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記憶のかけらが降る星で___。  作者: 萩原 なちち
14/23

EP13 「Eclipse __忘却の番頭」

今回は、メモリスの中でも“外れの村”で起きている異変に迫る回です。


カイたちが出会うのは、

「抱きしめるだけで記憶に干渉してくる」正体不明の存在。


そして、“もう一人捕まっている”という不穏な言葉――。


村の静けさ、違和感、住人の奇妙な笑顔。

ここから、物語は大きく動き始めます。


それぞれのキャラが「誰を守りたいのか」が強く出る回なので、

そのあたりも楽しんでいただければ嬉しいです!


では本編へどうぞ。


記憶のかけらが降る星で___。

EP13 「エクリプス__忘却の番頭」


――重い足音だけが響く。


(……一体、なにが起きてる? “バク”? ……カイは、リツは無事なのか)

(早く向かわなきゃ……)


「……なんだ、この村は」

静けさと不気味さに、ルシアスは眉をひそめた。


「ルシアス!!!! こっちに!!」

リツの声が遠くから飛んでくる。


「すぐ行く!」

駆け寄ったその先で目にしたのは、異様な生物だった。


「……なんだ、この生物は」


「バク……みたいだよね」カイが小声でつぶやく。


「わからない……」リツは険しい表情を崩さない。


「この住人は? なぜ閉じ込めてる」

「……たぶん、やられてる」

「やられてる?」

「このバクとやらに、なにか“されている”と思う」


「……どういうことだ」


「さっきの住人、カイにいきなり抱きつきやがった」


「はぁ?!」ルシアスの視線がカイに突き刺さる。

「カイ。……平気なのか」


「お、俺はなんとも……。でも……すごく優しくて……安心するような気持ちに、なったかも」


「……そこが引っかかるんだよ」リツが低く言い放つ。

「おかしい」


「……確かに、おかしい」ルシアスも頷く。


リツは杖を振り上げ、光を展開した。

「光式――聖環輝界!」


眩い結界が広がり、バクを押し込める。

だが次の瞬間、光が揺らぎはじめた。


「……まずいな。結界がすぐに消えかかる」ルシアスが顔をしかめる。

「もう四回はやり直してる……」リツの声はかすれていた。


(どうする……)


「殺す……わけにもいかないし……。おれ、他の家も見てくるよ!」カイが飛び出しかける。


「だめだ。俺のそばから離れるな!」ルシアスの声が鋭く飛んだ。

「わ、わかったよ……」カイは肩をすくめる。


「カイ。今はルシアスの言うことを聞いて」リツも冷静に制止する。


ルシアスは短く息を吐く。

「……だが確かに、他の家も気になる。この村は元々、住人が少ないようだが……」


「ここ、六世帯しかいないよ。俺、ここの隣の地区出身だから……」カイが答える。


「……そうか。リツ、ここを守っていてくれ。俺は周りを確認してくる」

「了解。何かあったらすぐ連絡する」


ルシアスはカイの肩を掴み、鋭い目を向ける。

「カイ。お前は俺のそばを離れるな。……わかったな」


「……はい」


「失礼します……」

ルシアスが静かに戸を開けると、中には小さな子どもがいた。


「こども……?」カイが目を丸くする。


「……ままぁ」

子どもは怯えたように顔を上げ、次の瞬間、にこりと笑った。

「ぎゅうって……していい?」


「離れろ!!!! カイ!!」

ルシアスの声が鋭く響く。


「う、うぅ……ごめんね」カイは後ずさりした。


ルシアスは唇をかみしめ、低く呟く。

「……俺たちは結界が張れない。まずいな」


「でも、バクは……いないよ?」

「……そのようだな。次の家を見てみるか」


***


いくつもの家を調べたが、どこにも“バク”の姿はなかった。


「なんとなくわかった」ルシアスが静かに言う。

「あのバクに強い抱擁をされると……記憶を抜かれるか、操作されるか。なにかが起きる」


「俺、一瞬抱きしめられた時……なにかを感じた」カイが眉をひそめる。


「……今のところ、少しの抱擁なら何も起きないようだが……」


その時。


闇の中に“人影”が揺らめいた。


「だれだ!! カイ!! 離れるな!!」

ルシアスの声に、カイが息を呑む。


「やっほ〜」

飄々と現れたのは、黒衣をまとった青年だった。


「……何者だ」ルシアスが睨みつける。


「エクリプスの――番頭さ」


「エクリプス……?」

カイが小声でつぶやく。

「聞いたことある……」


「噂のエクリプスか……。お前の仕業か」

ルシアスの声音は低く鋭い。


「あぁ、そうさ。……うまくいってるようだな」

番頭の目が愉快そうに光った。


「なにを言って……」


「ははっ。呑気だね? もう一人、捕まってるってのに」


「……まさか!」

ルシアスの表情が凍りつく。


「リツ!!!」

声を上げた瞬間、木の幹に縛り付けられているリツの姿が目に入った。


「……ごめん」リツが苦しげに目を伏せる。


「リツさん!!! すぐ行くよ!!!」カイが飛び出そうとする。


「やめろ! 下手に動くな!!」ルシアスの怒声が遮った。


番頭はにやりと笑い、カイを見据える。

「いいねぇ……君。名前は?」


「……カイ」


「カイ……ね。まぁ、俺すぐ忘れちゃうんだけど」


「……すぐ、忘れる?」

カイの胸にざわりとした不安が広がる。


番頭は愉快そうに肩を揺らした。

「そう。俺たちは――忘れることで生き延びてるんだよ」


***

ここまで読んでくださりありがとうございます!


今回ついに名前が出てきた “エクリプス”。

メモリスで囁かれていた“噂”が、ついに現実として姿を現しました。


バクの正体は?

抱擁で何が起きるのか?

なぜリツは狙われたのか?

そして、番頭の言う「忘れることで生き延びてる」とは――?


このあたりは次回以降、少しずつ明かしていきます。


カイは一瞬抱きしめられただけで“なにか”を感じています。

ルシアスの異常な警戒心も伏線です。


第14話は、かなり核心に踏み込む回になるのでお楽しみに。


感想やいいね、とても励みになります。

今日もありがとう!


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