスはメモリスの秩序に関与してない。つまり第三者が何を教えようと、記録しようと問題はない。記憶のかけらとは訳が違う」


「……俺が、記録する」


「そうだ。お前が記録してくれれば、もし誰かが忘れてしまっても――思い出す道筋が残る」


「……俺、やるよ。記録」

カイの声は、震えながらも決意に変わっていた。


読んでくださり、ありがとうございます!


今回初めて本格的に描かれたのは――

“記憶を奪う存在”がいるという現実。


記憶の喪失はメモリスにとって“命の危機”に近いほどの重さがある世界で、

忘れる側も苦しみ、忘れられた側も苦しむ。

その残酷さが露わになりました。


そしてカイの 「名前をつけた」 行動は

のちの展開で非常に重要な意味を持ちます。


・奪われた記憶

・記録しようとする意思

・名前を与えた理由

・ロイという名前の行方


このEP14は“静かに未来が決まった回”です。

伏線はまだ回収しません。楽しみにしていてください。


次回EP15は――

キャラの感情と関係が一気に揺れます。


感想・応援・いいね、本当に励みになります。

今日も読んでくれてありがとう!


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