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ラクーシュ戦記  作者: 墺離
トリスの章
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それぞれの思惑-3



「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ…アヒュッ…ヒュヒュッ」


 トリスは刃こぼれをおこしてしまった大剣を捨てると、手渡された馴染みの剣を手に取った。


「ヒヒヒヒヒ…ソンナ脆弱ソウナ剣デコノ私ガ倒セルトデモ思ウタカ?先程ノ大剣ノホウガヨカッタノデハナイカ?ヒヒッソレトモ重スギテモテナクナッタカ?ヒヒヒヒヒ」


「黙れクズが」


「何?」


 下品た笑いをしていたコーネリアルはピタリとその動きを止める。


「聞こえなかったか?それ以上喋るなクズが、耳が腐る」


「死ニ急ギタイヨウダナァッ小娘ェ!!」


 ガシュガシュと多数の足を動かしコーネリアルがせまってきた。

 トリスは次々と振り下ろされる足をひらりひらりとかわすと足の一本にトンッと華麗に立つ。


「強くなった?はっ、笑わせるな。雑魚が別の雑魚と合体して新たに雑魚をくっただけのことだろう?結局雑魚に過ぎぬではないか」


「ナメルナヨォォォォ小娘ガァァァァァァ!!!!」


 コーネリアルの口が大きく開きトリスを飲み込もうとする。


「グランディ」


 控えていたグランディが背後から飛び出てコーネリアルの腹をその腕で貫いた。


「ガァッハッ!?アヒィッ!!」


 トリスは高く跳躍する。

 鞘から抜かれた剣は雲の切れ間から覗かせた太陽の光を反射した。


「ヤッヤメ―・・」


「雑魚は所詮雑魚のままだ、そうだろう?」


 剣をコーネリアルの首元につきたてぐっと力を入れる。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 それはまさに断末魔の悲鳴と呼ぶにふさわしい絶叫。


 化け物と化したコーネリアルの首が落とされた。


 多量の血飛沫を吹き上げる中トリスは落ちた首とともに地へ降り立つ、それと交差するようにグランディは胸を貫いた時に掴み取った内核石を握りつぶした。


 辺りは再び静寂に包まれる。


 赤い血潮をあびたトリスは悠然とその場に立ち上がると、すっと剣を天に掲げた。

 魔法によって天空にもそのトリスの姿が投影されていた。


ワァァァァァァァ―・・


 空気が割れんばかりの群集の声が響く。

 歓声をあげる群集たちの声はやがて歓声から女王(トリス)を讃える声へと変わっていく。


トリス女王陛下万歳―・・


ラクーシュ王国万歳―・・


 国民は新しい女王を歓迎した。

 トリスはそれに悠然とした笑みで応えながらグランディに乗り演説台のあるテラスへと戻る。


「ご苦労、長老」


「やれやれ、トリス様のじゃじゃ馬振りには骨がおれますわい。あれほどの大きさの投影が出来るのは私ぐらいですぞ、もっと年寄りを労わって頂かねば」


 長老の冗談めいた口調にトリスは苦笑する。


「長老にはいつまでたっても勝てぬ気がする、だがこれで民の心はつかんだぞ。寄生機獣とは予想外の展開だったが演出としては十分だったな」


 あっという間に侍女たちがトリスを囲むとその髪やら服やらについた汚れ肌についた血を拭う。

 そこへ貴賓席から移動してきたと見られるスズが入ってきた。


「やぁスズ殿、余興は気に入っていただけたかな?」


 わずかに顔をうつむけているスズの顔ー・・きっと青白く染まっているのだろう。

 無理もない、トリスは苦笑する。

 彼女のその顔もどこか悲しげだ。


「スズ殿、貴公のお心はとてもありがたいが今回の話はなかったことにしよう。私の夫になるというのは"こういうこと"だ、あなたももっといい女性を見つけ―・・」


「あきらめませんよ」


「……え?」


「私はあきらめません」


 顔を上げたスズの顔は予想していたより青白くはなくー・・どちらかというと紅潮しているようだ。


「貴女がお強いのは十分わかりました、確かにあなたの夫となれば外敵も多いでしょう、命の危険も勿論ある。でもそれが何ですか!」


 スズのまっすぐな眼がトリスを貫く。


「私はあなたの民を思う心、国を思う心に惚れたのです。鬼姫といわれていようがあなたは本当はお優しい、戦場では慈悲の心がない修羅といわれているがあなたの心の中には正義がある。

己が野心のために生きてはいない…本当にあなたは良い王だ」


「スズ殿」


 彼のその言葉には一切下心は見えないー・・ただ一心に熱く褒め称えるスズにトリスは気恥ずかしさのあまりに赤面した。


「私は旅に出ようと思います」


「旅?」


「はい」


 初めて見たときよりもとてもいい顔をこの男はしている、とトリスは感じた。


「私はあなたの伴侶になりたい。あなたという人を支えて生きたい、守って生きたい。だからもっと"いい男”になってあなたに再挑戦させていただきますよ」


「…結構図太いのだな」


 スズはふっと笑う。


「こうでもなくては聖王国(ウチ)ではやっていけませんからね、トリス殿」


「トリス、で結構ですよ」


「ではわたしのこともスズとー・・トリス」


 スズはトリスの前に片膝を突きトリスは片手を差し出す。


「私はあなたの期待に応えられないかもしれないよ、スズ」


「それでも構いません、例え何度ふられてもそのたびに男を磨いて出直してきますから。しつこい男は嫌いですか?」


 トリスはぷっと吹き出した、こんなに自然に笑えるのは久しぶりだ。


「あぁ、かまわない。私は意志の強いものは嫌いではない」


「ありがとうございます」


 トリスの手の甲に口付けを落とすとスズは神官服の裾をはためかせ一礼して去っていった。


「中々、骨のある御仁でいらっしゃる」


 すぐ隣で一部始終を見守っていた長老が感心感心とでもいいたげにその長い顎鬚をなでつけた。


「楽しみですなぁトリス様、あの方が又来られるときが」


「ふっ、そうだな。彼の期待を裏切らないよう私も頑張らなければいけないな」


 侍女達を下がらせ、玉座に腰掛ける。

 未だに歓声が鳴り止まぬ中、彼女は青空を見せ始めた空を見上げた。



「さて、次は金の使徒を見つけねば」


 女王の仕事はまだはじまったばかりだ。



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