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記憶のかけらが降る星で___。  作者: 萩原 なちち
13/23

EP12 「優しい抱擁と__壊れる記憶」

本日も読んでくださりありがとうございます!

今回は 「優しさ」が鍵になる回 です。


カイが“優しいバク”に遭遇し、抱きしめられた瞬間から空気が一変します。

そして、リツが初めて“このままじゃ危ない”と判断するほどの異常事態へ。


さらに、カイの叫びから始まる

「ルシアス緊急招集ルート」

も入り、三人の距離感がいよいよ動き出すエピソードです。


ちょっとダーク、ちょっと切なく、

でも確実に“物語が進んでいく”回になっています。


ぜひ、最後までお楽しみください


記憶のかけらが降る星で___。

EP12 「優しい抱擁と」


***


「こんにちわ〜!」

カイの明るい声が静かな村に響く。


「……だれも、いない?」

リツが眉をひそめる。


「だれかいませんかー? カイでーす!」

しつこいくらいに声を張り上げると、奥から杖をついた老婆が現れた。


「いやいや……いらっしゃい」


「あ! マサムスばーちゃん!」

嬉しそうに手を振るカイ。


「……? 誰だったかねぇ」


「えぇ?! 俺だよ!! アカギ・フレア・カイ!」


「すまんねぇ……わからないんだよ」


リツが横からぼそりと呟く。

「……認知症、か?」


「ばぁちゃん……。じゃあ改めて! 俺、カイ! 初めまして!」

いつもの調子で笑顔を見せるカイ。


老婆は目を細め、うっすら微笑む。

「明るい子だねぇ。……で、そっちの黒いのは?」


「グランツ・ノアール・リツと申します」

「リツさん、ね。よろしく。それで今日はどうしたんだい?」


「む、村のみんなは……?」

「さぁ……」


リツの胸に小さな違和感が積もる。

(……おかしい。人の気配が薄すぎる)


「俺、外探してくる!」

カイがぱっと踵を返す。


「か、カイ! 待て!!」

「本当に早い……。ルシアスの言ってた通りだな……」

リツは小さく嘆息した。


***


「おーい!! だれかー!!」

村を駆け回るカイの声が響く。


「えーい!! 家入っちゃお!!」

「……おいおい」リツの制止も虚しく、カイは勝手に扉を開け放った。


「失礼しまーす!」


「……こんにちは」

中から現れたのは一人の住人だった。


「なんだ! 家にいたのか!」

安堵したように笑うカイ。


「なにか……ご用ですか?」

不自然に抑揚のない声に、リツの背筋がざわついた。


「なぁ、なんか“バク”みたいなの見ませんでした?」

カイが気楽に問いかける。


住人は一瞬の沈黙の後、低く呟いた。

「……いたら、どうするんです?」


「教えてください」リツの声は冷ややかだった。


「……こちらに」

住人がゆっくりと手招きをする。


「……!」カイが息を呑む。


「こ、これは悪い魔物では……!」住人が怯えたように後退る。


「今すぐ離れてください。俺たちはライセンス保持者です」

リツが鋭く言い放つ。

「カイ! すぐに保護して!」


「了解!!」


「な、なんなんですか……」


住人の顔が、どこかぎこちなく歪んだ。

リツの脳裏に警鐘が鳴り響く。

(……こいつ、やはり……!)


「こっちに!! 早く!!」

カイが必死に手を差し伸べ、住人を引っ張り出そうとする。


「君は……優しいね」

住人はふっと微笑み、そのままカイをそっと抱きしめてきた。


「え?! なに?! どした?」

突然の行動にカイは目を丸くする。


「カイ!!! 今すぐそいつから離れろ!!」

リツの声が鋭く響いた。


「えっ?!」


住人の口元がわずかに歪む。

「ち……」


「まずい……これはルシアスにすぐ報告する。俺たちだけで対処できる問題じゃない」

リツの表情が険しさを増す。


「えぇ?! なにどういうこと?!」

「とりあえず、あのバクを確保する」

「そんなことできんの?!」

「わからない……とにかく、ルシアスに連絡を」

「わ、わかった!」


***


ルシアス編


「はぁ……結局“太陽のかけら”は見つからねぇ。今日はいいことねぇな」

肩を落としながらBLAZEの街を歩いていたその時――


「編!集!長ーーー!!!」

唐突に耳に飛び込む声。


「ん? カイ?」

慌てて通信具を取り出す。


「どうした! カイ! 何かあったか!!」


『編集長!! 今どこですか!!』

「俺は今、BLAZEの都市に――」


『とりあえず今から言う場所に来てください!! バクが発生して……大変なことに!!』

「……ちょっと何言ってるかわからん」

『とりあえず来てくれ!!!』


「……わ、わかった!」


***


現場


「光式――聖環輝界!」

リツが両手を広げると、眩い光の輪が空間を覆い、バクを閉じ込めた。


「す、すげぇ……!」

結界の光に目を丸くするカイ。


「とりあえず結界は張った……しばらくは平気だろう。ルシアスは?」

「たまたまBLAZEにいたから、すぐ来ると思う!」

「……助かった」


結界の中で、住人の姿を模したバクが壁を叩き、歪んだ声を漏らす。

「……で、出られない……」


「ごめんね。ちょっと待ってて」

カイは小さく呟き、住人の面影にどこか心を痛める。


リツは深く息をつき、視線を遠くに向けた。

「……ルシアス」


***

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