第8話 限界バトル~血で血を洗う戦い~
俺が毒耐性を鍛えるには、死なない程度の毒で在る必要がある。
だが、毒素が少なすぎても、成長には繋がらない。
そこでちょうどいいのが、ミレイユの作る毒物級激マズ飯というわけだ。
俺はさっそくミレイユを専属メイドにし、毎日の食事を担当してもらうことにした。
◇
そして一日目、ミレイユが俺の部屋まで飯を運んでくる。
今度はこぼさずに持ってこれたようだ。
ちなみに、毒味役はクビにした。
毒味役にミレイユの料理を食べられたら、絶対に毒だって言われて邪魔されるからな。
そうなったらこの作戦も無駄になる。
俺の料理はどうせミレイユしか作らないのだからと父を説得して、しぶしぶ毒味役を外させたのだ。
ミレイユは昔から使えているし、俺に対しての忠誠心もすごいから、安全だと判断されたのだ。
それに、ミレイユ自身が毒味役を自分でやると買って出たので、親父もさすがに折れざるを得なかったようだ。
俺も、ミレイユが毒味役を兼ねてくれるなら安心だ。
そもそも毒味役が裏切ったら、いくらでも小細工できるだろうからな。例えば、毒耐性を鍛えた毒味役を用意する、など。方法はいくらでもある。
その点、ミレイユが毒味もしてくれるのなら、信頼できる。
「失礼します。ゼノさま。お食事をお持ちいたしました」
「ごくろう」
「でも、本当に私なんかのご飯でよいのですか? 私、料理はこれまで他人に振舞ったことがありませんので……。美味しいかどうか……」
「大丈夫だ。ほかならぬお前の飯がいいのだ。お前でなきゃだめなんだ」
「ぜ、ゼノさま……。そこまで言ってくださるなんて……。私、嬉しいです……。私は幸せな女の子ですね。えへへ……」
まずは目の前でミレイユが毒味をしてみせる。
「よし……」
それから、俺はミレイユが持ってきたハンバーグを、さっそく口に入れた。
その瞬間、舌に激痛がはしる。
な、なんだこれ……!?
覚悟はしていたが、あらためて食べるとマズすぎるだろこれ!?
いったいナニが入っているのか、想像もしたくない。
ていうかミレイユは自分ではこれを美味しく食べてるんだよな……?
舌バグってるんじゃねえのかこの娘。
でも、死なない程度のちょうどいい毒だ。これだ!
「ぐぎゃおおおおおおおおん!!!!」
しかし俺はさっそく腹痛に襲われ、その場でのたうち回る。
やばいめちゃくちゃ苦しい。
死ぬ……!!!!
さすがに不自然に思ったのか、ミレイユが俺に駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!? やはりお口に合わなかったのでは!?」
ここで不味いなどと言ってしまったら、今後作ってもらえなくなる可能性がある。
なんとか取り繕わないと。
「いや、大丈夫だ。これは美味しすぎて腹の虫が喜んでいるだけだ」
「お腹に虫がいるんですか? 大丈夫ですか……? どんな虫ですか? 虫さんがトコトコ歩いているのですか?」
「いや、比喩だ……」
「比喩……ですか……すみません、学がないもので……」
あかん、もしかしてこの娘……料理以外も思ったよりポンコツなのかもしれん……。
でも専属メイドにしちまったし……今後は他のことでもいろいろ世話になるんだよな……。
今更他のメイドにやってもらうわけにはいかない。
この先が思いやられるな……。
俺はすぐさまトイレにかけこんで、数時間うなされた。
トイレから出たあとも、なおも腹の痛みはおさまらない。
そうこうしているうちに、俺は意識を失った。
◇
次に目が覚めると、丸一日が経過していたようだった。
だが、ちゃんと毒耐性は上がっている気がする。
前よりも体がだいぶ楽だ。
それに、やはり毒で寝込むと、俺自身の体力も成長するようだった。
よし、この調子で毎日これを繰り返せば、俺はいずれ毒耐性でも、体力でも最強になれるな……!
「よっしゃあ! 勝機は毒にあり!」
◆
【side:ガスパール視点】
俺は見たんだ、嘘じゃねえ、あのガキ、とんでもねぇぜ……。
なんかおかしいと思ったんだよな……。
数日おきにしかやってこねえと思ったら、とんでもねえ修行してやがった。
それは昨日のこと――。
俺が使用人小屋からゼノぼっちゃんの部屋を見ていると、そこにはもだえ苦しむゼノさまの影が――。
そして、聞こえてくるのは断末魔の叫び。
『ぐぎゃおおおおおおおおん!!!!』
いったいどれほどの修行をすれば……あんな声が出るんだ……?
なにが行われているというんだ……?
自分の肉体を切り刻み、再生魔法で超回復でもさせているのだろうか。
そうでもないとあんな狂気じみた叫び声になどならない。
想像するだけで恐ろしい。
まさかあの修行をしているおかげで、この短期間であれだけの体力をつけたとでもいうのだろうか?
なるほど、ゼノぼっちゃんは本気ということか……。
だったら俺も本気で教えよう。
そりゃあれだけ負荷をかけていれば、数日寝込むはずだ。
急な成長にもうなずける。
むしろ、数日で回復してくるところがさすがの才能だな。
しかし、あの断末魔が出るほどの修行はなんなんだ?
あれは貴族に伝わる禁術の類か?
◆
数日後、修行にやってきたゼノぼっちゃんに、俺は例の修行について尋ねた。
「ずいぶん暴れまわっていたようですね? この前。部屋からすごい声が聞こえてきましたよ」
「ふん。あれを聞かれていたのか……。まあな……。たしかにあの日はかなり手ごわかった。数時間は粘ったよ」
「そうか……数時間にも渡る死闘……。さすがはゼノぼっちゃんだ。それだけの強敵だったのですね……」
「強敵……? ああ、まあ……。硬かったな……。さすがに血が出た」
「りゅ、流血まで……! それは……厳しい修行ですな……」
「……? まあ、ある意味修行だな……」
「なんと、あの程度は修行ともみなさないのですね……。感服いたします」
「……? 雑談はいいから、さっさと修行をはじめるぞ」
「はい……!」
俺もゼノぼっちゃんを見習って、ますます精進せねばいかんな。