プロローグ あの日、俺は狐に説教された
よろしくお願い致します。
新潟市の住宅地から少し離れた建設現場は、朝も夜も静寂に包まれている。しかし、その日だけは少し違った。東雲冬馬(25歳)は、泥まみれのシャベルを握りながら、ふと空を見上げてため息をついた。
「また失敗か…。社長なんて肩書きだけ立派でも、現実はこんなもんだよな。」
一年目の建設会社経営者として、彼はすでに限界の兆しを見せていた。資金難、現場のミス、社員とのコミュニケーション問題。夢を見てスタートした会社は、いつしか彼自身をすり減らしていく存在になりかけていた。
「それにしても…政治家ってどうしてあんな無駄なことばっかりしてるんだ。俺が総理ならもっと効率よくやれるだろうにな。」
自嘲気味なその言葉は、自分だけが聞こえる空虚なものだと思った。しかし、その瞬間、背後から不機嫌そうな声が飛び込んできた。
「アンタみたいな泥まみれの若者が何を言うかと思えば、総理大臣?笑わせないでよ。」
振り返った冬馬の目に飛び込んできたのは、不思議な光景だった。紅色のふわりとした尻尾、輝く狐の目。そして、その狐は明確に言葉を発している。
「えっ、なんだこれ!?狐が喋った…?それに、なんでツッコミまで入れるんだ?」
「初めまして、サクラノよ。私は妖狐として、長い間この日本を見てきた。正直、腐ってるわ、この国。だから、アンタを総理にして変えてやろうと思ってるのよ。」
サクラノの言葉に冬馬は思わず笑いだした。「俺が総理?無理だろ!妖狐が政治に口出しとか、夢でも見てるんじゃないのか?」
「そう思うなら勝手にしなさい。でも、この国が沈没するのを黙って見てるわけにはいかないのよ。アンタ、真面目そうだし、面白そうだし…うん、適任ね。」
「いや適任って…!俺はただの建設会社の社長で—」
「だから若くてエネルギーがあるってことでしょうが。アンタ、本当にバカなの?」とサクラノは肩をすくめながら笑った。
冬馬は呆然としながらも、サクラノの目に不思議な力を感じ取った。この狐との出会いが、彼の人生を全く予想外の方向へと導いていくことになる…。