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第5話 寝逃げでリセット【side:ガスパール視点】


 【side:ガスパール視点】

 

 

 このままあの怪物を育てちまったら、いずれ世界は破滅に陥るだろう。

 でも、俺はそうなったとしても、あの怪物の成長を見てみたい……そう思ってしまっていた。



 ◇


 

 ――だが俺の心配も必要なかったようで、ゼノぼっちゃんは翌日の修行時間にやってこなかった。


 なんだ……もう飽きたってのか。

 やっぱ、怠惰なお貴族様は違うねぇ……。

 ちょっと残念な気もするが、まあ世界の命運を考えれば、これでよかったのかもな。


 俺は待機用に用意された自分の部屋でダラダラと過ごすことにした。

 一応、教師契約はまだ続いているからな。

 職務放棄するわけにはいかん。



 ◇


 

 すると2日くらいして、ゼノぼっちゃんは再び修行にやってきた。

 もう来ないのかと思っていたが、どうやらまだやるつもりらしい。

 いったいどういうつもりなんだ?


「ゼノぼっちゃん。お久しぶりですね。逃げたのかと思いましたよ」

「バカを言え。少し寝込んでいただけだ」

「……? ご病気だったのですか?」


 そういえば、このぼっちゃんは身体が弱いんだったっけか。

 先週も、何度か寝込んでいたような話をメイドからきいたな。


「ちょっとな……。食い物にあたってな」

「ぼっちゃんほどの才能があっても、腹の痛みには勝てませんか」

「それはいいから、とっとと修行をはじめてくれ」

「はいはい。では、今回もまずは一戦。お手合わせ願いましょうか!」

「よし!」


 俺たちはまた、模擬戦で刃を交えた。

 だが……いったいどういうことだ……?

 この前とはまるで別人だ。

 なんか、さらに動けるようになってねぇか!?


 俺がいくら消耗戦を仕掛けても、ゼノぼっちゃんはいっこうにバテる気配がない。

 あれほどすぐに息を切らしていたというのに、今回は顔色一つ変わっていない。

 こんな短期間で、これほどまでに体力をつける方法なんて……あるのか……?


 いや、そもそも寝込んでいたはずだろ!?

 修行する余地なんてなかったはず。

 だったらいったいどうやって……!?

 これが若さと才能ってやつなのか……!?

 末恐ろしいぜ……。


 それから数時間もの攻防の末、俺は剣を地面に落とした。

 俺の首元に、ぼっちゃんの刃がかざされる。


「今度は俺の勝ちだな」

「ま、参りました……」


 まさか、3年かかるどころか……ほんの数日で負けるようになるとはな……。

 だが、俺は悔しく思うどころか、すでにヤツの剣技に魅了されていた。

 俺は決めたぜ。

 

 もしゼノぼっちゃんが最強の怪物になって、最悪の領主になろうとも……俺はこの人が作る世界を見たい。

 俺は、最強となったゼノぼっちゃんがなにを成し遂げるのか、それを見届けるまでは……死ねやしねぇ……。


 俺も一から鍛え直さなきゃな。



 ◆



 時は遡り、修行初日――。

 

 

【side:ゼノ視点】

 


 ガス先生との剣術修行初日は、俺の負けに終わった。

 やはりいくら俺に才能があるとはいっても、さすがにガス先生は強いな。

 最後は俺の体力が全然ついていかなかった。

 こりゃあ剣術だけじゃなく、ちゃんと体力もつけていかないとダメだなぁ。


 もちろん、大本命の【毒耐性】を鍛えることも、続けてやっていかなくてはならない。

 ちょうど模擬戦で体力を消耗して、このまま寝てしまいたい気分だった。

 ちょうどいいから、睡眠薬かわりにまた毒キノコでも食うか。

 いい感じに気絶して、起きたら体力も回復しているだろう。


 俺はまたメイドの目を盗んで、庭の毒キノコを貪り食った。

 あれからメイドたちが俺の奇行を監視するようになって、なかなか一人になれないのが困りものだ。

 毒キノコを食べていると、またメイドたちに見つかって、俺はまたメイドの膝の上で気を失った。


「ぜ、ゼノさまぁ~~~!? またですか……!? いったいどういうおつもりなんですかあああ!?」



 ◇



 毒キノコでの気絶から目覚めると、二日ほど経っていた。

 気のせいか、前回倒れたときよりも目覚めがいい。

 ずっと寝ていたせいか、剣術修行での疲れもちゃんと癒えている。

 

「よし、これならまた修行を再開できるな」


 そういえばガス先生には何も言わずに二日も寝てたから、もしかしてサボりと思われたかな?

 だとしたら、俺って初日で飽きて辞めるやる気のない傲慢貴族みたいに思われてる可能性があるな……。

 メイドたちがちゃんと事情を説明してくれているといいんだが……。

 いや、説明されても、毒キノコを自分で食って、ぶっ倒れてたっていわれても余計に意味不明だよな……。


 ガス先生に嫌われるのは避けたいんだがなぁ。

 毒殺フラグの件もあるし、なるべく人の恨みは買いたくない。

 まあ、あとでしっかり修行に励んで、やる気のあるところをアピールするか。

 幸いにも、俺の才能は買ってくれているみたいだし。

 

 俺はさっそく剣を持ってガス先生の待つ修行場にいこうとする。

 そのとき、俺はあることに気づいた。


「あれ……? なんかこの前よりも剣が軽い……?」


 そんな、数日しかたっていないのに、しかもまだ模擬戦をしただけなのに……修行の成果なんて出るものだろうか?


「ていうか、身体全体が軽い気がするぞ……? どういうことだ……?」


 俺ってこの二日、ただ寝てただけなんだけどなぁ……?

 寝る子は育つっていうけども……まさかな……。

 毒で倒れたことによって体が普通よりも早く超回復したのか?

 なんだかわからないが、今日は前回よりも長く戦えそうだ。

 

 自分の身体を触ってみても、なんだか少し筋肉がついている気がする。

 それに、軽く走ってみても、前みたいに息切れしない。

 虚弱体質を治すためにも、体力つくりはしていこうと思っていたが……まさか寝ていただけでこんなに成長するとはな……。

 毒耐性をつけるための【毒食】だったが、もしかしたら肉体の成長にもつながるのかも……?

 

 だとしたら、一石二鳥だな。

 ますます毒をいっぱい食っていくしかねぇ!

 俺は今の自分の力をはやく試したいワクワク感でいっぱいで、ガス先生のいる修行場まで、走っていくのだった。



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