5歳
「己の為に使ってはいけないよ」
それは死んだ祖母が、よく言っていた。
この時のわたしは、祖母に大好きな友達を取り上げられたばかりで話をあまり聞こうとしなかった。その後はちゃんと聞いたから、ね。……別に聞こうとしなかったから、すぐさま不幸な事故や、事件が起きて祖母が死んだ。とかそんな物語によくある展開は起きることなく、祖母は96歳という大往生を迎えて亡くなった。
わたしの家は、普通の家とは違って少し変わった仕事をしていたのを物心つく前から知っていた。それを恥じたことは一度だってなく、むしろ誇りに思っていた。
6歳の誕生日を迎えたわたしは、理不尽に大好きな友達を取り上げられたことで大好きな家族に腹を立てた。だって、わたしが産まれた時から一緒にいたのに、いまさら取り上げるだなんて酷い話だと思わないかしら?
「この子を、おばあちゃんに渡してくれないかい?」
「イヤ!」
困ったように眉を寄せる祖母の顔をよく覚えている。
取られないように、腕の中の友達をぎゅうぎゅうと抱きしめる。満5年間抱きしめ続けた友達は、くたくたの、よれよれであったが頼りがいがあり、いつだってわたしの心を守ってくれた温もりは変わらない。
「このまま此処にいれば、その子はお前を傷つける」
「そんなことない! そんな酷いこと言うなんて、嫌いっ!」
酷いことを言われた事実と、自分が酷いことを言った事実に、じわじわと鼻が痛くなってきて、その現実に耐えられるわけもなく、わんわんと叫び声をあげて泣いた。それは、もう、今思い出しても恥ずかしくなるほど喚いて、穴という穴から、いろんなものを垂れ流した。わたしを慰めるように涙を受け止める友達は、もう覚悟を決めているようだった。
そんな表情を見たわたしの気持ちは、驚くほど落ち着いた。
最後の別れとして、力強く友達を抱きしめる。
「――、――――――」
この時わたしは、何を言ったのか覚えていない。このあとすぐに祖母に謝り、友達を託した。
それでも、別れを耐えることのできなかった幼いわたしは、やかんが沸騰するように、かんかんに騒ぎに騒いで、すぐさま眠ってしまったのだった。