花火大会 二
私の家から九頭龍祭が行われるH市までは少し遠く、三十分ほど電車に乗ったあと、徒歩で二十分ほど歩いた。村に着いた頃には私も蝉も茹だるような声をあげていた。残暑、とは言えないようだな、参ってしまう。
村に着いたのは午後一時頃。
当然と言えば当然だが、村は九頭龍祭の準備に
勤しんでいた。九頭龍祭の開始は午後二時半からで、終了は午後十時らしい。
出し物というか、屋台や展示物などにめぼしい物はあまり無かった。焼きそばや射的など、ありふれたものではあるが規模は大きいなという印象を得た。
特に目を引かれたのは九頭龍祭の案内板だった。
九頭龍祭のスケジュールや内容などがある程度
書き込まれているようで、今回の調査の本命である百夜灯についても書かれていた。話に聞いていたように、午後の九時から行われるようだな。ただ、聞いたことのない情報もあった。
それは午後五時から何やら祭儀をやるという情報だ。その間は山、というよりどうやら九分岳には入ってはいけないようだ。
「あの動画」とこの案内板の情報から察するにやはり九分岳には何かある。そう確信を得た私は高鳴る胸を抑えながら、村人に九頭龍祭、百夜灯、謎の祭儀の情報を聞いて回ることにした。
本当はもう少し村に早く来る予定だったが到着が遅れてしまい、仕方なく三時からの聞き込みとなった。聞き込み対象は外部からの観光客と村の住人、そして九分岳の麓にある神社の神主から聞く予定だった。しかし、時間のなさ故に神主にのみ聞きにいった。前々からアポは取っていたので話を聞くことも楽だった。
村の入口から歩いて十五分程で九分岳の麓に到着した。思いのほか、参拝客は並んでいて豪華な内装が外から見えた。さすがに割り込んで入ることはできないので前に連絡した際に教えてもらった神社の裏口に回り声をかけた。
出てきたのは若く見える巫女だった。年は二十歳後半だろうか。整った顔立ちをした、どこか掴めない雰囲気に包まれている。
「どうかされましたか?」
「以前こちらの神社の大貫様に連絡させて頂いた秋元小春というものです。
大貫様はいらっしゃいますか?」
「わかりました、どうぞこちらに」
そう言って巫女は振り返り、ついてこいと言わんばかりに歩き始めた。靴を脱ぎ、ぎゅしっと音を立てる床を踏んで巫女に着いていった。
いや、もしかしたらその音は重く錆び付いた扉を、開けては行けない扉を開けてしまった音なのかもしれない
神社は表から見えるよりも一回りは大きいようでなかなか変わった造りをしていた。
裏口からは一直線に廊下があり、突き当たりには外から見えている部屋、周囲には廊下を囲うように部屋が円形に並べられている。
部屋は全部で四つ、本殿を入れると五つあった。
巫女に四つの部屋について何かあるのか、と聞くとはぐらかされて詳細には教えて貰えなかったがオオヌキ様関係の何かを祀っていると言った。
「こちらです」
巫女はそう言って奥の扉を開けた。
扉の向こう側の部屋は寂れていて、黴の匂いが微かにしている。外から見えていた豪華な金色や朱色ではなく、木造の色のみが薄らと照らされて目に入る。ここは外から見えているところの裏側なのだろうということは言われずともわかった。
「お待ちしておりました。この神社、大貫神社の神主、大貫でございます。秋元小春様でお間違いないでしょうか?」
中年程度の男性が声をかけてくる。背丈は平均的だろうか、座っているので分かりずらいが特別に高い訳では無さそうだ。
「はい、連絡させて頂きました秋元小春です。
本日はよろしくお願い致します。」
「はい。それでは本題に入りますが、まずはオオヌキ様についてのことですね」
「そうですね、オオヌキ様が土地神であるということは分かっているのですが、信仰するに至った経緯や神話、どこに祀られているのか等をお聞かせ頂きたいです。」
「わかりました、まず初めにですがオオヌキ様は土地神様でございます。ですが、ただの神様ではございません。」
「と言いますと?」
「オオヌキ様は」
私は、次の言葉に耳を疑った。
「首を切り落とされた間引き子の祟りです。」




