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第6話 勘違いが冴えて悔しいわ


 ガス先生と修行をし、その後毒キノコを食っては倒れて……そのあと寝込んで回復――。

 俺はそんな毎日を繰り返していた。

 はっきりいって、はたから見れば頭おかしいだろう。

 だんだんメイドの監視もきつくなってきていて、毒キノコを食うにも一苦労だ。


 ある日のこと、俺がいつものように毒キノコを拾いに庭へいくと……。

 なんと、とんでもないことが起こっていた。

 庭にあれほど生えていたはずの、あの謎のキノコが、ひとつ残らず消えているのだ。


「ど、どういうことなんだ……!?」


 俺が呆然としていると、メイドたちがどこからともなく現れた。

 くそ……つまりこいつらずっと俺のこと監視してたのか……!?

 

 メイドたちを率いているのは、若き美人メイド長のマーサだ。

 マーサは背が高くスタイル抜群で、金髪のポニーテールが特徴的なメイド長。

 白いニーソがムチムチの太ももに描き出す絶対領域が今日も美しい。

 

 マーサが険しい顔で俺に説明する。


「ゼノさまがあまりにも何度もあの毒キノコを食べてしまわれるので、私たちのほうで駆除しました」

「な、なんだってぇええええええ!?」


 いくら止めても俺が毒キノコを食べてしまうから、強硬手段に出たということか……。

 っく……まさか……そこまでやるとは考えていなかった……。

 てかそこまでされるってことは、俺、完全にアホの子だと思われてる……?

 

「当然のことです。ゼノさまの健康を考えれば、あんなもの百害あって一利なしですからね。旦那さまに許可をもらって、キノコをすべて刈り取りました。こうすれば、もはやゼノさまが毒キノコを食べて倒れられる心配はありません!」

「な、なんてことを……じゃあ俺はこれから何を食べればいいんだ……」

「お食事なら毎日私たちがきちんと栄養価を考えたものを用意しているではありませんか! それを食べてください!」

「くぅ……違う、違う……そうじゃ、そうじゃないんだよぉ……。俺にはアレが必要だったんだぁ……」

「まったく、なにをおかしな考えにとりつかれているのですか? 旦那さまも、ゼノさまの奇行に心配されていましたよ?」


 ちょうどいい感じの毒素で、食べてすぐにぶっ倒れられるから、あの毒キノコが修行にはベストだったんだよなぁ……。

 いい感じに俺の中の毒耐性もついてきてて、最近では2日かからずに目覚められていたのに。

 あの毒キノコがなかったら、他に効率よく毒を接種する手段がないじゃないか……。

 クソ……。


 他になにか手軽に毒を接種するいい方法はないだろうか……?

 ジャンガイモでも毒素を接種できるだろうが、今の俺となってはあの程度の毒だと物足りないしな……。

 それに、どうせジャンガイモもメイドに没収されていて手に入らないだろう。

 もっと効率よく毒素を手に入れたい。

 

 そうだ、記憶を取り戻して最初に俺が倒れたのって、『地面に落としたケーキを食べたから』だったよな?

 けど、ある程度毒耐性がついてきた今の俺が、地面に落ちたものを食ったくらいではもはや倒れるまではいかないだろう。

 

 ――ていうかそもそも、おかしくないか……?


 あの時だって、さすがに、いくら俺が毒や菌に弱いからといって、たかだか地面に落ちたものを食ったくらいで、気絶するまでに至るだろうか……?

 そんなおかしな話は、前世でもきいたことがない。

 あの時は俺も記憶を取り戻したばかりだったし、いろいろと混乱していて、あまりよく考えていなかったが……。

 

 よく考えたらおかしい。

 おかしすぎる。

 もっと早くこの違和感に気づくべきだった。

 つまり、俺があのとき倒れた原因は、落ちたものを食べたからではない。

 

 あのときミレイユが運んでいた、あのケーキそのもの(・・・・・・・)にあるんだ。


 ってことは……あの誕生日ケーキに毒が含まれていたのか?

 じゃあ、ミレイユが俺を毒殺しようとしていたってこと……?

 いや、そんなはずはない。

 それならあのケーキから毒物が検出されて、すでにミレイユは処罰されているはずだ。


 それに、メイドが白昼堂々と俺のケーキに毒物を入れるようなことはしないだろう。

 あまりにも手段がおそまつすぎる。

 いったいどういうことなんだ……?

 俺はその場にいるメイド長のマーサに確認をとることにした。


「なあ、マーサ……ちょっと聞きたいんだが……」

「なんでしょう? ゼノさま」

「ちょっと前に、俺が地面に落ちたケーキを食べて、気絶したことがあったよな?」

「ええ。ミレイユが運んでいたケーキですね。覚えていますとも。あの日、倒れられてから、ゼノさまはキノコにとりつかれておかしな行動を繰り返すようになられましたから……」

「あのケーキってさ。もともとは誰が食べる予定のものだったんだ?」


 そう、俺はあまりにもの傲慢不遜な性格のせいで、思い込んでいたのだ――屋敷にある高級ケーキは、すべて俺のために用意されたものなのだと。

 当然のように、なんの疑いもなく、そう信じ込んでいた。

 俺はそれほどまでに傲慢不遜で、甘やかされて育った貴族のガキだったのだ。

 

 それが見えない落とし穴になっていた。

 そう、誰も最初から、あのケーキが俺のために用意されたものだなどとは、一言も言っていないのだ。

 運んでいたミレイユでさえ、一言も。

 

 マーサは答える。


「ああ、あれは……ミレイユが自分で作って、自分で食べるように運んでいたものだったらしいんです。あの子、最近お菓子作りにハマっていたみたいで……。でもそのせいでゼノさまが寝込んでしまうことになったって、ひどく落ち込んでいました……」

「やっぱりか……なるほどな……」

「なにがですか……?」

「いや、こっちの話だ。気にするな」

「ゼノさま……またおかしなこと考えてます?」

「いや、考えてるのはお菓子(かし)のことだ」

「やっぱりどこかおかしいようですねぇ……?」


 俺は自分の記憶のページを手繰り寄せて、あのときのミレイユのセリフを思い出す。

 高級ケーキを地面にぶちまけたとき、ミレイユはなんと言ったか?

 

『ど、どうしましょう……せっかくの最高級ケーキを無駄にしてしまいました……。はわわ……私の3か月分のお給料がぁ……』


 このセリフ、ミレイユが自分で自分用の高級ケーキをつくり、用意したものだとすれば、辻褄が合う。

 あれは普通の下っ端メイドの給料で用意できるレベルのケーキじゃない。

 しかし、ミレイユはなんとか3か月分の給料を貯めて、高級な材料を揃え、自分でケーキを作ったんじゃないのか……?

 ミレイユがお菓子好きだったとして、下っ端メイドの給料じゃあいくら3か月貯めても店でケーキを注文するには高すぎる。

 だが、自分で材料を買って作れば、それなりのものが用意できる。


 じゃあ、あれは俺へのケーキが台無しになって落ち込んでいたわけじゃなく……あくまで自分の食べる分のケーキが台無しになって落ち込んでいたってことなのか……!?

 まったく……食いしん坊さんめ……。

 いや、そもそも俺が傲慢すぎるってのもあるな……。


 じゃあ、あのときのミレイユのセリフ……全部意味が変わってくるぞ……。


『あぅ……(わ、私のケーキがぁ)――じゃなかった! そうじゃなくて、えーっと……。い、いけません! そんなものを食べては……! き、汚いです!』


 ミレイユはそう言って、俺が落ちたケーキを食べるのを止めた。

 もしかして、せっかくの自分用のケーキを俺にとられると思ったから止めたのか……?

 あのとき『私のケーキが』って言ってたのは、俺の聞き間違いではなかったのか。

 ようやく意味がわかった。

 だとしたら、マジでただの食い意地の張った子供みたいな奴だな……。

 

 ミレイユのことだから、あとでこっそり拾って食うつもりだったとか……?

 いや、まあ普通に俺の身を案じていた部分もあるのだろうが……。

 でも、あらためて思い返すと、そういうふうにも聞こえてしまう。

 

 俺が腹痛で苦しんで、倒れる寸前に交わした言葉もそうだ。


『だってぇ……もったいないしぃい……ミレイユが喜ぶと思ったからぁあああああ……いてええええ!!!! 死ぬううううう!!!!』

『どういう理屈なんですかぁああ……!? なんでそれで私が喜ぶんです!?』


 そりゃあミレイユからしたら、せっかくの自分のケーキを俺に食われて、喜ぶはずがないもんな……。

 だから俺の言っている意味がわからずに、どういう理屈なんだそれ?ってなったんだ。

 これですべてに合点がいく。

 間違いない、あのケーキはミレイユが自分の誕生日に、自分で用意したものなのだ。

 

 なんという叙述トリック……!

 なんという勘違い……!


 俺はマーサに、さらに重要なことを確認する。


「なあ、マーサ。ミレイユの誕生日っていつだ?」

「2月17日です。ちょうど、ミレイユがケーキを運んでいた日ですね……。きっと自分用の誕生日ケーキをこっそり作って、一人で食べるつもりだったんでしょう。まったく、食い意地の張った子ですよね。下っ端メイドの分際で貴族様が食べるような高級ケーキなんか欲張るから、きっとバチが当たったんですよ」

「いや別に自分の給料で作って食べる分にはなにも問題ないとは思うが……」


 そこは転生者である俺と、こっちの世界の人とは価値観が違うのだろうか。

 普段真面目で温厚なマーサの口から出る言葉としては、少々意外だった。

 だが、ミレイユの誕生日は思った通り、俺と同じ2月だ。

 

「ですから、ゼノさまがぶつかったことを気に病む必要はないんですよ? ゼノさまのお誕生日ケーキは、ちゃんと8ヶ月後(・・・・)のパーティーで用意されますから」

「ああ……そうか……。って……ん……? 8ヶ月後……? お前今、8ヶ月後って言ったか?」

「はい……そうですけど……。8ヶ月後……10月ですよね?」

「待て待て待て待て……。俺の誕生日って2月の28日だよな……???? お前、忘れたのか?」


 俺の誕生日は確かに2月のはずだ。

 だからこそ、俺はミレイユの運んでいたケーキを自分のものだと勘違いしたのだから。

 そこの前提が間違っていると、おかしな話になる。

 しかしマーサはまるで俺がからかっているとでもいうように、笑いながら答えた。

 

「またまた~ご冗談を。私を試しても無駄ですよ? メイド長のこの私が、ゼノさまのお誕生日を忘れるわけがないじゃないですか。ゼノさまのお誕生日は、10月の23日です」

「はぁ~~~~???? ど、どういうことだ……????」

 

 さすがの俺も、自分の誕生日を忘れるほどアホではない。

 だって生まれてから、毎年、18回も祝ってきたんだからな――。

 ――そこまで考えて、俺はようやく自分の間違いに気づいた。


 18回……?

 今こっちの世界で俺は11歳だよな……?

 つまり……。


「ぜ、前世の誕生日かぁ……!!!!」

「ぜんせ……? なんです? それは?」

「い、いや……なんでもない。こっちの話だ」


 そう、2月28日は、前世での、現代日本で生きていたころの誕生日だ。

 そっちのほうが長かったせいもあって、すっかり混同していた。

 

 じゃあつまり、あれが俺への誕生日ケーキであるはずがない……。

 いくら俺が貴族のぼっちゃんでも、わざわざメイドが自腹で、なんでもない日にケーキを贈るわけもない。


 つまり、あのケーキに毒なんか入ってるはずがない(・・・・・・・・・)

 

 ちょっと待て、情報を整理しよう。

 俺はミレイユが自分用に作ってたケーキを食って気絶した。

 自分用のケーキに毒なんか仕込むはずもないし……じゃあなんで俺はあのケーキで気絶したんだ……?


 俺はある可能性に思い至る。

 しかし、もしそうだとすると……あまりにもベタな……。

 

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