表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/33

第8話 限界バトル~血で血を洗う戦い~


 俺が毒耐性を鍛えるには、死なない程度の毒で在る必要がある。

 だが、毒素が少なすぎても、成長には繋がらない。

 そこでちょうどいいのが、ミレイユの作る毒物級激マズ飯(ダークマター)というわけだ。


 俺はさっそくミレイユを専属メイドにし、毎日の食事を担当してもらうことにした。



 ◇



 そして一日目、ミレイユが俺の部屋まで飯を運んでくる。

 今度はこぼさずに持ってこれたようだ。

 

 ちなみに、毒味役はクビにした。

 毒味役にミレイユの料理を食べられたら、絶対に毒だって言われて邪魔されるからな。

 そうなったらこの作戦も無駄になる。

 

 俺の料理はどうせミレイユしか作らないのだからと父を説得して、しぶしぶ毒味役を外させたのだ。

 ミレイユは昔から使えているし、俺に対しての忠誠心もすごいから、安全だと判断されたのだ。

 それに、ミレイユ自身が毒味役を自分でやると買って出たので、親父もさすがに折れざるを得なかったようだ。

 

 俺も、ミレイユが毒味役を兼ねてくれるなら安心だ。

 そもそも毒味役が裏切ったら、いくらでも小細工できるだろうからな。例えば、毒耐性を鍛えた毒味役を用意する、など。方法はいくらでもある。

 その点、ミレイユが毒味もしてくれるのなら、信頼できる。

 

「失礼します。ゼノさま。お食事をお持ちいたしました」

「ごくろう」

「でも、本当に私なんかのご飯でよいのですか? 私、料理はこれまで他人に振舞ったことがありませんので……。美味しいかどうか……」

「大丈夫だ。ほかならぬお前の飯がいいのだ。お前でなきゃだめなんだ」

「ぜ、ゼノさま……。そこまで言ってくださるなんて……。私、嬉しいです……。私は幸せな女の子ですね。えへへ……」

 

 まずは目の前でミレイユが毒味をしてみせる。


「よし……」


 それから、俺はミレイユが持ってきたハンバーグを、さっそく口に入れた。

 その瞬間、舌に激痛がはしる。


 な、なんだこれ……!?

 覚悟はしていたが、あらためて食べるとマズすぎるだろこれ!?

 いったいナニが入っているのか、想像もしたくない。

 

 ていうかミレイユは自分ではこれを美味しく食べてるんだよな……?

 舌バグってるんじゃねえのかこの娘。

 でも、死なない程度のちょうどいい毒だ。これだ!

 

「ぐぎゃおおおおおおおおん!!!!」


 しかし俺はさっそく腹痛に襲われ、その場でのたうち回る。

 やばいめちゃくちゃ苦しい。

 死ぬ……!!!!

 

 さすがに不自然に思ったのか、ミレイユが俺に駆け寄る。


「だ、大丈夫ですか!? やはりお口に合わなかったのでは!?」


 ここで不味いなどと言ってしまったら、今後作ってもらえなくなる可能性がある。

 なんとか取り繕わないと。

 

「いや、大丈夫だ。これは美味しすぎて腹の虫が喜んでいるだけだ」

「お腹に虫がいるんですか? 大丈夫ですか……? どんな虫ですか? 虫さんがトコトコ歩いているのですか?」

「いや、比喩だ……」

「比喩……ですか……すみません、学がないもので……」


 あかん、もしかしてこの娘……料理以外も思ったよりポンコツなのかもしれん……。

 でも専属メイドにしちまったし……今後は他のことでもいろいろ世話になるんだよな……。

 今更他のメイドにやってもらうわけにはいかない。

 この先が思いやられるな……。


 俺はすぐさまトイレにかけこんで、数時間うなされた。

 トイレから出たあとも、なおも腹の痛みはおさまらない。

 

 そうこうしているうちに、俺は意識を失った。


 

 ◇



 次に目が覚めると、丸一日が経過していたようだった。

 だが、ちゃんと毒耐性は上がっている気がする。

 前よりも体がだいぶ楽だ。

 それに、やはり毒で寝込むと、俺自身の体力も成長するようだった。

 よし、この調子で毎日これを繰り返せば、俺はいずれ毒耐性でも、体力でも最強になれるな……!


「よっしゃあ! 勝機は(ここ)にあり!」

 


 ◆


 

【side:ガスパール視点】 

 

 

 俺は見たんだ、嘘じゃねえ、あのガキ、とんでもねぇぜ……。

 なんかおかしいと思ったんだよな……。

 数日おきにしかやってこねえと思ったら、とんでもねえ修行してやがった。


 それは昨日のこと――。

 

 俺が使用人小屋からゼノぼっちゃんの部屋を見ていると、そこにはもだえ苦しむゼノさまの影が――。

 そして、聞こえてくるのは断末魔の叫び。


『ぐぎゃおおおおおおおおん!!!!』


 いったいどれほどの修行をすれば……あんな声が出るんだ……?

 なにが行われているというんだ……?

 自分の肉体を切り刻み、再生魔法で超回復でもさせているのだろうか。

 そうでもないとあんな狂気じみた叫び声になどならない。

 想像するだけで恐ろしい。


 まさかあの修行をしているおかげで、この短期間であれだけの体力をつけたとでもいうのだろうか?


 なるほど、ゼノぼっちゃんは本気ということか……。

 だったら俺も本気で教えよう。

 そりゃあれだけ負荷をかけていれば、数日寝込むはずだ。

 急な成長にもうなずける。

 

 むしろ、数日で回復してくるところがさすがの才能だな。

 しかし、あの断末魔が出るほどの修行はなんなんだ?

 あれは貴族に伝わる禁術の類か?


 

 ◆



 数日後、修行にやってきたゼノぼっちゃんに、俺は例の修行について尋ねた。


「ずいぶん暴れまわっていたようですね? この前。部屋からすごい声が聞こえてきましたよ」

「ふん。あれを聞かれていたのか……。まあな……。たしかにあの日はかなり手ごわかった。数時間は粘ったよ」

「そうか……数時間にも渡る死闘……。さすがはゼノぼっちゃんだ。それだけの強敵だったのですね……」

「強敵……? ああ、まあ……。硬かったな……。さすがに血が出た」

「りゅ、流血まで……! それは……厳しい修行ですな……」

「……? まあ、ある意味修行だな……」

「なんと、あの程度は修行ともみなさないのですね……。感服いたします」

「……? 雑談はいいから、さっさと修行をはじめるぞ」

「はい……!」


 俺もゼノぼっちゃんを見習って、ますます精進せねばいかんな。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ