EP12 「優しい抱擁と__壊れる記憶」
本日も読んでくださりありがとうございます!
今回は 「優しさ」が鍵になる回 です。
カイが“優しいバク”に遭遇し、抱きしめられた瞬間から空気が一変します。
そして、リツが初めて“このままじゃ危ない”と判断するほどの異常事態へ。
さらに、カイの叫びから始まる
「ルシアス緊急招集ルート」
も入り、三人の距離感がいよいよ動き出すエピソードです。
ちょっとダーク、ちょっと切なく、
でも確実に“物語が進んでいく”回になっています。
ぜひ、最後までお楽しみください
記憶のかけらが降る星で___。
EP12 「優しい抱擁と」
***
「こんにちわ〜!」
カイの明るい声が静かな村に響く。
「……だれも、いない?」
リツが眉をひそめる。
「だれかいませんかー? カイでーす!」
しつこいくらいに声を張り上げると、奥から杖をついた老婆が現れた。
「いやいや……いらっしゃい」
「あ! マサムスばーちゃん!」
嬉しそうに手を振るカイ。
「……? 誰だったかねぇ」
「えぇ?! 俺だよ!! アカギ・フレア・カイ!」
「すまんねぇ……わからないんだよ」
リツが横からぼそりと呟く。
「……認知症、か?」
「ばぁちゃん……。じゃあ改めて! 俺、カイ! 初めまして!」
いつもの調子で笑顔を見せるカイ。
老婆は目を細め、うっすら微笑む。
「明るい子だねぇ。……で、そっちの黒いのは?」
「グランツ・ノアール・リツと申します」
「リツさん、ね。よろしく。それで今日はどうしたんだい?」
「む、村のみんなは……?」
「さぁ……」
リツの胸に小さな違和感が積もる。
(……おかしい。人の気配が薄すぎる)
「俺、外探してくる!」
カイがぱっと踵を返す。
「か、カイ! 待て!!」
「本当に早い……。ルシアスの言ってた通りだな……」
リツは小さく嘆息した。
***
「おーい!! だれかー!!」
村を駆け回るカイの声が響く。
「えーい!! 家入っちゃお!!」
「……おいおい」リツの制止も虚しく、カイは勝手に扉を開け放った。
「失礼しまーす!」
「……こんにちは」
中から現れたのは一人の住人だった。
「なんだ! 家にいたのか!」
安堵したように笑うカイ。
「なにか……ご用ですか?」
不自然に抑揚のない声に、リツの背筋がざわついた。
「なぁ、なんか“バク”みたいなの見ませんでした?」
カイが気楽に問いかける。
住人は一瞬の沈黙の後、低く呟いた。
「……いたら、どうするんです?」
「教えてください」リツの声は冷ややかだった。
「……こちらに」
住人がゆっくりと手招きをする。
「……!」カイが息を呑む。
「こ、これは悪い魔物では……!」住人が怯えたように後退る。
「今すぐ離れてください。俺たちはライセンス保持者です」
リツが鋭く言い放つ。
「カイ! すぐに保護して!」
「了解!!」
「な、なんなんですか……」
住人の顔が、どこかぎこちなく歪んだ。
リツの脳裏に警鐘が鳴り響く。
(……こいつ、やはり……!)
「こっちに!! 早く!!」
カイが必死に手を差し伸べ、住人を引っ張り出そうとする。
「君は……優しいね」
住人はふっと微笑み、そのままカイをそっと抱きしめてきた。
「え?! なに?! どした?」
突然の行動にカイは目を丸くする。
「カイ!!! 今すぐそいつから離れろ!!」
リツの声が鋭く響いた。
「えっ?!」
住人の口元がわずかに歪む。
「ち……」
「まずい……これはルシアスにすぐ報告する。俺たちだけで対処できる問題じゃない」
リツの表情が険しさを増す。
「えぇ?! なにどういうこと?!」
「とりあえず、あのバクを確保する」
「そんなことできんの?!」
「わからない……とにかく、ルシアスに連絡を」
「わ、わかった!」
***
ルシアス編
「はぁ……結局“太陽のかけら”は見つからねぇ。今日はいいことねぇな」
肩を落としながらBLAZEの街を歩いていたその時――
「編!集!長ーーー!!!」
唐突に耳に飛び込む声。
「ん? カイ?」
慌てて通信具を取り出す。
「どうした! カイ! 何かあったか!!」
『編集長!! 今どこですか!!』
「俺は今、BLAZEの都市に――」
『とりあえず今から言う場所に来てください!! バクが発生して……大変なことに!!』
「……ちょっと何言ってるかわからん」
『とりあえず来てくれ!!!』
「……わ、わかった!」
***
現場
「光式――聖環輝界!」
リツが両手を広げると、眩い光の輪が空間を覆い、バクを閉じ込めた。
「す、すげぇ……!」
結界の光に目を丸くするカイ。
「とりあえず結界は張った……しばらくは平気だろう。ルシアスは?」
「たまたまBLAZEにいたから、すぐ来ると思う!」
「……助かった」
結界の中で、住人の姿を模したバクが壁を叩き、歪んだ声を漏らす。
「……で、出られない……」
「ごめんね。ちょっと待ってて」
カイは小さく呟き、住人の面影にどこか心を痛める。
リツは深く息をつき、視線を遠くに向けた。
「……ルシアス」
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