表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラクーシュ戦記  作者: 墺離
トリスの章
22/26

再会

少し短いです。


薄暗い回廊を抜けその扉を開くとそこは楽園だった。


 室内とは思えないほどの自然がそこに溢れていた。

 木々が生い茂り、ガラス張りのドームの中を鳥が飛んでいる。


(ここに姉上が…)


 想像していたよりも酷い場所で過ごされてなくてよかった、という思いと同時に胸の奥から湧きあがってきたのはやるせない憤り。

 確かに美しい場所ではあるが、ここは大きな鳥籠だ。

 こんな所に幽閉され今の今までの日々を過ごしてこられた姉上の心情を思うと実にやりきれない。


 ここまで来るのに人影を見ることもなかったが、まだ気は抜けない。

 四人は茂みに身を潜め周りの様子を伺う。


「メシー、チェーチ、お前たちはここに残って脱出口の確保だ。誰かきたら構わず殺って構わん。血は残すな、姉上に気付かれたくはない。道化、お前は私と共にこい、あの最奥の建物を目指すぞ。

 糸を張り巡らせておけ、虫一匹気配は逃すな」


「了解」「了解や」「御意」


「作戦開始まで時間が無い。場合によっては少しの騒ぎぐらい起こしても構わん、機獣の使用を許可する。以上だ、何かあるか?」


「「「無」」」


「ー・・散れ」


 メシーとチェーチの二人はその場からあっという間に姿を消す。

 それと同時にトリスとコラントは姿勢を低くしたまま奥に見える建物へと前進する。


 ドームの中の木々に身を隠しながら二人は交互に建物へと向って行き、やがて建物の入り口に辿り着くとトリスはコラントに中の様子を探らせた。


「気配が一つだけ…セリス様のようですね」


「姉上ー・・」


 他に気配がないと分かるやいなや、トリスは建物の中へと走りこみ中を駆け巡った。

 何度か通路を曲がり右奥の突き当たりの部屋へとたどり着くー・・庭に続く欄干に腰掛け、膝に黒猫を乗せその背を優しく梳く女性の後姿。


 その波打つばかりに輝く金の髪も、華奢だが凛とした後姿も片時も忘れたことなどなかった。


「姉上!!」


 トリスの上げた声に、はっと身をこわばらせ女性が振り返る。

 その腕から黒猫が逃げるものの、女性は目を見開き駆け込んできたトリスの姿を凝視するばかりだ。


 信じられないといった顔、そのばら色の唇が微かに動く。


「トリス…?」


「はいっ」


 名前を呼ばれたトリスは姉の体を抱きしめた。

 

「あぁ、よかった…!逃げ出せたのね…」


 ひし、と互いの身体を抱きしめる。


「貴女が捕らえられたと聞いたときは心臓が止まるかと思いました…良かった、無事で」


「姉上こそご無事で何より…お怪我はなされてませんね?」


「私は大丈夫よ、それより貴女の方が…これでは十将軍のときと同じね。とても大国の女王には見えないわよ?」


 冗談めいたセリスの言葉に、トリスははっと顔を上げる。


「姉上…私は」


 ー・・父を、母を守れなかった。


 ここまで我慢してきたというのに、思わず嗚咽がこぼれそうになるがそれをとどめるようにセリスがトリスを抱きしめる腕に力を込めた。


「いいの、いいのよトリス…貴女が生きてくれていたのだもの…それだけで私はいいのよ」


 セリスのか細い腕が力強く抱きしめる。

 その腕の中、久々に心落ち着く姉の香りにこぼれそうになる涙をこらえていれば、後ろで控えていたコラントが珍しく先を急かせてきた。


「ー・・セリス様、陛下。急ぎましょう、時間が無い」


「その声は…コラント将軍ですか?あら、いつもと顔も服装も違うから全然きづかなかったわ…」


 セリスは心底吃驚したようにコラントを見つめた。

 そんな彼女の変わらない様子にコラントは苦笑する。


「また拝謁できること叶いまして光栄です、セリス様。さすがにいつもの私の格好では目立ちすぎますからねー・・陛下」


「わかっているー・・さっ姉上参りましょう、時期本隊が攻めて参ります」


「…わかりました。でもトリス、もう一人助けて欲しい人がいるの」


 トリスに手を引かれ、離宮の出入り口へと足を進めながらセリスは美阿の事をトリスに話した。


「ー・・その娘が金の使徒なのですか?」


「えぇ。残念ながら今の私では彼女を視る事も、気配を読むことさえできませんが…恐らく、カルジにその力を利用され操られてしまっているのだと思うのだけれどー・・そのような娘を見たことは無い?」


 セリスの言葉にトリスは記憶を探り、すぐに一人の少女へとたどり着く。

 実に真新しい記憶の中に、彼女はいた。


(異国風の顔立ちの少女…まさか)


「トリス!」


「セリス様!ご無事で何よりです」


 離宮の出入り口ー・・一番最初に潜んでいた場所までくると、メシーとチェーチが姿を現した。


「ー・・トリス、今作戦が開始された」


 セリスがすぐ側にいるためか、メシーはトリスの耳元へと囁くと情報を伝えた。


「すぐに部隊が攻め入ってくる、本宮の方でも今頃大騒ぎやろ。脱出するなら今がチャンスや」


「メシー、お前が先頭をいけ。道化とチェーチは姉上の両側に、私は後ろから付いていく」


「トリス…」


 悲しそうに眉を顰めるセリスにトリスは笑って言い聞かせた。


「ご安心ください、姉上。必ず金の使徒も連れ帰りますー・・ですが今はまずここから脱出せねば」


「はい…」


「-・・行くぞ」


 トリスは他の三人に目配せするとその場を後にした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ