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ラクーシュ戦記  作者: 墺離
トリスの章
9/26

それぞれの思惑-2

場面転換激しいです。



 春も半ばだというのに少し肌寒い灰色の空の下、追悼式は正午を過ぎた頃に行われた。


 国全体が喪に服す。

 聖なる祈りが空に響き渡っていく。


 いつもの紅い軍服ではなく、シンプルな、しかし見るものを虜にするであろう黒のドレスと王のみが羽織ることを許されるマントを身に着けたトリスは壇上に立ち眼下を見渡す。


『まずここに集まって頂いた諸国の代表方に御礼申し上げる。そして未だ傷跡多く残る中、この地へ集まってくれた民達にも礼を述べよう』


 魔法で拡張された声は幾千人と集まった広場に、王都に広がっていった。


『私は決して忘れはしない、無慈悲な行いによって死んでいった多くの者達の魂を。そして誓おう、無念のうちに亡くなられた前王陛下と王妃殿下、そして残された国民(そなた)達の思いにかけて必ずモーティアを打ち倒すと!!』


 おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!


 呼応する国民たちの声に大気が揺れた。


 古びた大剣を持った大神官がトリスの横まで進み出て立つ。

 トリスは長く引きずるマントをばさりと翻すとその前にひざまずき(こうべ)を少し垂れた。

 大神官は祈りの言葉をささげながら手にした大剣をトリスの右肩、左肩、頭上に軽く触れさせていく。


「新しき王に、永久なる栄光と神の祝福を」


 そして王冠が載せられた瞬間、再び大気が震えた。


 トリスはマントをもう一度大きく翻し立ち上がると威風堂々とした様で広場を見渡す。


『ラクーシュ国第29代女王トリス・デ・ラクーシュ・センチュアはここに宣言する!!

 只今をもって我がラクーシュはモーティアと戦を始めよう!!

 戦う意思のあるものは我が元に集え!モーティア帝国の暴挙を許すな!!』


 おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!


「トリス」


 沸きあげる大歓声の中でトリスの背後にメシーが現れた。


「準備はばっちしや、いつでもええで」


「わかった」


 トリスは前を見据えて片手を空にかざした。一気に場が静まり返る。


『だがその前にまず、粛清すべきことが一つある』


 ざわざわと静かに場がどよめく。


『この度の突然の襲撃に対し、帝国側と通じていたものがいる』


 更にざわめきが増えた。


『それはルクライツアの中に』


「何をおっしゃるか!?」


 貴賓席に座っていた浅黒い肌のシシール王子が立ち上がって大声を張り上げた。


「女王陛下!言いがかりはよしていただきたい!!わが国は決してそんな―・・!」


『落ち着かれよシシール王子、最後まで話しを聞くものだ。加担したのはあなたでもましてや現ルクライツア王でもない』


「では誰がっ!?」


『そなたの叔父であるコーネリアルだ』


 ルクライツア一行の貴賓席が驚愕にざわめく。


 新興国にはありがちなことだ。

 みずらが王になろうとでも画策していたのかー・・愚かな。


『帝国と手を組み、いずれ帝国が世界を手中に収めた暁には一国でももらう約束でもしていたか?だがそれも泡となって消えてしまったようだな、コーネリアル大臣?』


 ざわめき立ち上がる貴賓席の中、只一人席に座したまま肩を震わせている男がいる。

 もはや弁解は出来ないと確信したのかー・・恰幅のいい中年男は目を爛々とさせトリスを睨んでいた。


「小娘がっ…」


「叔父上、あなたという人は…っ」


 シシール以下、ルクライツアの者達は一斉に抜刀するとコーネリアルに剣先を向けた。


「女王陛下!我が王家の不始末は我等が手でつけさせていただきたい!!聖なる死者の弔いの場を血で汚すことをどうかお許しを!!」


『ー・・許す』


「コーネリアル!覚悟!!」


 シシールの刃がコーネリアルの頭上に閃く。


「ふっ…若造がっ」


 コーネリアルも刃を抜き放ちシシールの刀を跳ね飛ばした。


「女王よ!その御首貰い受けるぞ!!来いトトーニャ!!」


 コーネリアルは自らの機獣を呼び出すとその背に飛び乗り壇上へと向かってくる。

 周りにいた者たちはその風圧に押され四方に吹き飛ばされてしまった。


「長老」


 トリスは後ろに控えていた十将軍の長、グロックを呼ぶ。


「余興だ、あなたの魔法でこれ(・・)を投影していただきたい」


「ほっ、老体をこき使われるの陛下は」


 白いひげをなでながらグロックは呪文の詠唱に入った。


「疾くこよ、グランディ!!」


『ここに』


 グランディがトリスの前に出現すれば、すぐ目の前まで近づいてきたコーネリアルの機獣ごと突き飛ばした。

 一人と一機はそのまま宙を飛び広場の中心に座している大噴水に落ちていく。

 人々の悲鳴があがり蜘蛛の子を散らすように四方に逃げ出した。

 トリスはマントを脱ぎ捨てると大神官が手にしたままの大剣を受け取り片手で軽々と持ち上げグランディに飛び乗って、広場へと降り立った。


「っんのっ…小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!!」


 ぴくりとも動かぬ機獣を捨てるとコーネリアルは剣を手に奇声を上げながらトリスへと向かってくる。

 機獣と人では分が悪い-・・だが


「グランディ、手は出すなよ?」


『御意』


 グランディの背から飛び降りたトリスはそのまま大剣を振りかざしてコーネリアルの刃を受け止める。

 体を沈め体を一回転させて大剣を振る。

 しかしコーネリアルはそれを跳躍してかわし一打二打とうってくる。


(何だこいつ?やけに動きがいい)


 激しい動きに髪留めがはずれ、結い上げていた髪がすべて落ちてくる。

 風に吹かれゆれるそれは炎のようで見ている全てのものを魅了した。


「ふんっ、モーティアの下郎どもに薬でも盛られたか?哀れだな」


 見ればコーネリアルの体からは異常なほど大量の汗が噴出している。

 息遣いも荒いが動くたびにそのスピードははやくなっている、明らかに何か薬を盛られているようと見ていいだろう。

 いくら薬の力で強くなっているとはいえ、老いた体がそれに耐えられるはずもない。

 眼は充血し、仕舞には血の涙を流し始めた。


-・・やがてその体に新たに異変が生じた。


「何?」


 突如、コーネリアルの全身の肉という肉が盛り上がり、何かがその皮膚の中でもごもごと蠢めきまわっているのだ。


「ひひひひひひひぃ」


 血の涙を流しよだれをたらしながら気味悪くコーネリアルは笑っていた。

 取り囲む群集はその奇異な変化に声を出せないー・・あたりがしんと静まり返る。


 だんだんと男の体は体積を増やしていった。


 十将軍や他の騎士達も集まり民を背に対峙する二人を取り囲む。


 元の体の倍にまで膨れあがったその体ー・・やがてその肉が裂けた。

 中から飛び出してくるのはピンク色のテカテカとした脂と筋の塊。


「小娘ェェェェェェェェ覚悟ハヨイカァァァ―・・?」


 口から漏れる声は既に人のものではなく―・・裂け目から新しい()が生えた。




                     *




「機獣には大きくわけて3種類あります」


 カルジは講義の先生よろしく美阿にそう説明を始めた。


「一つは(マスター)からの指示を受けその身で攻撃する"戦士型"、一つは主の命によって主を自身に取り込み主とともに闘う”鎧型”、そしてもう一つは―・・」




                      *




 足は9本。

 テカテカと光虫の足のようだ、コーネリアルの口は耳まで裂けて大きな牙が生えていた。


「何だコレは気色悪い」


「ヒャハハハハハハハハ!!素晴ラシイ!!素晴ラシアイゾコノチカラ!!体ノ内カラチカラガミナギッテクルワ!!」


 頭だけはかろうじて人の形を取っていたがほかは次々と人の形を失っていく。


(この気配は機獣…鎧型か?いや違う…纏うのではなく内からでてくる…これは)


「メシー、これってまさか」


 チェーチは隣にいるメシーを横目でみやる。

 メシーの頭巾の中に隠れた眼も驚きに眼を瞠っているのだろう。


「なんやタチの悪い噂かとおもっとったけど…まさかほんまにやってもうたとは」


 汗が一滴、頬を流れた。


「寄生型の機獣なんてな」




                      *




「寄生型?寄生って…他の生き物の体に入ってそこで生きたり、宿主を食べちゃったりする…アレ…ですか?」


 こくりとカルジはうなずく。


「この世界では"魔法使い"と呼ばれるものがいるというのは先ほどご説明しましたね?」


「はい。"魔法使いとなるべく定められたものは最果ての島にある賢者の塔より使いがきてそこで魔法を学ぶ”…ですよね?」


「その通り。そして魔法には白魔法と黒魔法とがあります。

白は生かすものの集まりで、あり黒は破壊するものの集まり。

そしてもう一つ、禁じられた魔法がありますー・・"古代魔法”とよばれるものです」




                      *




「古代魔法だと!?」


 トリスは化け物へと変貌を遂げていくコーネリアルであった肉塊を前にメシーの言葉の中に不快な単語を耳にした。


「せや、今はもう使い手もおらんお話の中だけの過去の産物や」


「でもそれって二千年も前に封じられて、それ以来魔術師たちの間では禁じ手になってたんじゃなかったけ?」


「さぁな、古代の阿呆どもが残した禁書なんて案外そこいらにぽんぽんあるもんやでー・・とにかくこれは古代魔法や。

機獣石を体に埋め込んで"戦士"としてでも"鎧"としてでもなく機獣の"寄生"という形でそのの力を自分の体と融合させて元の何百倍っちゅう力をだせる…ってとこか?」


 変化を続けていた肉塊が蠢きー・・噴水に倒れていたコーネリアルの機獣をも飲み込み始めた。


「うわ、他の機獣も"食う"んかいえげつないなぁ…一度からだの中で機獣を解き放ったら最後。もう元には戻らへんゆう話やで」


「それをモーティアが?くっ…阿呆どもめがっ」




                     *




「ひどい…」


 美阿はカルジの話に涙を浮かべる。


「そうです、だからこそ帝国(われわれ)はラクーシュを許せないのです。ラクーシュは禁じ手とされる古代魔法を呼び起こし、自国の兵士達に次々と寄生機獣を施していく。兵士達は人間に戻ることも出来ず死ぬまで闘い続けるのです」


「私…許せません…ラクーシュが許せませんっ」


 甘い香がたきつめられた部屋で美阿の心はさらに高揚していった。


「…戦います。何が出来るかわからないけど、この世界に呼ばれた金の使徒として、私、戦います」


 口調ははっきりとしているがその眼は淡く霞がかっている。


「そう…それで良いのですよ、異界の少女よ。後は我等が導きましょう…」


 美阿の手をとり、そのうつろな瞳に己の姿を写した男はそっと優しく囁いた。





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