EP13 「Eclipse __忘却の番頭」
今回は、メモリスの中でも“外れの村”で起きている異変に迫る回です。
カイたちが出会うのは、
「抱きしめるだけで記憶に干渉してくる」正体不明の存在。
そして、“もう一人捕まっている”という不穏な言葉――。
村の静けさ、違和感、住人の奇妙な笑顔。
ここから、物語は大きく動き始めます。
それぞれのキャラが「誰を守りたいのか」が強く出る回なので、
そのあたりも楽しんでいただければ嬉しいです!
では本編へどうぞ。
記憶のかけらが降る星で___。
EP13 「エクリプス__忘却の番頭」
――重い足音だけが響く。
(……一体、なにが起きてる? “バク”? ……カイは、リツは無事なのか)
(早く向かわなきゃ……)
「……なんだ、この村は」
静けさと不気味さに、ルシアスは眉をひそめた。
「ルシアス!!!! こっちに!!」
リツの声が遠くから飛んでくる。
「すぐ行く!」
駆け寄ったその先で目にしたのは、異様な生物だった。
「……なんだ、この生物は」
「バク……みたいだよね」カイが小声でつぶやく。
「わからない……」リツは険しい表情を崩さない。
「この住人は? なぜ閉じ込めてる」
「……たぶん、やられてる」
「やられてる?」
「このバクとやらに、なにか“されている”と思う」
「……どういうことだ」
「さっきの住人、カイにいきなり抱きつきやがった」
「はぁ?!」ルシアスの視線がカイに突き刺さる。
「カイ。……平気なのか」
「お、俺はなんとも……。でも……すごく優しくて……安心するような気持ちに、なったかも」
「……そこが引っかかるんだよ」リツが低く言い放つ。
「おかしい」
「……確かに、おかしい」ルシアスも頷く。
リツは杖を振り上げ、光を展開した。
「光式――聖環輝界!」
眩い結界が広がり、バクを押し込める。
だが次の瞬間、光が揺らぎはじめた。
「……まずいな。結界がすぐに消えかかる」ルシアスが顔をしかめる。
「もう四回はやり直してる……」リツの声はかすれていた。
(どうする……)
「殺す……わけにもいかないし……。おれ、他の家も見てくるよ!」カイが飛び出しかける。
「だめだ。俺のそばから離れるな!」ルシアスの声が鋭く飛んだ。
「わ、わかったよ……」カイは肩をすくめる。
「カイ。今はルシアスの言うことを聞いて」リツも冷静に制止する。
ルシアスは短く息を吐く。
「……だが確かに、他の家も気になる。この村は元々、住人が少ないようだが……」
「ここ、六世帯しかいないよ。俺、ここの隣の地区出身だから……」カイが答える。
「……そうか。リツ、ここを守っていてくれ。俺は周りを確認してくる」
「了解。何かあったらすぐ連絡する」
ルシアスはカイの肩を掴み、鋭い目を向ける。
「カイ。お前は俺のそばを離れるな。……わかったな」
「……はい」
「失礼します……」
ルシアスが静かに戸を開けると、中には小さな子どもがいた。
「こども……?」カイが目を丸くする。
「……ままぁ」
子どもは怯えたように顔を上げ、次の瞬間、にこりと笑った。
「ぎゅうって……していい?」
「離れろ!!!! カイ!!」
ルシアスの声が鋭く響く。
「う、うぅ……ごめんね」カイは後ずさりした。
ルシアスは唇をかみしめ、低く呟く。
「……俺たちは結界が張れない。まずいな」
「でも、バクは……いないよ?」
「……そのようだな。次の家を見てみるか」
***
いくつもの家を調べたが、どこにも“バク”の姿はなかった。
「なんとなくわかった」ルシアスが静かに言う。
「あのバクに強い抱擁をされると……記憶を抜かれるか、操作されるか。なにかが起きる」
「俺、一瞬抱きしめられた時……なにかを感じた」カイが眉をひそめる。
「……今のところ、少しの抱擁なら何も起きないようだが……」
その時。
闇の中に“人影”が揺らめいた。
「だれだ!! カイ!! 離れるな!!」
ルシアスの声に、カイが息を呑む。
「やっほ〜」
飄々と現れたのは、黒衣をまとった青年だった。
「……何者だ」ルシアスが睨みつける。
「エクリプスの――番頭さ」
「エクリプス……?」
カイが小声でつぶやく。
「聞いたことある……」
「噂のエクリプスか……。お前の仕業か」
ルシアスの声音は低く鋭い。
「あぁ、そうさ。……うまくいってるようだな」
番頭の目が愉快そうに光った。
「なにを言って……」
「ははっ。呑気だね? もう一人、捕まってるってのに」
「……まさか!」
ルシアスの表情が凍りつく。
「リツ!!!」
声を上げた瞬間、木の幹に縛り付けられているリツの姿が目に入った。
「……ごめん」リツが苦しげに目を伏せる。
「リツさん!!! すぐ行くよ!!!」カイが飛び出そうとする。
「やめろ! 下手に動くな!!」ルシアスの怒声が遮った。
番頭はにやりと笑い、カイを見据える。
「いいねぇ……君。名前は?」
「……カイ」
「カイ……ね。まぁ、俺すぐ忘れちゃうんだけど」
「……すぐ、忘れる?」
カイの胸にざわりとした不安が広がる。
番頭は愉快そうに肩を揺らした。
「そう。俺たちは――忘れることで生き延びてるんだよ」
***
ここまで読んでくださりありがとうございます!
今回ついに名前が出てきた “エクリプス”。
メモリスで囁かれていた“噂”が、ついに現実として姿を現しました。
バクの正体は?
抱擁で何が起きるのか?
なぜリツは狙われたのか?
そして、番頭の言う「忘れることで生き延びてる」とは――?
このあたりは次回以降、少しずつ明かしていきます。
カイは一瞬抱きしめられただけで“なにか”を感じています。
ルシアスの異常な警戒心も伏線です。
第14話は、かなり核心に踏み込む回になるのでお楽しみに。
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