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第一章: フォックス・フォー・ザ・ピープル

よろしくお願い致します。

サクラノがやってきてから、冬馬の日常は完全に崩壊した。建設現場の休憩室ではサクラノが勝手にコーヒーを飲みながら、スマホで国会中継を見ている。


「ねえ、これが日本のリーダーたち?なんて退屈なの。まるで冷えた味噌汁のような会話だわ。」


「だから俺に総理になれって言ってんのか?いや、ムリに決まってるだろ!」冬馬はコーヒーを片手に大げさにため息をついた。


「あんた、若いんだからやれるわよ。しかも、ほら、若社長だし!決断力はあるでしょ?あと私がサポートしてあげるから問題なし!」


「狐のサポートとか…なんの役に立つんだよ?」


「聞きなさい、冬馬。私はこの国の政治に長年の不満を持っているの。もしアンタが動かないなら、このまま日本は沈没よ。」


「えぇ…じゃあやるしかないっていう流れかよ!?」


休憩室の窓から外を見れば、新潟市の空は広がっている。建設現場に戻らなきゃいけないはずなのに、頭の中ではサクラノの言葉がぐるぐるしていた。


「まずは政治家を説得する方法を考えなきゃ。って、それも俺の役目か!」冬馬は頭を抱えながら叫ぶ。


「そうそう。その悩む姿、悪くないわね。けっこうイケメン風よ。」サクラノの軽い皮肉が追い打ちをかける。


東雲冬馬は、総理になる、などという不条理な状況をまるで理解していなかった。ただでさえ忙しい建設会社の仕事に加え、不思議な生物との新たな日々が始まってしまったのだ。


「じゃあまず何をすればいいんだ?政治を変えるって具体的にどうするんだよ?」と冬馬が首をひねりながら聞くと、サクラノはくるりと尻尾を一回転させた。


「何言ってんの。最初は地元の支持集めに決まってるでしょ!アンタの知名度は今、駄菓子屋のポイントカード以下よ。」


「駄菓子屋って…いや、例えが妙に具体的だな!」と冬馬は呆れ顔だ。


サクラノは彼の肩に飛び乗り、鼻先で指を振りながらこう続けた。「まず地元の人間に認められないと、話にならないわけ。アンタがこの街を救うヒーロー的存在だって証明しなさい。さもなきゃ、洗濯機の中で迷子になった靴下みたいに忘れ去られるだけよ。」


「例えが…どんどんわけわかんなくなってないか?それにヒーローって、俺ただの建設会社の—」


「グズグズうるさいわね、今の日本にはヒーローが必要なのよ!その理由を今から説明するわ。」


「ヒーローが必要って、なんでだよ?」冬馬は眉をひそめつつも、サクラノの真剣な目つきに圧倒され、思わず聞き返した。


サクラノは窓辺に飛び乗り、月明かりに照らされるシルエットを背に、語り始めた。


「この国はね、冬馬。あまりにも長い間、停滞しているのよ。人々は変化を恐れ、問題を見て見ぬふりをしてる。でも、そんな中で誰かが立ち上がらなければ、この船は沈むだけ。」


「…沈む?でも、それを俺にやれって言うのか?」冬馬は困惑しながらも、彼女の言葉に含まれる切実さに耳を傾けていた。


「そうよ。アンタみたいな普通の人間にしかできないの。あの冷めた政治家たちにはもう期待できないから。」サクラノの声は力強さを増し、その黄金の瞳がさらに輝きを放つ。


冬馬は思わず息を呑んだ。「…それでも、俺が変えられるとは思えないけど。」


「冬馬、今の日本の問題をちゃんと見てるの?」サクラノは彼の肩から飛び降りると、真剣な眼差しで続けた。「少子高齢化に地方の過疎化、財政赤字に教育制度の崩壊。言いたくはないけど、この国の未来は暗闇に向かってるのよ。」


冬馬は眉をひそめながら「そんなの、俺ひとりで何とかできる問題じゃないだろ」と呟いた。


「確かに、ひとりじゃ何も変えられないわ。でも、誰かが始めないと、何も始まらない。現場で見たことをもとに、本当のニーズに応えるリーダーになれるのは、アンタみたいな人間だけよ。」サクラノは彼をじっと見つめながら言った。


「でも、政治家って結局、選挙で選ばれるんだろ?俺なんか誰も知らないただの若社長で—」


「そこを変えるの。」サクラノは尾をピンと立てた。「今の日本の政治、どれだけ多くの人が声を上げず、ただ仕方ないと諦めてるか知ってる?アンタが彼らに希望を与えれば、人は動く。少なくとも、自分の街くらいは守りたいと願うはずよ。」


冬馬は頭を抱えた。「希望…ね。でも、それで国が変わるとは思えないけど…」


「思えるかどうかは関係ないわ。」サクラノはニヤリと笑う。「大事なのは、動く勇気があるかどうか。あなたの手で地元の人々を巻き込み、小さな変化を積み重ねていけば、その先にあるのが本当の未来なのよ。」

「だから私がいるの。アンタと私の力を合わせれば、この街も、そしてこの国も、変えられる。」サクラノは窓辺から降り立ち、地面に足をつけると、その尾をふわりと揺らした。


彼女の言葉に迷いながらも、冬馬は問いかけた。「もし…俺が断ったら?」


「その時は…自由よ。でも、アンタならできるって私の目は言ってる。」彼女は微笑みを浮かべると、手のひらを差し出した。「さあ、契約するかしないか、選びなさい。」


冬馬はその手をじっと見つめた。狐と契約するなんて、普通じゃ考えられない。でも、彼の中でくすぶっていた責任感と、そして心のどこかで湧き上がる可能性への期待が、彼を動かした。


「…やるしかないよな。」彼は深呼吸をし、サクラノの手を握りしめた。


その瞬間、サクラノの尾から放たれた光が冬馬を包み込んだ。温かさと力強さが同時に彼の中に流れ込み、契約が結ばれた証として彼の胸に刻まれた。


「ふふっ、ようこそ、新しい未来へ。」サクラノの声が、静寂の中に響いた。




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