EP10 「俺がいなくても__初めてのざらつき」
本日も読んでいただきありがとうございます!
今回は “ある男の気づき” がテーマです。
任務中のカイ、ゼフィール、リツの掛け合いはいつも通り賑やかですが、
その裏で――ルシアスの胸の奥で、静かに何かが動きます。
少しだけ切なく、少しだけ甘い回。
どうぞお楽しみください。
記憶のかけらが降る星で___。
EP10 「俺がいなくても」
***
「カイは――俺も同伴で行く」
執務室の奥、デスクから顔を上げたルシアスの声に、
おひしょが即座にピシャリと首を振った。
「だめです。こちらの書類は本人届必須ですので。ルシアスさんは局長室まで直接お願いします」
「……そうか」
眉間に皺を寄せ、ルシアスは短く応じた。
そのやり取りを見ていたゼフィールが、にやにやと笑いながらカイの肩をつつく。
「えー? なになに?保護者気取り?♡」
「そ、そんなわけねぇだろ!」
カイは慌てて手を振る。
ルシアスは目を逸らし、コートの襟を直した。
「ま、任せといてくださいよ」
カイが笑顔で言うと、ルシアスは「……そうか」とだけ返す。
ただ、その声にはほんの僅かな引っかかりがあった。
自分でも気づかないほどの、小さな音の濁り。
***
商業区・BELIEVER南部。
昼下がりの通りは香辛料と甘い菓子の香りが混ざり、人の声で満ちていた。
空には魔導広告の板が浮かび、淡く輝くルーンが瞬いている。
「相変わらず騒がしいねぇ〜」
ゼフィールが両手を後ろで組みながら歩く。
「ここ、観光客も多いんですか?」
カイが問いかけると、ゼフィールはにやっと笑った。
「うん、魔道具の品揃えはBELIEVERが一番だからね〜♡」
リツが無言で看板を指差す。
「依頼品は《月灯石》……在庫、移動されてるな」
***
倉庫の前で、ちょっとしたトラブル。
店主によると、月灯石は別の倉庫に移されたが、
鍵の担当者が不在らしい。
「どうする?」
ゼフィールが片眉を上げる。
カイは少し考え、その場から消えた
ゼフィ「行動はや」
カイ 「すみません!月灯石ってどこにあるかわかりますー?」
人 「ああ、あれね。移動したの…。あの方角の…」
「……あそこだ!」
ゼフィール 「ほんとに見つけたのかな?」
裏路地の小さな倉庫の影に、淡く光る石が眠っていた。
カイは慎重に拾い上げ、振り返る。
「これ……ですよね?」
ゼフィールが笑って親指を立てる。
「なんだ、やればできる子じゃん!」
「……悪くない判断だ」リツも静かに頷いた。
カイは少し照れながらも、依頼品を胸に抱えた。
***
「じゃ、ご褒美に飯でも食おうか〜!」
ゼフィールの提案に、三人は通りの角の食堂へ入る。
「ここの焼き肉パイ、超おすすめ! サクサクで中トロトロなんだよ♡」
ゼフィールが口いっぱいに頬張りながら笑う。
カイも一口かじって目を丸くした。
「……うまっ!」
リツも無言のまま、少しだけ口角を上げる。
ほんの束の間、穏やかな昼の時間が流れていた。
***
その様子を、路地の影から見つめる影があった。
──ルシアス。
書類配達の帰り道、偶然通りかかっただけのはずだった。
だが、窓越しに見えたのは、笑いながら並ぶカイの姿。
ゼフィールの冗談に肩を揺らし、リツと視線を交わして微笑む。
その表情が、なぜだか胸に刺さった。
(……俺がいなくても、平気なのか)
胸の奥で、初めて感じる小さなざらつき。
それが何なのか、言葉にはできない。
ただ、見つめていると苦しくなり、目を逸らすと寂しくなる。
ルシアスは黙って踵を返した。
***
任務完了後、魔法局の玄関前。
「はい、依頼完了っと!」
カイが笑顔で報告する。
ゼフィールが腕を回して肩を組んだ。
「また組もうね、楽しかった〜♡」
「おう! またよろしく!」
その背後から、低い声が響く。
「……俺の許可が先だ」
振り返ると、ルシアスが立っていた。
整った黒のローブ姿。表情は読めない。
「ルシアスさん!? なんでここに……」
「行くぞ」
それだけを言って背を向ける。
「え、あ、はいっ!」
カイは慌てて駆け出した。
去っていく二人の背を見送りながら、ゼフィールが小声で呟く。
「……あれ、完全に嫉妬だよねぇ〜♡」
リツは小さくため息をつき、空を見上げた。
淡い月が、静かに笑っているように見えた。
***
(俺がいなくても平気、か……)
夜の執務室。
ルシアスは書類を閉じ、静かに息を吐く。
誰に聞かせるでもない独り言が、闇に溶けていった。
***
お読みいただきありがとうございます!
今回のテーマは、
“ルシアスが気づいていない自分の感情” でした。
カイが楽しそうにしているのを見て、
胸がざわつくルシアス。
それは怒りでも不満でもなく、
ただ――形のない“感情”の欠片。
読者の皆さんは、
ルシアスのこの感情…なんだと思いますか?
よかったら感想で教えてください!
次回もよろしくお願いします!




