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記憶のかけらが降る星で___。  作者: 萩原 なちち
11/22

EP10 「俺がいなくても__初めてのざらつき」

本日も読んでいただきありがとうございます!

今回は “ある男の気づき” がテーマです。


任務中のカイ、ゼフィール、リツの掛け合いはいつも通り賑やかですが、

その裏で――ルシアスの胸の奥で、静かに何かが動きます。


少しだけ切なく、少しだけ甘い回。

どうぞお楽しみください。

記憶のかけらが降る星で___。

EP10 「俺がいなくても」


***


「カイは――俺も同伴で行く」


執務室の奥、デスクから顔を上げたルシアスの声に、

おひしょが即座にピシャリと首を振った。


「だめです。こちらの書類は本人届必須ですので。ルシアスさんは局長室まで直接お願いします」


「……そうか」

眉間に皺を寄せ、ルシアスは短く応じた。


そのやり取りを見ていたゼフィールが、にやにやと笑いながらカイの肩をつつく。

「えー? なになに?保護者気取り?♡」


「そ、そんなわけねぇだろ!」

カイは慌てて手を振る。

ルシアスは目を逸らし、コートの襟を直した。


「ま、任せといてくださいよ」

カイが笑顔で言うと、ルシアスは「……そうか」とだけ返す。


ただ、その声にはほんの僅かな引っかかりがあった。

自分でも気づかないほどの、小さな音の濁り。


***


商業区・BELIEVER南部。


昼下がりの通りは香辛料と甘い菓子の香りが混ざり、人の声で満ちていた。

空には魔導広告の板が浮かび、淡く輝くルーンが瞬いている。


「相変わらず騒がしいねぇ〜」

ゼフィールが両手を後ろで組みながら歩く。

「ここ、観光客も多いんですか?」

カイが問いかけると、ゼフィールはにやっと笑った。

「うん、魔道具の品揃えはBELIEVERが一番だからね〜♡」


リツが無言で看板を指差す。

「依頼品は《月灯石》……在庫、移動されてるな」


***


倉庫の前で、ちょっとしたトラブル。


店主によると、月灯石は別の倉庫に移されたが、

鍵の担当者が不在らしい。


「どうする?」

ゼフィールが片眉を上げる。


カイは少し考え、その場から消えた


ゼフィ「行動はや」


カイ 「すみません!月灯石ってどこにあるかわかりますー?」


人 「ああ、あれね。移動したの…。あの方角の…」


「……あそこだ!」


ゼフィール 「ほんとに見つけたのかな?」


裏路地の小さな倉庫の影に、淡く光る石が眠っていた。

カイは慎重に拾い上げ、振り返る。

「これ……ですよね?」


ゼフィールが笑って親指を立てる。

「なんだ、やればできる子じゃん!」

「……悪くない判断だ」リツも静かに頷いた。


カイは少し照れながらも、依頼品を胸に抱えた。


***


「じゃ、ご褒美に飯でも食おうか〜!」

ゼフィールの提案に、三人は通りの角の食堂へ入る。


「ここの焼き肉パイ、超おすすめ! サクサクで中トロトロなんだよ♡」

ゼフィールが口いっぱいに頬張りながら笑う。

カイも一口かじって目を丸くした。

「……うまっ!」

リツも無言のまま、少しだけ口角を上げる。


ほんの束の間、穏やかな昼の時間が流れていた。


***


その様子を、路地の影から見つめる影があった。

──ルシアス。


書類配達の帰り道、偶然通りかかっただけのはずだった。

だが、窓越しに見えたのは、笑いながら並ぶカイの姿。


ゼフィールの冗談に肩を揺らし、リツと視線を交わして微笑む。

その表情が、なぜだか胸に刺さった。


(……俺がいなくても、平気なのか)


胸の奥で、初めて感じる小さなざらつき。

それが何なのか、言葉にはできない。

ただ、見つめていると苦しくなり、目を逸らすと寂しくなる。

ルシアスは黙って踵を返した。


***


任務完了後、魔法局の玄関前。


「はい、依頼完了っと!」

カイが笑顔で報告する。

ゼフィールが腕を回して肩を組んだ。

「また組もうね、楽しかった〜♡」

「おう! またよろしく!」


その背後から、低い声が響く。

「……俺の許可が先だ」


振り返ると、ルシアスが立っていた。

整った黒のローブ姿。表情は読めない。


「ルシアスさん!? なんでここに……」

「行くぞ」

それだけを言って背を向ける。


「え、あ、はいっ!」

カイは慌てて駆け出した。


去っていく二人の背を見送りながら、ゼフィールが小声で呟く。

「……あれ、完全に嫉妬だよねぇ〜♡」

リツは小さくため息をつき、空を見上げた。

淡い月が、静かに笑っているように見えた。


***


(俺がいなくても平気、か……)

夜の執務室。

ルシアスは書類を閉じ、静かに息を吐く。

誰に聞かせるでもない独り言が、闇に溶けていった。


***

お読みいただきありがとうございます!


今回のテーマは、

“ルシアスが気づいていない自分の感情” でした。


カイが楽しそうにしているのを見て、

胸がざわつくルシアス。


それは怒りでも不満でもなく、

ただ――形のない“感情”の欠片。


読者の皆さんは、

ルシアスのこの感情…なんだと思いますか?


よかったら感想で教えてください!

次回もよろしくお願いします!


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